大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

技術研究トレンド

技術トピックス

脱炭素社会の実現に向け、⽊材利⽤促進を⽬指して開発した「⽊鋼ハイブリッドブレース」

脱炭素社会の実現は、地球規模での⼤きな課題です。国内でもカーボンニュートラルや林業再⽣、地⽅創⽣の観点から、建築物への国産材の利⽤が急務となっています。
⼤和ハウス⼯業では、課題解決につながる取り組みのひとつとして、⼤型物件への⽊材利⽤に着⼿し、第⼀弾として2019年に「⽊鋼ハイブリッドブレース」を開発しました。本記事では、⽊鋼ハイブリッドブレースの技術や活⽤による効果、当社が⽬指す脱炭素社会にむけた将来像についてご紹介します。

⽇本で初めて拘束材に集成材を利⽤した「⽊鋼ハイブリッドブレース」とは

⽊鋼ハイブリッドブレースは、芯材に鉄⾻を、拘束材に⽊材を使う、鉄⾻と⽊材を組み合わせた座屈拘束ブレースです。座屈とは、部材が⼀定以上の荷重を受けると、⼤きくたわむ現象のことをいいます。ブレースに⼒がかかったときに座屈するのを防ぐために、「芯材」を「拘束材」で挟んだものが、「座屈拘束ブレース」です。

⽊鋼ハイブリッドブレースは、拘束材に⽊材を⽤い、地震時に圧縮⼒が作⽤しても座屈しない優れた耐震性能がある座屈拘束ブレースとして2019年に誕⽣しました。
通常、拘束材にモルタルなどが⽤いられているブレースは建物の隠ぺい部に設置することが多いのですが、⽊材を⽤いたこのブレースは意匠性にも優れているため、⼈の⽬に触れる場所に設置することもできます。

木鋼ハイブリッドブレース コンセプト動画

開発に⾄った背景~⽊材利⽤の現状と利⽤促進への動き

脱炭素に向けた建築技術の開発が急務

脱炭素社会の実現は地球規模で取り組むべき課題となっています。SDGsやサステナビリティに関する取り組みを⾏う企業も増えています。しかし建築物の視点から⾒てみると、国内のオフィスビルや建築物の多くは環境や脱炭素への対策が⼗分なされておらず、更なる対策が求められています。
こうした課題を解決するためには、CO2を固定する効果のある⽊材をビルなどの⼤型物件に使⽤するための構造技術の開発が必要ではないかと考えました。

CO2吸収量を維持するために必要な「森林循環」

⽇本は国⼟の約3分の2が森林であり(※)、⼀般にCO2の吸収量は多いと考えられています。しかし、成⻑期を過ぎた樹⽊はCO2の吸収量が⼩さくなるため、適切に⽊を伐採し、若⽊を育成するという循環を作っていかなければ、森林が吸収しているCO2の量が年々低下してしまいます。⽇本では、戦後植栽されたスギやヒノキ、カラマツといった⽊が、今主伐期を迎えており、これらの⽊材をうまく活⽤していく必要があるのです。

法律の施⾏が後押しとなり、⽊材活⽤技術の開発へ!

地球規模では「脱炭素」、「カーボンニュートラルへの対応」、国内では「健全な森林循環」が重要になるのと並⾏して、2010年10⽉には「公共建築物における⽊材の利⽤の促進に関する法律」が施⾏されました。これにより、それまで⼾建住宅が中⼼だった⽊材利⽤を、⼤型物件にも適⽤する動きが建築業界内で広がるようになりました。

こうした背景を受けて、⼤和ハウス⼯業では課題解決のために「何ができるか」を考えた結果、⼤型物件にも対応できる⽊材活⽤技術を開発していくことにしました。
その第⼀弾として着⼿したのが「⽊鋼ハイブリッドブレース」です。
当社の強みである「鋼構造」と、脱炭素、CO2削減に効果のある「⽊材」を組み合わせるという、当社としても初の技術開発に着⼿しました。

「⽊鋼ハイブリッドブレース」の3つのメリット

私たちが開発した⽊鋼ハイブリッドブレースには、⼤きく3つの価値があると考えています。

国産材利⽤により林業再⽣・森林循環・地⽅創⽣の実現に寄与

国産材の活⽤を広げるためには、⽊材の付加価値を⾼め、⽊材活⽤の可能性を広げることが必要です。⽊鋼ハイブリッドブレースの開発では、⽊材に「モルタルに代わる拘束材」という新たな価値を⾒いだすことができました。今後、多くのビルで⽊鋼ハイブリッドブレースが使われるようになれば、国産材の利⽤量をさらに増やすことにもつながるでしょう。
国産材の需要の⾼まりは、適切な伐採、栽植・育成、⽊材の活⽤という「森林循環」をつくり出します。⽇本の林業が再⽣し、またそれによって若い⼈の就業機会が増えれば、地⽅創⽣にも寄与できるのではないかと考えています。

林業に携わる⽅たちの、「もっと⽇本の⽊材を多くの建築物に利⽤してほしい」という期待にも応え、⽇本の林業を元気にする。⽊鋼ハイブリッドブレースはそんな可能性も秘めていると考えています。

企業の「サステナビリティ」に対する取り組みをより推進

当社従来技術との⼆酸化炭素排出量⽐

各企業がSDGsやサステナビリティに取り組もうとしている昨今、そのニーズにあった建築物の提供も、建設会社の⼤きな役割と⾔えます。
座屈拘束材に⽊材を使⽤することで、鋼材やモルタルを使⽤した場合に⽐べて、ブレース製造過程でのCO2発⽣量を65%削減することができます。また、森林を循環させ健全に保つことは、森林のCO2吸収量を⾼めることにつながります。
製造過程でのCO2削減と森林保全の両⾯で、カーボンニュートラルへアプローチすることができます。

