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連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目 使用する食材の95%が台湾産、台湾を代表するグリーンなファインダイニングの価値観とは

連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目

使用する食材の95%が台湾産、台湾を代表するグリーンなファインダイニングの価値観とは

2026.6.29

    台湾在住のノンフィクションライター、近藤弥生子です。

    台湾旅行に来たら、ぜひ立ち寄っていただきたいファインダイニング、それが台北市内にある「好嶼 HOSU」。台湾語の「良い事」と「島」に由来する店名の通り、台湾各地の大自然や多様性ある文化を表現した料理と、食材の95%に台湾産のものを使用するなど、サステナブルに注力することで知られています。2023年、24年、25年と三年連続ミシュランガイドのグリーンスター※に選出され、2025年には一つ星に輝いた、台湾のグリーンなレストランを象徴する存在です。

    今回はそんな「好嶼 HOSU」のオーナーシェフであるイアン・リー(李易晏)さんにお話を伺いました。

    ※ミシュラングリーンスター:ミシュランガイドが2021年度版から始めた取り組みで、持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動しているレストランを選出するもの。

    台湾料理を語るなら、台湾を知る

    「台湾の食材を使って、多様性のある台湾の文化を表現しています」とイアンさんが語るように、「好嶼 HOSU」では食を通して、物語で台湾を知ることができます。

    「好嶼 HOSU」のオーナーシェフ、イアン・リー(李易晏)さん。

    「台湾という小さな島の上では、さまざまなエスニックグループの人々が暮らしています。台湾の味とは何か、台湾料理とは何かを考えるためには、“台湾とは何なのか”を考えることが必要でした」と、イアンさん。

    メニューはおまかせコースのみ。台湾の昔ながらの宴会スタイル「辦桌 pān-toh」や、結婚式の三日後に実家に帰った花嫁を迎える宴席料理「頭轉客 thâu-tńg-kheh」など、毎メニューごとに台湾の文化を表現したテーマが採用されています。

    写真提供:好嶼 HOSU

    「台湾原住民、本省人、外省人、客家人、新住民という五大エスニックグループを筆頭に、台湾では多様な人々が暮らしています。私にとって、この島の上で暮らしている人は皆が台湾人。自分なりのやり方で、台湾の味をお客様に伝えていきたい」と、さまざまな要素が取り入れられています。

    先日訪れた時にいただいたフィンガーフードは、台湾原住民の一つ「ブヌン族」の間で食べられる五穀のタルト、客家の柑橘ソース、台湾に多いミャンマー華僑の間でよく食べられている「豌豆粉」という辛い小吃(シャオチー)、中国東北地方に伝わる発酵料理・酸白菜(酸っぱ鍋)など、異なるエスニックグループに伝わるさまざまな味覚が凝縮して用いられていました。

    写真左から、酸っぱ鍋、豌豆粉、にんじんとかぼちゃに客家の柑橘ソースがかかったもの、ブヌン族の五穀タルト。

    2025年のミシュランガイドでソムリエアワードを受賞した陳琪蓉さんによるペアリングも、紹興酒に酸梅湯(さんめいたん)を合わせて提供されるなど、ユニークなプレゼンテーションが体験できると評判です。

    ソムリエアワードを受賞された陳琪蓉さん。

    イアンさんによれば、ここを台湾旅行の出発点や終着点にする海外からの旅行者もいるのだとか。

    95%が台湾産の食材

    イアンさんは、価値観を共有する各地の生産者たちとの間に協力体制を築き、できるだけ土地や動物に優しい食材を仕入れ、端材の一部は発酵させてソースに使うといったように手間ひまをかけることで、料理に使われる食材の95%に台湾産のものを使用するという驚異的な取り組みを続けています。これは、「好嶼 HOSU」を開いた当時から決めていた目標だったそうです。

    長年、肉や卵などを仕入れている雲林の「農場晃晃」は、オーストラリアからアンガス牛の繁殖用の雄牛を輸入し、人道的な方法で安定した飼育を実現したことから、“台湾アンガス黒牛”の生産者としても知られています。

    台湾でよく食べられるヤギは、煮込み料理にされることが多く、焼くと硬くなってしまうため、現在、イアンさんはこの農場にステーキに適した品種のヤギを育ててもらうように依頼するなど、品種の開発にも挑戦しています。リクエストした以上、一部の部位だけを買うといったことはできないので、育ったヤギを一匹丸ごと、どのように無駄なく使うかをやりくりするのもイアンさんの腕の見せどころです。

    雲林「農場晃晃」の創業者・陳さんとイアンさん。写真提供:好嶼 HOSU

    「好嶼 HOSU」は、自分たちで坪林と桃園にそれぞれ畑を借り上げ、食用できる台湾原生種の植物「蘭嶼秋海棠(しゅうかいどう)」を育てています。「Farm to Table to Farm」というスローガンを掲げ、どうしても廃棄せざるを得ない野菜や果物の皮などは飼っているミミズに食べさせて分解し、肥料にし、畑で使っています。一つひとつの規模は小さくても、実験的な挑戦がいくつもあります。

    インテリアや器にこだわる理由

    イアンさんのサステナブルへのこだわりは、料理だけにとどまりません。

    テーブルや椅子は台湾の職人に特注したもの。壁に掛けられたオブジェは花蓮産の蛇紋石。

    店内の一部の壁は、台南で養殖される牡蠣の殻を再利用した塗料が用いられています。料理の盛り付けに使用する器、テーブルや椅子などは、作家や職人に特注するなど、店内のさまざまな場所に、細部までサステナブルの精神が行き届いています。

