技術研究トレンド
建築

カーボンニュートラルや循環型社会の実現に向け、建設業界ではCO₂排出量の削減や資源循環への取り組みが加速しています。一方で、担い手不足への対応や生産性向上も重要な課題となっており、環境負荷の低減と施工性の両立が求められている状況です。
こうした課題に応えるため、大和ハウス工業は、株式会社フジタ、バルチップ株式会社、関西化学工業株式会社と共同で、廃プラスチックを再利用したコンクリート補強用ポリプロピレン短繊維「アミチップ」を開発しました。さらに現場作業の省力化を図るため、大和ハウス工業とフジタでコンクリート打設後にコンクリート補強用短繊維を表層へ散布して沈め、表層のみを繊維補強コンクリートとする「マクチップ工法」を開発しました。
これらの技術は、廃プラスチックのマテリアルリサイクルを実現するとともに、従来工法で課題となっていたミキサー車のドラム内の洗浄作業の負担軽減にも貢献するものです。資源の有効活用と現場作業の省力化を両立する技術は、どのような発想から生まれたのでしょうか。
今回は、「アミチップ」と「マクチップ工法」が誕生した背景や技術的な特長に加え、4社がそれぞれの強みを持ち寄って実用化へと導いた共同開発のプロセス、その先に見据える展望を紹介します。
建設業界では近年、CO₂排出量の削減や吸収を目的とした環境配慮型コンクリートの開発が進んでいます。一方、こうしたコンクリートは中性化が進みやすく、鋼材の腐食リスクが課題です。そのため、環境負荷を抑えながら耐久性を高める補強材料の重要性が、これまで以上に増しています。
さらに、「改正資源有効利用促進法」の施行を受け、事業者にはマテリアルリサイクルの推進も求められています。大和ハウス工業でも環境行動計画「エンドレス グリーン プログラム2026」のもと、工場で発生する廃プラスチックのマテリアルリサイクル率向上を目標に掲げ、その活用方法を模索していました。
その中で着目したのが、網戸の組み立て工程で発生する端材です。
「網戸に使われる樹脂は屋外で使用されることを前提としているため、耐久性が高く、必要な引張強度も備えていると考えました。候補となる再生材はいくつかありましたが、コンクリートの補強繊維として求められる性能を考え、網戸端材を選定しました」と、開発に携わった建築材料施工グループ研究員の加藤は振り返ります。
こうして誕生したのが、再生材料を50%以上配合したコンクリート補強用ポリプロピレン短繊維(以下、PP短繊維)「アミチップ」です。
アミチップ
今回の開発にはもう一つ、建設現場作業の負担を軽減したいという課題意識もありました。
従来、土間コンクリートの補強には鉄筋が用いられていますが、配筋には手間がかかります。そこで、鉄筋の代わりにPP短繊維を混ぜ込む工法が採用されてきました。
しかし、この工法はミキサー車のドラム内でPP短繊維を混練するため、打設後の洗浄が必要です。洗浄水や残コンクリートの処理は現場で行うため、作業するための環境整備や洗浄作業に手間がかかり、現場にとって負担となっていました。
そこで着目したのが、「ミキサー車へ繊維を投入せず、コンクリート打設後にPP短繊維を散布する」という発想です。
現場の作業負担を軽減しながら、従来と同等の性能を確保できる工法を目指し、開発がスタートしました。
このように、環境負荷軽減と生産性向上という二つの課題に向き合う中で、アミチップの活用にもつながる「マクチップ工法」が生まれました。
「マクチップ工法」施工中の様子
「アミチップ」は、大和ハウス工業の工場で生じる網戸端材などを再利用した、コンクリート補強用PP短繊維です。エコマーク認証基準を満たす再生材料を50%以上配合しながら、JIS基準に適合した性能(※)を確保しています。
また、従来のコンクリート補強用PP短繊維と比べて、製品1トン当たり約740kgのCO₂排出量削減を実現。また、網戸端材をサーマルリサイクルではなくマテリアルリサイクルへ転換することで、資源の有効活用にも貢献しています。
例えば、2トンの網戸端材をマテリアルリサイクルへ切り替えた場合、約8,100kgのCO₂削減が見込まれ、これは樹齢50年のスギ約580本分の年間CO₂吸収量に相当します。
しかし、再生材を多く使用すると品質がばらつきやすく、建設資材として求められる強度や安定した品質を確保することは容易ではありませんでした。
「再生材の使用率を高めるだけでは、品質を維持することはできません。建設資材として安心して使用していただけるよう、原料の選定や配合、製造条件を繰り返し検証しました」と加藤は話します。
こうした検証を重ねることで、アミチップは環境負荷の低減と、建設資材として求められる品質を両立しました。
そして現場作業の省力化を図るために開発されたのが、「マクチップ工法」。乾燥収縮によるひび割れが生じやすいコンクリートの表層に、PP短繊維を効率よく配置できる点が大きな特長です。
従来の混練工法では、繊維をコンクリート全体へ均一に混ぜ込むことで、ひび割れの発生を抑制していました。しかし、土間コンクリートの乾燥収縮ひび割れは主に表層で発生します。
コンクリート製品の曲げ強度試験の様子
マクチップ工法では、コンクリート打設後にPP短繊維を散布し、仕上げ工程で表層へ埋め込む方法を採用しました。ひび割れが発生しやすい部分へ効率よく繊維を配置することで、従来工法と同等のひび割れ抑制性能を確保しながら、使用する繊維量の削減を実現しています。