⽊鋼ハイブリッドブレースを建築物に使うことで、企業が求める「⽊材を積極的に利⽤した環境配慮型の建築物」の需要に応え、SDGsやサステナビリティに取り組む企業を⽀援することができると考えています。

⽊のぬくもりを感じる「癒やしの空間」の効果で、⽣産性向上にも期待

座屈拘束材にヒノキなどの⽊質材料を⽤いた⽊鋼ハイブリッドブレースであれば、⽊のぬくもりを感じられる癒やしの空間づくりをすることができます。⽊材が使われている空間は⼈へのリラックス効果ばかりでなく、作業性や業務効率を⾼める効果もあるといわれており、職場の⽣産性向上につながる可能性も秘めています。

⽊鋼ハイブリッドブレースのある空間で過ごすことで、作業に集中できたり、⽊のぬくもりで癒やされたりするなど、忙しい現代⼈の⼼⾝への良い影響も期待できます。

開発秘話「⽊鋼ハイブリッドブレース」が完成するまで

⽊鋼ハイブリッドブレースは、数多くの試⾏錯誤とサプライヤーさまのご協⼒により完成した技術です。

誰も実⽤化できなかった技術にチャレンジ

「⽊材で鉄⾻ブレースの芯材を拘束する」という発想は以前からありましたが、これまで実験は⾏われても、実⽤化までには⾄っていませんでした。
⼤和ハウス⼯業にとっても鋼材と⽊材を組み合わせた技術開発は初めての試みであり、どうなるのかまったくわからない⼿探りの状態から開発をスタートしました。

⽊の性質を⾒極め、安全性を確保

ブレースには構造物の安全性を確保する、という⼤切な役割があります。⽊材は構造的に注意すべき点が数多くあり、加⼯においてもさまざまな技術や⼯夫を重ねました。
例えば、⽊材は繊維の⽅向で強度が異なるため、適切な補強を⾏う必要があります。
数多くの実験を⾏いながら、構造安全性を確保するための仕様を検討。みらい価値共創センターに採⽤されたブレースにおいては、実⼤のブレースを⽤いた実験も⾏いました。

空間を演出するためこだわった意匠性

もうひとつこだわったのが、⽊の美しさを⽣かした意匠性です。集成材の⽊⽬をそろえる、継ぎ⽬が表⾯に出ないようにする、ボルトが表から⾒えないようにするといった数々の⼯夫を施し、「空間を演出する」ブレースを作り上げました。

齋藤⽊材⼯業株式会社さまや、⻄垣林業株式会社さまにご協⼒いただき、デザイン的にも満⾜できるものが完成し、業界初の「⽊材を活⽤したブレース」の実⽤化にたどり着くことができました。

将来への期待を込めたウッドデザイン賞を受賞

2020年には⽊鋼ハイブリッドブレースがウッドデザイン賞2020を、2021年には⽊鋼ハイブリッドブレースを採⽤した「⼤和ハウスグループ みらい価値共創センター」がウッドデザイン賞2021を受賞しました。

⼤和ハウスグループ みらい価値共創センター

開発当初は「本当にニーズがあるのか」、「こうした取り組みがどこまで求められるのか」といった不安もありました。
しかし、鉄⾻造建物への⽊材利⽤としてブレースに集成材を活⽤した点、⽊質感を感じられる点、⼆酸化炭素固定効果の可視化の実現がある点が評価され、ウッドデザイン賞を受賞することができました。これは、⽊鋼ハイブリッドブレースが社会から認められた証だと考えています。

また、⽊鋼ハイブリッドブレース完成のプレスリリース配信後、各界から多くの反響をいただいています。当社に建築を依頼してくださるお客さまからは、SDGsに対応した建築物を希望するという声も多く聞かれます。⽊鋼ハイブリッドブレースは今後、多くのお客さまのニーズに応えられる製品になっていくのではないかと、私たちも期待しています。

未来にむけて、脱炭素社会を実現するための⼤和ハウスグループの取り組み

⼤和ハウス⼯業の技術でできることのひとつが「⽊鋼ハイブリッドブレース」の開発でした。しかし、私たちはこれだけで満⾜しているわけでありません。

総合技術研究所では、今後「住宅だけでなく、⾼層ビルを含めた⼤型物件に対して⽊材をどのように活⽤していけるか」を重要課題ととらえています。柱、床、壁などさまざまな部位に関する技術を検討し、今後も⽊材と鉄⾻のハイブリッド製品の開発を進めていく予定です。

⼤型物件への⽊材使⽤は、安全性の観点から設計的にも難しい場合が多く、「設計負荷が⾼い」「コストがかかる」といった問題もあります。それらをクリアし、⼤型物件にもごく当たり前に⽊材が使われている未来を⽬指しています。

私たちは「環境と共に創り 環境と共に⽣きる」をキーワードとし、未来にむけて脱炭素社会を⽬指したさまざまな取り組みを⾏っていきます。

  • ※記載内容は2022年⽉4時点のものです。

研究員のセカイ

都市空間に安らぎと癒しを。日本の林業に活気を

詳しく見る

生きる歓びを分かち合える

社会の実現に向けて。

⼤和ハウス⼯業総合技術研究所に興味をお持ちの⽅へ
私たちと共に、夢ある社会を実現していきませんか?