    これは「来てくださったお客様が、ここでの体験をきっかけに、少しでも日々の暮らしでサステナブルを実践するヒントになれば」との思いで続けているのだそう。

    左:台湾のラタンブランドによる椅子。中:山と海をテーマに特注された陶器コレクション。右:台湾の職人にオーダーして生まれた美しく実用的なナイフ。写真提供:好嶼 HOSU、漫藤傢俬、Leon kwok

    挑戦者に勇気をくれる、異色の経歴

    イアンさんは1973年生まれ。「台北で育ちましたが、両親が共働きで夏休みなどは祖母の家がある雲林に滞在することが多かったので、自分は雲林出身だと思っています」とほほえみます。

    海外の名店で研鑽を積んだシェフがしのぎを削る台湾のファインダイニング界において、イアンさんは非常にユニークな存在です。学生時代は化学工業を専攻、卒業後に台北のピザレストランでホールスタッフとして働いたところからキャリアを歩み始めました。

    ピザレストランでホールマネジャーを任されるまでになったイアンさんは、仕込みなどの基礎的なところからキッチンでの調理を担当するようになり、さまざまな食材や調理法に出会いました。そこで印象的だったのが、今から15、6年前の台湾で、西洋料理で使われる香草はほとんどが海外から輸入した乾燥ものだったこと。どれも高価でした。

    イアンさんにとって香草のディルは、祖母が暮らす雲林に自生していたごく身近な食材でした。祖母はよく、新鮮なディルを摘んで、卵炒めに加えていたそうです。

    「当時の台湾の外食産業では、少しずつ西洋料理の選択肢が増えていき、香草も少しずつ台湾で生産されるようになりました。テレビ番組で生産者が紹介されているのを観て、台湾の食材とイタリアンを融合させたビストロをつくれないかと考えるようになりました」。

    島国の台湾は、食材の宝庫です。写真提供:好嶼 HOSU

    そうして2012年に事業パートナーたちとともに開いたのが、「一號島廚房」。“新台湾料理”を掲げ、「麻油雞(マーヨージー)リゾット」など、当時はまだほとんど見られなかった、台湾料理とイタリアンの要素を掛け合わせた創作料理を提供していました。ここで自らレシピ設計を手がけたことが、台湾各地の生産者や食材との出会いへとつながります。

    「当時の外食産業の労働環境にも疑問を持っていました。ランチとディナーを掛け持ちしても給与は低く、健康保険や労働保険もなかった。自分が店を開いたら、労働環境をサステナブルなものに変えたいという思いもありました」とイアンさんが語るように、「一號島廚房」ではディナーのみの営業に集中したのだそう。

    その後、コロナ禍や娘の誕生を機に、経済的なプレッシャーが重くのしかかっていたところに、イアンさんのメンターに推薦されて手がけたのがレストラン「好嶼 HOSU」の開業でした。

    ミシュラングリーンスターが追い風に

    「好嶼 HOSU」のエントランスの特等席には、台湾原生種の五葉松が。

    イアンさんが参画して2021年にオープンした「好嶼 HOSU」は、コロナ禍ということもあり、当初はケータリングを中心にしていましたが、コロナ禍の影響で創業者らが撤退。イアンさんが妻のミキ・シュー(許欣潔)さんと共に経営を受け継ぎました。かなりの経営難にあったところに、転機が訪れました。ミシュランガイドが新たに始めたグリーンスターの第一期に選出されたのです。

    「グリーンスターに選出されてから、たくさんの方が安定して来てくださるようになりました。あと一カ月遅かったら、店を閉めていたかもしれません。本当に感謝しています」。

    「自分の影響力は小さなものです。数十年後、自分が引退する時に、自分たちのようなグリーンなレストランが主流になることはないかもしれない。それでも、次の世代で自分たちのような取り組みをする人が少しでも増えてくれたらと思っています。小石が落ちた水面に波紋が広がっていくように」と夢を語ってくれました。

    実はイアンさんを取材する二日前、高雄にオープンしたファインダイニングを取材するなかで、オーナーから「好嶼と同じ農場からお肉を仕入れています。この壁も、好嶼と同じ、牡蠣の殻を再利用した塗料を塗っています」と言われたばかりでした。イアンさんの信念は確実に広がっています。

    店舗情報

    好嶼 HOSU

    住所
    台北市大安區仁愛路四段300巷20弄17號
    営業時間
    火〜土曜 18:30〜の回と、19:30〜の回
    土曜はランチもあり 12:00〜の回と、12:30〜の回
    日曜・月曜定休
    料金
    コース料理 一人3,880元〜
    ペアリング(4杯)一人1,500元、(7杯)一人2,400元
    水代 一人150元、お茶代 一人200元
    サービス税10%

    PROFILE

    近藤弥生子

    近藤 弥生子Yaeko Kondo

    台湾在住ノンフィクションライター。1980年生まれ。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年に台湾に移住。日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作会社を設立。オードリー・タンからカルチャー、SDGs界隈まで、生活者目線で取材し続ける。近著にオードリー・タンの母が綴る『家族と教育』(集英社文庫)、『台湾はおばちゃんで回ってる?!』(だいわ文庫)、『オードリー・タンの思考』(ブックマン社)

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