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コラム vol.135
  • 土地活用法律コラム

古くなった賃貸住宅問題と空き家問題の解決へのヒント

第2回 建替えのために立退きをしてもらうための実務上のポイント

公開日:2016/05/18

契約期間の満了時期について

建物の賃貸借契約の期間は、原則として※1契約書で定めたとおりとなり、期間の定めがなければ、いつでも解約の申入れができ、申入れをした時から6カ月後に契約終了となります(借地借家法第27条)。
また、契約書において、最初の契約期間を2年あるいは3年と定め、その期間満了時の例えば3カ月前までに当事者双方から異議がなければ契約が自動更新されるという定めがあるにもかかわらず、更新後の期間については何も記載のない契約書がよく見受けられます。
このような場合は、借地借家法第26条第1項但書によって、当該賃貸借契約は期間の定めがないものとされ、最初の契約期間が過ぎて自動更新された後は、いつでも解約の申入れができるようになります。

※1…例外的に、期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがないものとみなされます(借地借家法第29条第1項)。

更新の拒絶について

契約期間の定めがある場合の更新拒絶は、期間が満了する日の1年前から6カ月前までの間の6カ月間にしなければなりません(借地借家法第26条第1項本文)。
この更新拒絶の期間を守らないと、裁判外の交渉や調停ならまだしも、訴訟では勝訴判決の可能性がなくなってしまいます。
このように法律で決められた期間を守って更新拒絶をしたかということが争いにならないように、更新拒絶の通知は「配達証明付内容証明郵便」で行うのがセオリーです。この点は、期間の定めがない場合に行う解約申入れについても、その申入れの時から6 カ月後に契約終了となるため、やはり同様の方法で行うべきです。

「正当の事由」について

更新拒絶も解約申入れも、(1)建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が建物の使用を必要とする事情のほか、(2)建物の賃貸借に関する従前の経過、(3)建物の利用状況及び(4)建物の現況並びに(5)建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付(立退料や代替建物のことです)をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、「正当の事由」があると認められる場合でなければ、することができないとされています(借地借家法第28条)。

要するに、前ページの(1)から(5)に列挙されているような事情を総合的に考慮して、家主側の更新拒絶や解約申入れが正当だといえる場合でなければ、その更新拒絶や解約申入れは有効だと認められず、訴訟では勝訴判決を出してもらうことができないという意味です。
なお、裁判実務上、「正当の事由」があるかどうかの判断は(1)から(5)の事情に限られるものではなく、さまざまな事情が広く考慮されていますが、その中でも基本になるのはやはり(1)の事情です。
また、(5)の立退料はその他の事情から「正当の事由」が認められるのを補完するものという位置づけとされているため、(1)から(4)などの事情が全くない場合には、いくら高額の立退料を積んだところで、「正当の事由」は認められず、勝訴判決はもらえないということになります。
「正当の事由」があるかどうかの判断は、裁判所がさまざまな事情を総合的に考慮した上での裁判所の裁量に委ねられており、その意味で、なかなか見通しが立てづらいのですが、これまでに積み重ねられてきた事例や裁判例から、考え方のヒントが見つかりますので、以下ではその中でも主な事情についてポイントを解説します。

【前述の(1)】建物の使用を必要とする事情

家主側が、当該建物を自宅としてそのまま使用しなければならなくなったというのが典型的ですが、当該建物をそのまま使用する場合に限らず、建物の老朽化に伴う建て替えや敷地の有効活用のために建て替えをする必要がある場合もこれに含まれます。
前述のように、建て替えの必要を理由とする場合には、それが具体的で現実的なものであるということをアピールするため、建築図面や収益計画を策定しておくことが必要になります。
他方で、ご入居者側については、現にその貸家を住居や店舗などとして使用していれば、一応「建物の使用を必要とする事情」があるといえますが、訴訟ではさらに、「この建物」でなければならないほどの事情があるかどうか、すなわち、「この建物」でないと死活問題になるのか、あるいは、他の建物に引っ越ししてもやっていけるか、などが問われることになります。
ご入居者が当該貸家で店舗営業している場合に、他の建物に引っ越すと売り上げに影響があるとか、ご入居者が当該貸家に長年住んでいる場合に、住み慣れた環境を変えたくないといったような主張がされることがあります。 この点、交渉や訴訟の実務上は、ご入居者の希望にある程度沿った適当な引っ越し先を見つけられるかどうかが重要なポイントになってきます。

