



「賃貸住宅に
デザインという意志を」
大和ハウスの賃貸住宅をデザインで選ばれるブランドへ。こだわりの一点物を創るレジデンスデザイン室から、新たな設計文化が立ち上がる。












名前で選ばれる人になる

なぜ、この線を引くのか。あるいは、なぜ引かないのか。
集合住宅設計のトップデザイナーが集まるレジデンスデザイン室では、その日、デザインレビューが行われていた。一人が描いたパースや平面図に、他のデザイナーたちが「私なら、こうする」とスケッチを描き足し、その意図を伝える。室長を務める長谷川の図面にも、容赦なくペンが入る。
ただし、他の案を採用するか、最終判断は本人に委ねられる。レビュー後どうなったかを追うこともない。その建物は、そのデザイナーの意思と名のもと、世に出ていく。長谷川が目指しているのは、注文住宅のように、「この人に設計してほしい」と一人ひとりが名前で選ばれる存在になることだ。
それは、大和ハウスグループの賃貸住宅ブランド「D-ROOM」が向き合う課題とも重なる。「D-ROOM」は、入居者アンケートでは評価が高い。けれども「D-ROOMに住みたい」と名指しされることは、まだ多くない。品質には自信がある。だが人は、中を知る前に、外を見る。第一印象が良ければ、その先の設計思想や暮らしにも関心を持ってもらえるはずだ。
「D-ROOM」は今、名前で選ばれるブランドを目指し、変革を進めている。レジデンスデザイン室は、そうした動きと前後して発足。首都圏を中心に、オーダーメイドの賃貸住宅を手がける。
長谷川は、その室長を30代で任された。今まで広島を拠点に、集合住宅設計でありながら、戸建住宅、介護施設、寮、中高層建築なども設計してきた異端児だ。組織の前例にとらわれず、納得できないことは問い続け、認めてもらうために努力する。お客さまからの信頼が厚く、今でも広島から名指しで依頼がやってくる。
レジデンスデザイン室立ち上げメンバーの一人、チーフデザイナーの西本は、社内で数々の賞を獲り、「東日本にこの人あり」と一目置かれていた人物だ。長谷川にとっては、設計や組織づくりを相談できる好敵手。西本も「同じ建築家として、勝手にライバルだと思っています」と言い、互いに切磋琢磨する。
他のメンバーも一筋縄ではいかない。一流の経歴を持つキャリア入社組で、開発に携わった集合住宅商品を、今度は直接お客さまに提案する道を選んだ人。設計事務所から戸建住宅、中高層建築と領域を渡り歩き、繊細な感性でお客さまの心をつかむ人。集合住宅の「レジデンスデザイナー」と戸建住宅の「ハウジングマイスター」という社内建築家の認定を2つ持つ全国唯一の人もいる。
発足から2年たち、人員も増えた。共通するのは、旺盛なチャレンジ精神だ。デザイン性の高い賃貸住宅に特化した、業界でも先駆的なチームに飛び込み、挑む。長谷川は「一緒に高め合う相手として、これほど心強い仲間はいない」と感じている。