また、ミキサー車へ繊維を投入する必要がないため、コンクリート打設後のミキサー車のドラム内の洗浄も不要となり、作業負担の軽減にもつながりました。
繊維を散布する工程は多少増えるものの、工期への影響はなく、マクチップ工法のコストは従来工法と比べて約17%削減できると試算されています。
今回の技術は、大和ハウス工業だけで実現できたものではありませんでした。
再生材料の活用、PP短繊維の製造、施工方法の開発、施工現場での検証。それぞれ異なる専門分野を持つ4社が知見を持ち寄ることで、「アミチップ」と「マクチップ工法」は実用化へとつながりました。
関西化学工業は、網戸端材の再生原料化や市場に流通している再生原料の調達を担当しました。バルチップはPP短繊維の配合と製造、フジタは収縮ひび割れの制御方法の構築およびコンクリートの性能試験を担当。そして、大和ハウス工業は工法全体の企画・開発を担い、散布方法の開発を担当しました。
しかし、アミチップやマクチップ工法という答えにたどり着くまでには、数多くの試行錯誤がありました。
「市場に流通する再生材料を用いて繊維を製造したところ、樹脂の流動性が高いことで糸揺れが発生し、安定した製糸や必要な引張強度の確保に苦労しました。製糸性や引張強度のバランスを確認しながら、再生材料の組み合わせや配合割合を変え、何度も繊維試作と評価を繰り返しました」と加藤はアミチップの開発過程を振り返ります。
「アミチップ」引張強度試験の様子
同時に、現場作業の省力化を目指して、均一に散布する方法や施工手順を一つひとつ検証し、現場でも安定した品質を確保できるようマクチップ工法の改良を重ねていきました。
「特に苦労したのがPP短繊維の散布方法です。PP短繊維は表面に特殊な凹凸が施されているためバランスよく散布することが難しく、実用化に至るまでさまざまな散布方法を検証しました。また、現場での施工検証では、現場にとって本当に使いやすい工法とは何か、職人さんと一緒に試行錯誤を続けました」と加藤は振り返ります。
それぞれの企業の技術や知見をもとに、検証を行いながら改善を重ねたことで、材料と施工方法を一体で最適化する今回の技術が完成しました。
「一社だけでは、この技術は実現できませんでした。それぞれの強みを持ち寄り、同じ目標に向かって取り組めたことが大きかったと思います」と加藤は話します。
専門分野の異なる4社が連携したことで、生産性や品質、環境性能を兼ね備えた新たなコンクリート補強技術が実用化へとつながったのです。
「アミチップ」と「マクチップ工法」は、実際の施工を通じて改良を重ねながら、さらなる展開を目指しています。
これらの技術は、2025年9月に竣工したフジタの技術センター付属棟「続(つづく)」で初めて適用されました。実際の施工を通じて施工性や品質を確認し、現場への展開に向けた手応えを得ました。
■フジタ技術センター付属棟「続」での施工前後の比較
「施工前」
「施工後」
施工当日は、職人への説明は朝の短時間のみでしたが、大きな支障なく施工を終えることができました。
短時間の説明でも問題なく施工できたことは、マクチップ工法の施工のしやすさを示す結果となりました。
「実際に施工していただくことで、新たな課題や改善点も見えてきます。今回は事前説明が十分にできない状況でしたが、施工を進める中で問題なく対応していただけました」と加藤は話します。
短時間の説明でも問題なく施工できたことは、現場で扱いやすく、導入しやすい工法であることの裏付けにもなりました。
このほか、職人さんとの対話を繰り返しながら、繊維を安定して散布する方法についても改良を重ね、施工品質を維持しながらも、より効率的に施工できる工法を目指してブラッシュアップを続けています。
今後は、大和ハウスグループの建築物での適用を進めながら、さらなる展開に向けた取り組みを進めていく予定です。
今回の開発を一言で表す言葉として、加藤は「つなぐ」を挙げます。
建設現場で生まれた課題意識が、新たな工法の発想につながる。工場で発生する網戸端材が、コンクリート補強材として新たな価値を持つ。そして、それぞれ異なる強みを持つ4社が技術や知見を持ち寄ることで、一つの技術として結実しました。
今回の開発は、環境負荷低減や生産性向上といった個別の課題を解決するだけのものではありません。現場の課題を起点に、異なる技術やアイデアを結び付けることで、新たな価値を生み出した取り組みでもあります。
「建設業界には、まだ多くの課題があります。一社だけで解決できることには限界がありますが、それぞれの技術や知見を組み合わせることで、新しい可能性が生まれると考えています」と加藤は話します。
カーボンニュートラルや循環型社会の実現、生産性の向上など、建設業界を取り巻く課題は今後さらに多様化していくでしょう。そうした中で求められるのは、一つひとつの技術を進化させるだけでなく、それらを組み合わせ、新たな価値へとつなげていく発想です。
大和ハウス工業はこれからも、現場で生まれる課題に真摯に向き合いながら、さまざまなつながり、共創を通じて新たな技術を生み出し、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
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