【前述の(4)】建物の現況

この点について、家主側からする典型的な主張は、建物が老朽化しているということです。
特に最近は、耐震性が十分であるかという点が裁判実務上も重要なポイントになってきています。その意味で、一級建築士に依頼して耐震診断を行い、その結果を証拠として利用することもあります。
ちなみに、昭和56年に建築基準法が改正されて、耐震基準が現行のものに強化※2されましたので、この改正前に建築確認を経て建築された建物については、一般的には、現行の耐震基準を備えていない可能性が高いといえます。
この点、熊本地震による被災地の家屋被害の状況について、「最大震度7を観測した熊本県益城町では700棟以上が全壊だった。建築基準法で耐震基準が強化された1981年以前に建てられた古い家屋の被害が目立つという。調査が進むにつれて、被害は拡大するとみられる」との報道がなされています(2016年4月20日付日本経済新聞)。

【前述の(5)】財産上の給付

財産上の給付の典型的なものが、「立退料」ということになります。
立ち退いてもらった後の引っ越し先を提供することも、「財産上の給付」にあたります。例えば、家主が所有する別の建物に移ってもらったり、あるいは、建て替え後の新しい建物に戻り入居してもらったりすることなどです。
交渉や裁判の実務では、引っ越し先を提供できない場合にも、ご入居者の希望や現在の条件にできるだけ沿った物件情報を複数見繕って、情報提供したり、証拠として提出したりしています。

「立退料」算定の考え方

前提として、立退料の算定方法について法律に明文の定めはありません。
そこで、過去の交渉実務や裁判例でよく採用されているポピュラーな考え方を2つご紹介します。
1つ目は、立ち退きに伴う損失を補償する算定方法で、例えば次のような項目の金額を足し算していきます。

  1. 1)引っ越しにかかる実費
  2. 2)引っ越し先で必要な権利金や敷引きがある場合の敷引き部分
  3. 3)現在の家賃と引っ越し先の家賃との差額がある場合の差額分(通常は2年分程度まで)。ただし、同種同等の物件を基準とします。
  4. 4)ご入居者が営業をしており、立ち退きに伴って、休業期間や営業利益の低下が発生する場合は、休業補償や営業補償(通常は現実の営業利益の2年分程度まで)。なお、交渉や訴訟の中で、高額の営業補償を要求されることがよくあります。その根拠資料として、確定申告書や法人税の申告書の提出を求めると、拒否されることがありますが、現実の営業利益がどれほどかは入居者側が証明しなければなりませんので、その資料が提出されない場合や、現実に営業利益がほとんど上がっていない場合は、営業補償はカウントされません。

2つ目は、借家権価格をもとに算定する方法です。

例えば、貸家面積が50m²、その敷地の地価が10万円/m²、借地権割合が60%、借家権割合が30%※3という場合、当該貸家の借家権価格は90万円になります。 これらの考え方は、どちらか一方のみで算定されることもあれば、双方を総合考慮して算定されることもあり、さらには、「正当の事由」を裏付ける立退料以外の事情が質的・量的にどの程度あるかによって、増額されたり、減額されたりすることもありますので、あくまでも一応の目安としてお考えいただければと思います。

※2…改正前は「震度5強で損傷しない」でしたが、改正後はそれに加えて、震度6強から7でも倒壊しない耐震性が求められるようになりました。

※3…借地権割合も借家権割合も地域により異なりますが、国税庁のホームページで見ることができます。

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