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連載:5分でわかる!サステナブルニュース 気になる疑問、調べてみた 緑を「コスト」から「価値」へ。ネイチャーポジティブを目指す、調布の集合住宅の取り組み

連載:5分でわかる!サステナブルニュース

緑を「コスト」から「価値」へ。ネイチャーポジティブを目指す、調布の集合住宅の取り組み

2026.10.29

    都心に賃貸住宅を建てるとき、植物はどんな存在になるのでしょうか。景観を彩るもの、住む人の気持ちを和らげるもの。しかし同時に、剪定や管理に費用のかかるものでもあります。

    京王線・調布駅から徒歩7分。京王線の旧線に沿う緑道のそばに、2階建て・全20戸の賃貸住宅「Green Terrace」が完成しました。建物を少しずつずらして配置し、中央に人が滞在できる外部空間を設けたこの住まいは、地域の在来種を中心とした植栽や、雨水を緑地に導く仕組みを取り入れています。

    手がけたのは、大和ハウス工業 集合住宅設計部の荒木智さん率いる設計チームです。荒木さんたちが目指したのは、単なる新しい集合住宅ではありません。入居者が「長くここに住みたい」と思える豊かなコミュニティづくりであり、オーナーさまが将来にわたって事業を続けられる付加価値のある集合住宅です。

    一方で、荒木さんたちの提案を受け止めたのが、土地のオーナーさまでした。両者はどのようにして「緑のある賃貸住宅」を、持続可能な事業として形づくっていったのでしょうか。「Green Terrace」の誕生秘話をお二人から伺います。

    ネイチャーポジティブが集合住宅の軸になるまで

    「Green Terrace」は、その名の通り緑豊かな集合住宅地です。ヤマボウシやヤマツツジ、クロモジなどの在来種をはじめ、50種以上の色とりどりの季節を感じられる植物が植えられています。

    しかし荒木さんは、はじめから、植栽を起点としたネイチャーポジティブな集合住宅をつくろうと計画していたわけではありませんでした。きっかけは、オーナーさまが以前に建てた賃貸住宅の入居が振るわなかったこと。求められていたのは、しっかりと入居者が集まる住まいづくりでした。

    「“環境にいいこと”とオーナーさまの共感を得られるかは別の話です。賃貸住宅である以上、どのように収益を確保するかは避けて通れません」。

    大和ハウス工業 東京本店 集合住宅設計部 東京西設計部 課長 荒木智さん。

    提案前、荒木さんは「大和ハウスグループ みらい価値共創センター コトクリエ」で開かれた、ネイチャーポジティブに関する研究会に参加していました。学生時代からビオトープや生物多様性に関心を持っていた荒木さんは、そこで不動産のあり方が自然再興と切り離せないと確信。この学びが、入居者が集まる住まいをどうつくるかという課題と結びつき、のちの提案へとつながっていきます。

    研究会では農業経営やグリーンインフラなどにおいて自然再興に取り組む実践者と議論し、彼らがもつ情報や熱量に直に触れる機会となりました。

    「地域に昔からある木、在来種を植えれば、数が減り続けている在来の鳥やチョウが立ち寄る場所になるかもしれない。そんな考えを、集合住宅で実現したいと思いました」。

    荒木さんは、建物のコンセプトや外観のラフ案に加えて敷地に植える木々まで描き込んだ提案を用意しました。そのプレゼン中に荒木さんが発した「在来種」という言葉に、オーナーさまが反応されました。オーナーさまはかつて仕事で公園緑地に関わった経験があり、親しみがありました。

    植栽の配置を記載した設計書。

    一方で、経営者としての“本音”も出てきました。

    「あまり大きくなる木は困る」。

    木が育てば剪定の回数が増え、その費用は収益を圧迫します。そこで荒木さんたちは、植えた後に大きくなりにくい、樹齢40年ほどの成木を選びました。

    土にも工夫を施し、畑だった土地の土壌を捨てず、いったん敷地内に保管してから緑地へ埋め戻しました。「畑の土には、長い時間をかけて育まれた有機物や微生物がいます。その土地にあった土を、できるだけ緑化に生かしたいと考えました」(荒木さん)

    雨水も、ただ排水するのではなく、雨が降らない時期には自動灌水で補えるよう、緑地に一時的に導くようにしました。自然の循環をできるだけ生かしながら、植栽を維持するための現実的な設備も組み合わせています。

    「緑と余白」は10年後の競争力になる

    Green Terraceでは中央にパティオを設け、木を植え、ベンチを置き、住む人がとどまれる余白を残しました。住戸の窓はパティオに向けて設けられ、子どもたちが遊ぶ様子に自然と目が届きます。

    人が過ごす空間と車の動線を分けたため、プライバシーや安全性に配慮されています。

    「ただ広場があるだけでは、人は集まりません。座る場所があって、木陰があって、風が通って、見えるものが美しくて、安全であること。そうした条件がそろって、初めて気持ちよく過ごせる場所になると思います。多くの人が漠然と感じる心地よさが何から生まれるのかを言葉にして、空間に落とし込みました」。

