マールク新さっぽろ(北海道札幌市)大規模エリアにおける地域の価値向上のためのエリアマネジメント

昨今、まちの再開発の要件にエリアマネジメントを組み込むことが増えています。
本事例では、当社が事業主となってまちの大規模開発を行い、建物の建設やインフラの整備と同時にエリアマネジメント体制も構築。デベロッパーとして引き渡した後も、当社はエリアマネジメントを行う一般社団法人の社員として、まちに残っています。地域との連携を大切にしながらまちの価値を上げ、持続可能なまちを目指すエリアマネジメント活動をご紹介します。
まちの概要
■開発エリア
所在地
G街区:北海道札幌市厚別区厚別中央1条5丁目1番1号、5号
I 街区:北海道札幌市厚別区厚別中央1条6丁目3番3号 他
まちびらき:2023年12月
総敷地面積 :約55,700m2(一部借地含む)
建物用途:大学(G街区)、医療施設(I街区)
■インフラ
(新さっぽろエネルギーセンター)
災害に強い埋設導管を通じて供給される天然ガスを使用しセンター内で発電。発電する際の排熱もエネルギーとして活用。新さっぽろ駅周辺地区(I街区)の各施設の照明、冷暖房、給湯、融雪などに必要なエネルギーの製造・供給を行います。 災害時にも電気の60%、温水・冷水は通常時と同等の供給をすることができ、CO2排出量は一般的な個別熱源システムと比較して35%削減します。
エネルギーセンター内の配管
まちのエネルギー使用状況を
見える化
JR・地下鉄や立体駐車場から
各施設に直接アクセス可能
アクティブリンクで
リハビリをする利用者
既存エリアにある
商業施設内の広場
商業施設Bivi内の
コミュニティ広場
人の賑わいを創出する仕組み
1. 一般社団法人の設立
まちの計画と同時進行で、関連する法人などが社員となり、一般社団法人「新さっぽろエリアマネジメント」を設立。構成員の大半が医療施設であることから、 「みんなでまるごと、健康をつくるまち」をスローガンに掲げ、 「食と健康」をテーマに地域の価値向上施策を企画・実施します。
また、当法人はマネジメントエリアを管轄する行政や地域の各種団体との対話から始まりました。最初はエリアマネジメントの概念を共有し、一般社団法人(以下、一社)の目的をご理解いただきました。今後は、行政や、既存団体等ともさらに連携を深め、まちの価値向上を推進していきます。
一般社団法人 新さっぽろエリアマネジメント体制
2. 一社の運営費用
まちの賑わいを維持するには、施設や設備のメンテナンス、しつらえの更新、イベントの実施などの費用が必要になります。現状は「マールク新さっぽろの共有施設や設備管理の請け負い業務」及び「一社の会費」でまかなっています。
3. イベント等の開催
「食と健康」をテーマにしたイベントを年に2~3回実施することを決めており、開催概要は月に1度の全体会議で検討・決定しています。
開催にあたっては、地域の商業施設や商店、周辺地域の各種団体などにも参加を呼び掛け、エリア全体で一体感を醸成し、進めています。
4. モニタリング
実施したイベントの集客効果などをモニタリングして効果を検証しています。数字で表すことで、効果が見える化でき、次回への改善点や、ブランディング効果、近隣住民への認知度などが把握しやすくなります。モニタリングを通じてより良い賑わいの創出施策を推進させます。
5. 産学連携
この地域の成長エンジンの一つである産学連携にも力を入れています。G街区の学生にイベントの企画・運営などを担ってもらうことで、若い世代がまちと関りを持ち、まちのにぎわい創出やまちへ流入してくれること等を目的としています。
学生によるチャレンジショップでクラフトビールやフォーを提供
■イベント等の効果測定による、社会関係資本の算出
札幌学院大学と大和ハウス工業は、社会関係資本(Social Capital)の概念をもとに、いくつかの「社会実験」を行いながら、持続可能なにぎわいづくり活動における効果を共同で研究する、共同研究契約を締結しました。共同研究には札幌市がアドバイザーとして加わり、「産学官」が連携して、パブリックスペース活用方法が地域に与える影響について仮説と社会実験を行い、分析・検証を行います。エリアマネジメントによって高まった社会関係資本が地域経済にどのような影響を及ぼすかを検証し、地域の価値を高め続けることを目指します。
■これまでに一社が関わったイベント(一部)
【健康フェス】
概要:一社の社員でもある、3つの病院と大学、専門学校などがブースを出し、商業施設内の広場で健康に関する測定や指導、体操、子ども達に体感していただく健康にまつわる職業体験などを実施。
主催・参加団体:一社
来場者数:のべ3,255人(2日間)
プロの指導によるエクササイズ
各ブースでは姿勢指導など様々な催しを実施
【パークヨガ】
