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連載:未来の旅人 未活用の素材が生まれ変わる。世界を魅了する、東京発のエシカルジンとは

連載:未来の旅人

未活用の素材が生まれ変わる。世界を魅了する、東京発のエシカルジンとは

2024.10.31

    東京発のクラフトジンが世界的に高い評価を獲得しています。手がけたのはエシカル・スピリッツのCTOを務める、蒸留家の山口歩夢さん。同社のジンの特徴は「未活用の素材」を製造過程で取り込み、アップサイクルしている点です。

    母の日に売れ残り、廃棄されそうなカーネーションやコーヒーかす、間引きされたすだちなど、活用する素材は多岐にわたります。

    もともと酒業界とは縁もゆかりもなかった山口さんは、どのような軌跡をたどって「エシカルジン」をつくるようになったのでしょうか。

    創業1年、廃棄される酒粕から生まれた「飲む香水」が世界で評価

    "東京のブルックリン"と称される蔵前、隅田川からほど近い場所に「東京リバーサイド蒸溜所」はあります。1階に店舗、2階にバー、間の1.5階に蒸留所を設け、ここで山口さんたちエシカル・スピリッツはユニークなジンを次々と生み出してきました。

    1階の店舗は道路に面しており、気軽にジンが楽しめる(写真上)、蒸留所の写真(写真下/ともにエシカル・スピリッツ提供)

    エシカル・スピリッツを一躍有名にしたのが、酒蔵で未活用の酒粕を蒸留して造ったジン「LAST」シリーズです。「LAST ELEGANT(ラストエレガント)」は原酒由来のフルーティで爽やかな香りに、ラベンダーの華やかさと、ピンクペッパーやカルダモン、花椒のスパイシーさが奥行きを生む香り高さが特徴で"飲む香水"とも称される1本です。

    「LAST ELEGANT」(エシカル・スピリッツ提供)

    日本酒の製造過程で生じる酒粕は、たんぱく質、食物繊維、ビタミンなど、豊富な栄養素を含んでおり、利用価値が高い素材です。大手を中心に大半は再利用されているものの、お金をかけて産業廃棄物として処理するケースもあります。その量は年間約3000トンにのぼり、中小の酒蔵では利活用が進んでおらず大きな負担となっていました。そこで山口さんは、鳥取や佐賀、秋田、福島などの酒蔵から酒粕を買い取り、ジンとして蘇らせることにしたのです。

    山口さんたちは、社名にこそ「エシカル(=倫理的)」を冠していますが、廃棄素材の活用を前面に打ち出すことはしていません。

    「僕たちは、廃棄素材ではなく"hidden gem(隠れた才能や魅力)"と呼んでいます。未活用素材と言ってもいいかもしれません。ただし、活用していることを、前面に押し出さないようにしているんです。あくまで一番大切にしているのは"おいしい"ということ。"おいしい"から入り、取り組みや素材に興味を持ってもらえたらいい。SDGsを謳いながら、おいしくないものを造るなら、酒造り自体をやめたほうがいいと思っているくらいです。そこには徹底的にこだわっていますね」。

    その言葉の通り「LAST ELEGANT」は創業からわずか1年で、ジンの本場イギリス「IWSC2021」の最高賞である「GOLD OUTSTANDING」を取るなど、高い評価を獲得しています。その年、同賞に選ばれたのは年間に発売された約1200本のうちの9本ということからも、ジャパニーズジンの評価を一躍高めた1本といえるでしょう。

    ジンはどのお酒よりも自由で多様。だから面白い

    「幼少期から食べることや"おいしい"という感覚が好きだった」という山口さん。大学受験期に偶然見た日本酒「獺祭」の酒蔵のドキュメンタリー番組に心を動かされ、東京農業大学及び大学院で醸造学を専攻しました。

    「1年生はまだお酒は造れないので、初学者向きの座学講義が中心でした。その時に聞いた『ジュニパーベリー(ボタニカルの一種)が入ってさえいれば、ジンの定義に入る』という何気ない解説が頭に残って。いろんな原材料を使ってさまざまな味を表現できる自由度の高さに、面白さを感じるようになったんです」。

    大学院に進学後は人間の味覚の研究を行うとともに、お酒が口内で描く「味覚の面白さ」にのめり込んでいきます。大学院では研究のかたわら、クラフトサケ(※1)の醸造所でインターンとして働くようになりました。気づけば酒業界に片足を踏み入れ、在学中の2020年にエシカル・スピリッツを共同で立ち上げました。