    さらには建物をすべて2階建てに抑えたことで、パティオからは空が広く見えます。

    「入居開始後には、ベンチに座って赤ちゃんをあやすご入居者をお見かけしました。嬉しかったですね」。

    「在来種」から始まった対話を皮切りに、ネイチャーポジティブはこの住まいの大きな柱になっていきました。

    賃貸住宅の収益性を短期的に考えるのであれば、敷地をできるだけ建物や住戸に使うという判断もあるでしょう。ですが、荒木さんは、こうした取り組みは、経済合理性と対立するものではなく、長い目で見た物件の価値にとってもプラスになると考えています。

    「建物は10年後には新築ではなくなり、その頃には新しい賃貸住宅も建ちます。でも、新築と競合したときにも、コンセプトがしっかりあれば、そこにご入居者は集まる。付加価値があれば、家賃は値崩れしにくいと思うんです」。

    その価値を支える仕掛けの一つが、コミュニティデザインの考え方です。Green Terraceには1LDKから4LDKまで異なる間取りがあり、家族構成の変化に応じて住み替えられるように計画されています。

    「新婚の二人が住み始めて、子どもが生まれる。中庭で子どもを遊ばせるうちに親同士も知り合いになって、家族が増えたら、より広い部屋へ移る。そうしてこの場所に根付いてもらえたら、それが安定した経営につながると考えました」。

    夜も温かさが感じられる空間です。

    「なんとなくいい」を、設計する

    荒木さんは、ネイチャーポジティブを特別な一棟だけのテーマにしたいわけではありません。地域ごとに異なる自然環境や、オーナーさまごとに異なる事情を読み解き、建物・外構・植栽・暮らし方までを一体で考える。その姿勢を、次の設計へつなげたいと考えています。

    「工業化住宅には、形の上でできることに限りがあります。だからこそ建物だけでなく、外構や植栽、そこでどんな暮らしが生まれるかまで含めて、全体をデザインしたいんです」。

    大和ハウスグループは、地域ごとの在来種をリスト化し、生態系に配慮した緑地を2035年までに累計300万m2以上創出する目標を掲げています。とはいえ、オーナーさまの中には、管理の面で、植樹ではなくコンクリートを選ぶ方もいらっしゃいます。だからこそ荒木さんは、「緑がある方がいい」と真正面から伝えることはしません。

    「まずは“なんとなくいい”と思える、美しい提案をつくること。そこから、将来はこんな木陰ができる、こんな場所になると想像してもらうことを大事にしています」。

    Green Terraceは入居募集の開始からわずか1週間で全20戸のうち10戸の入居者が決まりました。オーナー様が希望していた“人が集まる”集合住宅は、こうして形になりました。

    提案を受け止めたオーナーさまの思い

    オーナーさまは、この地で生まれ育ち、長く調布の街の移り変わりを見てきました。これまでも賃貸住宅を手がけてきましたが、今回の計画も当初は「細長い敷地に四角い低層のアパートを建てる」くらいのイメージを抱いていたと言います。

    「自分では、こういう建物ができるという発想はありませんでした。最初の図面を見て、これができるならいいなと思いましたね」。

    「Green Terrace」のオーナーさま。

    オーナーさまが惹かれたのは、建物が敷地いっぱいに機械的に建つのではなく、住戸をずらした配置の間に緑や空間が生まれることでした。駅へまっすぐ続く旧線の緑道ともなじむことも、気に入った点の一つです。

    オーナーさまご自身がこだわったのは外壁の色でした。当初はカラフルな案もありましたが、住宅街の中で目立ちすぎないよう、落ち着いた色合いを選んでいます。

    完成した住まいを歩いて、オーナーさまが改めて感じたのは、住む人同士の「ちょうどいい距離感」でした。住戸の窓やドアは中央のパティオに向き、入り口は道路から直接つながらないよう工夫されているため、外部の人は入りにくくなっています。

    「近過ぎる関係は煩わしいこともあるし、かといって、隣に誰がいるかまったくわからないのも寂しい。ここはその中間。住む人同士がちょうどいい距離感をつくれるのではないかと思います」。

    新宿まで電車1本で行ける調布は、若い世代が増え、住む人の入れ替わりも激しい街だと言います。だからこそ、人生の段階が変わっても住み続けられる住まいであってほしい。家族の成長に合わせて住み替えられるという荒木さんの計画は、長くこの街を見てきたオーナーさまの実感や希望とも重なっていました。

    内観の様子

    完成後、オーナーさまのもとには、近隣の知人から「いいものができたね」と声が届くようになりました。

    実は「Green Terrace」という名前は、オーナーさまご自身が考えたものです。テラスが表すのは、オーナーさまが一番気に入っているという中央のパティオのこと。荒木さんたちが丁寧に描いた緑と余白の提案を、オーナーさまは自らつけた名前で受け止めました。

    ネイチャーポジティブな集合住宅とは、緑の量だけで測れるものではありません。木陰に人が集い、雨水が土へ戻り、地域の風景と建物がなじみ、オーナーさまが維持し続けられること。その一つひとつが重なって、ようやく暮らしの風景になります。

    荒木さんたちが考えた美しさと、オーナーさまが大切にした地域との調和。その二つが重なって生まれたGreen Terraceは、都心の賃貸住宅が自然とどう共生できるのかを問いかけています。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    「コトクリエ」の公式note「奈良で構想できた地域に貢献する集合住宅」はこちらよりご覧いただけます。

    ネイチャーポジティブで地域に貢献する集合住宅 ~実践者との出会いから事業が生まれるまで~

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    大和ハウス工業の生物多様性に配慮した住宅やまちづくりについては、こちらをご覧ください。

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