概要:公園で朝ヨガを実施。ヨガをする前後で、G街区の看護学生と日本ヨーガ療法士の協力団体の方が参加者の血圧を測り、参加者に体の変化をヨガと血圧数値から認識して頂きました。
看護学生は実践の場ともなり、地域住民の方々との交流の場が生まれる貴重な機会となりました。
主催・参加団体:一社、NPO法人日本ヨーガ療法士協会・北海道、一般社団法人日本ヨーガ療法学会、新札幌整形外科病院、札幌学院大学心理学部、札幌看護医療専門学校
来場者数:のべ26名(2日間)
ヨガをする参加者
血圧を測る看護学生
【あつべつ食の文化祭2024】
概要:厚別区内で生産されている食品や、生産元の食品企業の紹介などを目的とした催しに参加しました。当地域にある児童会館の子どもたちが育てたジャガイモを使用し、地域の商店が商品化。その商品を商業施設で子どもたちが来場者に販売する職業体験をしていただきました。
看護学生は実践の場ともなり、地域住民の方々との交流の場が生まれる貴重な機会となりました。
主催・参加団体:あつべつ区民協議会、あつべつ食の文化祭2024実行委員会、厚別区内の児童会館
販売個数:30個※子どもたちが販売した1時間内
ジャガイモの収穫風景
元気な呼び込みを聞き、上階から見学する人たち
【捨てちゃう野菜でハガキづくり】
概要:地域の児童会館に通う子どもたちがインストラクターになり、規格外や切れ端となった、捨てられてしまう野菜でスタンプを作り、参加者と絵ハガキを作成しました。大人も子どもと一緒に夢中になって、それぞれに個性あふれる色鮮やかな絵ハガキを作りました。
主催・参加団体:一般社団法人新さっぽろエリアマネジメント
参加者数:親子約100名
野菜のスタンプ
完成した絵ハガキ
■今後の計画
マールク新さっぽろでのエリアマネジメントでは、一社の運営方法や、地域の皆さんとの連携の図り方など、多くのノウハウを得ています。今後、コミュニティスペースを設置することを検討しています。地域の方が気軽に立ち寄ったり、一社のメンバーで集まり打ち合わせをする場所を開設し、関係者の交流拠点をつくることで、より一層エリアマネジメントの活性化を図るとともに、各社員の主体的な取り組みを促進します。
当社グループは、さまざまな用途の建物で構成されたまちづくりを数多く手掛けています。そのため、これらのまちで培ったノウハウを活用し、今後の再開発事業や新規のまちづくりにおいては、ハード面の開発だけでなく、ソフト面のエリアマネジメントまで考えた、持続可能なまちづくりを行っていきます。
みんなの声
交雄会新さっぽろ病院 馬場さん
エリアマネジメントを行うことで、自然に人が集うような仕組みを作りたいと思っています。イベント等をきっかけに、知っている病院だと認知され、健康面で気になることがあった時に思い出していただく。このエリアが、地域の皆さまにとっての保健室といった医療のHUBになれればと考えています。今後、高齢の方も家の外に出て社会と関わりを持てるイベントの実施や巡回バス、地域の学生が割安に高齢者と住める共同住宅などができればと、夢が広がっています。
新さっぽろ脳神経外科病院 上田さん
当院は、「駅直結の立地は高齢者にも優しく通いやすい」との声をいただいています。また、アクティブリンクのガラス張りの丸い廊下も魅力的で、当施設を見に行くついでに来院された方もおられました。
以前アンケートを取った所、来院のきっかけは家族や周囲の方からの勧めが最も多いという結果でした。そのため、エリアマネジメントを通じて多様な世代に、このまちの病院で相談できることを知っていただき、気軽に来ていただけるようになればと考えています。例えば、当院では認知症やめまい、頭痛、脳ドックなど幅広いお悩みに対応できます。地域の皆さまの健康を支えるためにできることを考え、取り組んでいきたいと考えています。
新札幌整形外科病院 大野さん
当院では、骨折やネンザといった怪我等への対応に加え、地域で暮らす方々の健康増進を促す取り組みができればと考えています。今回の大規模開発で災害に強い持続可能なインフラが整備され、アクティブリンクがJRや地下鉄、駐車場に直結するなど、アクセスがよくなっています。そのため、災害発生時にもエネルギーセンターから医療に必要なエネルギーが供給され、患者さまには安全に安心して療養いただけますし、まちの避難所としても活用いただけると考えています。このまちが暮らす人々にとって優しいまちとなり、その一部になれればと思い、一社の活動に参加しています。
大和ハウス工業 杉本
私は様々な方と対話することが好きで、元々は営業職をしていました。この度、エリアマネジメントを担当することになり、お話をする年齢層や、話題が格段に広がりました。地域の皆さまとの対話を通して繋がりをつくり、その輪を大きくしていくことで、このまちが賑わい続ける仕組みを創出したいと考えています。
その一歩として今は、地域の皆さまに「なにかあったら杉本さんに話してみよう」と思ってもらえる存在になりたいと日々活動しています。