    ※1:日本酒(清酒)の製造技術をベースとして、お米を原料としながら従来の「日本酒」では法的に採用できないプロセスを取り入れた、新しいジャンルのお酒。

    山口さんはCTO(最高技術責任者)に就任し、酒粕だけでなく、さまざまな未活用素材を蒸留することでその可能性を引き出してきました。エシカル・スピリッツにとって、大きな転機になった1本があります。それが飲み頃を終えたビールや日本酒を蒸留して造ったジン「REVIVE」シリーズです。

    きっかけはコロナ禍。世界中で外食自粛の流れが生まれた結果、廃棄されそうな大量のお酒の買取依頼が山口さんの元に寄せられました。その量はバドワイザーだけで2万リットル。バドワイザーに加えて、ヒューガルデンやIPAビール、日本酒を買い取り、4種類のジンに生まれ変わらせました。

    「ヒューガルデンホワイトを蒸留した『REVIVE from Hoegaarden』は、ホワイトビールの良さを活かしつつ、レモンピールとコリアンダーシード、八朔ピール、それにネパール原産のティムールペッパーを加えているんです。華やかで明るい味わいに仕上げています」。

    「REVIVE from Hoegaarden」(エシカル・スピリッツ提供)

    今では、エシカル・スピリッツの元には各地から未活用素材の利活用の依頼が寄せられるようになりました。

    「うちのジンは、何かひとつは未活用素材を必ず使うようにしています。コーヒーかすやミョウガの茎のように、香りは良いけれど、食べられないものって意外とたくさんあるんですよ。農家や酒蔵、事業者さんから買い取らせてもらって、ジンにすることで素材の価値が高まります。ジンを通して、今まで見落とされていた素材の可能性を知ってもらえたら嬉しいですね」。

    大量消費、大量廃棄が東京のテロワール

    自由度の高さのほかに、山口さんが「ジンの面白さ」として挙げるのが「地域を表現できるところ」だと言います。

    「例えば鹿児島には焼酎メーカーが多く、芋焼酎を使ったジンが多く生産されています。それに桜島小みかんや日本茶などの特産品を合わせて蒸留すると、鹿児島の匂いや味を体感できます。南アフリカはワイン造りが盛んだからブドウが名産で、実はアロエも有名。それを蒸留してジンにすれば、ジンを通して南アフリカを感じることができるんです」。

    こうした考えはワインにおける「テロワール」に近いのかもしれません。テロワールとは土壌や気候などその地域の自然環境が生み出す味の個性です。実際に、エシカル・スピリッツのジンも「東京のテロワールを表現している」と山口さんは語ります。

    「東京には"特産品"と呼べるものが少ないから、テロワールがないようにも思えます。ですが、東京のテロワールを一言で言えば"大量流通と大量消費"です。すべてのモノが東京に集まって、東京で消費されて、廃棄される。それが"東京らしさ"だと思ったんです。ならば廃棄されるものを活用してジンとして表現すれば"東京ならでは"のジンが造り出せます」。

    エシカルジンで「無理のないSDGs」を

    東京のテロワールを突き詰めた結果、エシカル・スピリッツの目指す先を「世界一価値のあるゴミ箱」と表現します。そこには山口さんたちの思いが込められています。

    「僕たち以外にも、未活用の素材をリサイクルしている人はたくさんいます。でも僕たちのジンが一番価値を生み出せていると自負しています。捨てられるものを活用して味や香りをそのまま蘇らせたうえで"最高の付加価値"をつけたいんです」。

    酒類業界のアップサイクルの第一人者として世界に名を馳せる山口さんですが、サステナブルの考え方について「無理なくSDGsと向き合ってほしい」と語ります。

    「"資源の持続可能性"には焦点が当たりやすいですが、"人の持続可能性"も重要だと思っていて。無理して続けても、本人が重荷に感じて続けられなかったら意味がないですよね。僕だってスーパーでビニール袋を買う時もあるし、コンビニで割り箸をもらう時だってあります。本人に無理なく、限りある資源とのバランスを保つことが重要かなと思います。うちのジンは気楽に、サステナブルに寄り添っている酒でありたいんです」。

    PROFILE

    山口歩夢

    山口歩夢Ayumu Yamaguchi

    1995年生まれ。東京農業大学醸造科学科を卒業し、同大学院で人間の味覚について研究する。 在学中から酒造に関わり、2020年にエシカル・スピリッツを共同で立ち上げる。最高蒸留責任者CTOとして、同社のすべてのジンづくりを主導する。地方を起点にウイスキーづくりなどにも携わる。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    大和ハウスグループでは建物建材の再利用をはじめ、サプライチェーンマネジメント(環境)に取り組んでいます。

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