レジデンスデザイン室のメンバーと
意見を交わす

デザインレビューで設計案を検証

チーフデザイナー西本は切磋琢磨する同志

その土地独自の唯一性を追求



一本の線に想いを宿す

長谷川がレジデンスデザイン室に来て最初に設計したのが、賃貸住宅「THE WALL」だ。「首都圏で名刺代わりになるものをつくりたい」。そう勇み立ち、現地を訪れた長谷川が見たのは、穏やかな水と緑の風景だった。
敷地の裏を小川が流れ、川沿いの遊歩道には街路樹が続いていた。周囲に高い建物は少なく、空も大きく抜けている。この「周辺環境」と「建物」をシンクロさせて、一対の景色にできないだろうか。
敷地は、四角形ではなく三角形。敷地の角度に合わせて建物をまっすぐ配置すれば、設計効率がよく、賃貸に使える床面積も確保しやすい。だが、まっすぐな線は、強い。その強さゆえに、川や遊歩道とのつながりを断ち切ってしまう。「それは絶対やりたくなかった」。
長谷川は、あえて建物全体を斜めに振った。さらに、建物裏側の直線的な輪郭を、折れながら続く線へと描き替えた。その線上に小さな緑のスポットをいくつも設け、川や街路樹とやわらかく混ざり合う景色をつくった。
一方、建物ファサードの顔となるのは、大きな「壁」である。
車なら一瞬で通り過ぎてしまう道沿いだからこそ、街並みに埋もれない印象を残したい。ただ、壁を間口いっぱいに立てれば圧迫感が出る。そこで壁だけを前に出し、建物本体はセットバック。アプローチには列柱を配し、奥へと視線を導いた。
道路側の表面には、格調高い強さを。川沿いの裏面には、調和する優しさを。ひとつの建物に異なる表情を与えながら、どちらにも、その場所との関係から導き出した答えがある。そこに長谷川のデザイナーとしての矜持がにじむ。
壁であれ、通路であれ、長谷川が引く「一本の線」には必ず理由がある。
広島時代、尊敬する住宅設計者から言われた言葉がある。「気持ちを入れて、線を描かないとだめだよ」。現場の職人は、こう言った。「何も考えずに、気楽に線を引かんでくださいね」。
図面上のたった一本が、建物の美しさを損ない、施工を難しくし、ときにはコストに跳ね返る。「一本の線に責任を持つ」。そう自分に言い聞かせてきた。
THE WALLも例外ではない。設計が複雑で、住戸のレイアウトはパズルのよう。その面倒を施工する人に渡して終わりにはしなかった。現場へ通い詰め、職人と打ち合わせを重ね、トラブルが起これば真摯に謝った。「信頼まではいかなくても、ちゃんと責任を取ろうとしていると思ってほしかったんです」。
完成後、工事監督から「竣工写真が欲しい」と声をかけられた。毎回もらうのかと尋ねると、「初めて言ったよ」。その気持ちがうれしかった。長谷川と皆の想いが込もった名刺ができた。

ファサードを印象づける大きな壁

列柱が奥へと誘うアプローチ

裏側は折れながら続く輪郭で構成



正解のないデザインを教える

一本の線に、想いを宿す、責任を持つ。その姿勢を全国に広げるため、レジデンスデザイン室では数百名いる設計士に向けたウェビナーを定期的に開いている。
さらに、より高い設計力を磨く場が、約1年かけて行う「レジデンスデザイナー候補生研修」だ。候補生は、社内の「全国集合住宅設計コンペ」入賞者から選出。一級建築士の資格を持ち、高度な研修課題や厳しい基準をクリアした者だけが「レジデンスデザイナー」に認定される。
この日、大和ハウスグループ みらい価値共創センター「コトクリエ」には全国から候補生が集まっていた。2日間の研修テーマは、建築の造形。講師を務めるのは、レジデンスデザイン室のメンバーやレジデンスデザイナーだ。
今日の課題は、「浮遊感」「重厚感」「奥行き感」という土地オーナーさまの要望を、どう建築で表現するか。候補生は、1つのテーマに沿って3Dパースや間取り図、配置図まで短時間で描き上げる。
候補生の発表が始まると、講師からの問いは一気に鋭く深くなる。「浮遊感」とは、そもそも何をもって浮いて見えるのか。ボリュームの出し方か。影の効果か。ひとつの言葉を建築の要素にまで分解し、その意味を掘り下げていく。
課題に挑むのは候補生だけではない。講師も同じ条件でプランを描く。
長谷川に割りあてられたテーマは「奥行き感」。長谷川は、2日間の講義で取り上げた設計手法を全て盛り込み、完成度の高い建築物としてまとめ上げた。「普段のようにプランニングから組み立てるんじゃなく、形から逆算したから、脳が変な疲れ方をした」と笑いながら、「この課題で講義のおさらいを全部回収したいと思って設計しました」と、圧倒的なデザイン力を示してみせた。
研修では、講師のプランや発言に、別の講師が異なる意見をぶつける姿も、そのまま候補生に見せる。教える側も本気でテーマに向き合い、考え、試し、過程までさらす。その「ヒリヒリとした緊張感が、より実のある研修につながる」と長谷川は考える。
研修生でもある長谷川の部下は、「長谷川さんは人のモチベーションを上げるのが上手。それに、これほど後輩を大事にしてくださる先輩もなかなかいません」と話す。レジデンスデザイン室の西本もまた、長谷川を「人に対して愛情がある。人をよく見るデザイナー」と評する。
長谷川が人を育てることに力を注ぐ背景には、若い時からよりよい設計を求め続けてきた、デザインへの尽きない渇望がある。長谷川の反骨と挑戦を認め、支えてくれた人たちの存在がある。その原点を探るため、まだ何者でもなかった長谷川の広島時代へと話を戻そう。

講師たちが議論する姿も見せる

候補生と同じ課題に講師も挑む

人と語らう時間を何よりも楽しむ



設計する人から、文化をつくる人へ

長谷川は高等専門学校の建築学科を卒業し、20歳で入社した。店舗や事務所の設計を志望したが、配属は広島支店(現・中国支社)の集合住宅設計課。「入ったからには、ここでひと花咲かせよう」と腹をくくった。
ところが当時は、建物より外構や庭に重きが置かれ、オーナーさまもデザインより収益性に関心が向きがちだった。高専時代から家具や広告物をつくり、実業の場でデザインを実践してきた長谷川は、新人ながら「これじゃあ、集合住宅はダメだ」と言い続けた。
しかし、自分が「これだ」と思って図面を描いても、修正される。理解してもらえない。始めさせてもらえない。会社を辞めようと何度も思った。この頃が一番苦しかった。
とはいえ、力不足も自覚していた。だから同期の中では誰よりも量をこなし、難しい仕事を自ら選んだ。
入社3、4年がたった頃、営業担当者に「自宅の新築を任せたい。好きに設計してくれ」と頼まれた。個人住宅の経験はないのに、なぜ?と聞くと「長谷川なら、できそうだから」。後年、その人は「間違ってなかっただろう?」と胸を張った。
7~8年目には、お客さまとの向き合い方も変わった。商談に同席し、自分がどんな暮らしを届けたいかを語り、土地活用として始まった計画にオーナーさまの想いも重ねていった。旧家を賃貸住宅へ建て替えた案件では、「幼い頃から見てきた景色を残したい」と言われ、樹齢数百年の松や数寄屋門、石垣を残した。
そして16年目。長谷川は、社内表彰制度「Daiwa House Award」の最優秀賞にあたる「優秀社員社長表彰」を受賞した。
時代も変わった。オーナーさまの若い後継者が意思決定に加わり、建物のデザインや「誰が設計するか」が選択の理由になりつつある。かつて長谷川が求め続けた設計のあり方に、時代がようやく追いついてきた。
長谷川は今、その土地にしかない答えを探し、人の暮らしや記憶までデザインする設計を重ねている。既成の答えをなぞらず、お客さまに喜んでいただくための「創意」。お客さまの資産を責任をもって預かる「誠意」。そして、想いをデザインに込める「熱意」。そこには「創意・誠意・熱意をもって業務を遂行する」創業者精神が確実に息づいている。
振り返れば、長谷川のそばにはいつも導いてくれる人がいた。入社当時の上司は、尖った新人に「おまえ、変わってるな。やりたいなら、やってみろ」と仕事を任せ、「自分の思った道を行け」と見守ってくれた。
部長の谷川は、レジデンスデザイン室を立ち上げる時、「現場にいたい」と固辞する長谷川を、何度も誘った。「彼は、デザインを言語化し、相手の声を聞きながら分かりやすく伝える力がある。これからもトップレベルのデザイン力を保ち、さらに磨いてほしい」と期待を寄せる。
そんな人たちに導かれ、長谷川は今、「設計する人」であると同時に、「設計文化をつくる人」になった。挑戦する若い設計士に、自ら考え、自ら進む機会を手渡している。かつて自分がそうしてもらったように。
その志を受け取った人たちが全国へ広がれば、「D-ROOM」はデザインで選ばれるブランドへ変わっていく。「その時が来たら、レジデンスデザイン室は解散すればいい。個人的な想いですが(笑)」。レジデンスデザイン室が特別でなくなる日。役目を終える、その日こそ、長谷川の夢が叶うのだ。

広島時代のDaiwa House Award表彰式

デザイナー自らがお客さまに説明

部長の谷川も長谷川を支える

デザインで賃貸住宅の未来を変える
※掲載の情報は2026年9月時点のものです。






