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連載:未来の旅人 天気は「当てるもの」から「社会を動かすもの」へ。気象データが変える生活の裏側

連載:未来の旅人

天気は「当てるもの」から「社会を動かすもの」へ。気象データが変える生活の裏側

2026.5.28

    私たちの生活は、日々、天気と密接に関わっています。

    しかし近年、その「天気」が私たちの想定を超え始めています。前年を更新し続ける記録的な暑さ、各地で頻発する豪雨——異常気象はもはや「例外」ではなく、毎年繰り返される「日常」になりつつあります。2026年4月17日、気象庁は最高気温が40℃以上となった日を新たに「酷暑日」と呼ぶことを決め、話題を呼びました。

    「予測できない時代」といわれる一方、企業は毎日、意思決定を迫られています。商品をどれだけ製造するか、どれだけ仕入れるか、工場をどこまで稼働させるか。実は、その判断に大きく影響を与えているのが「天気」です。

    「世の中の産業の約3分の1が、天気の影響を受けているといわれています」。

    そう話すのは、一般財団法人日本気象協会で、気象データを活用した商品の需要と供給のコンサルティングを務める須長智洋さんです。

    いま、天気は単なる「情報」から、社会を動かす「インフラ」へと変わりつつあります。その裏側で何が起きているのか、須長さんに迫りました。

    気温が1℃変わると、私たちの行動はどう変わる?

    「日本気象協会というと、天気予報をお伝えする団体のイメージが強いかもしれません。実はそれだけではなく、気象データを調査・解析し、お客様の課題に寄り添う『気象コンサルティング』にも取り組んでいます」。

    防災情報やエネルギー事業、環境アセスメント、企業の問題解決まで踏み込んだ支援などにも取り組んでいますが、なかでも須長さんは、2018年から気象データとAI・統計を活用した商品需要予測サービスを用いて、主に企業の「需要と供給」を読む支援を行っています。

    しかし、「気象と需要と供給の関係性」とは具体的にどういうことなのでしょうか。

    日本気象協会から見える景色。天気の移り変わりにいち早く気付くことができます。

    「例えば、ビールやアイスクリームなどの夏商材は、気温1℃の変化で売り上げが大きく変わるとされています。私たちは、気象データと企業様が持つ商品の出荷量やPOS(販売時点情報管理)データなどを掛け合わせて、商品の『売れ始め』『ピーク』『終売』のタイミングと、それを引き起こす目安気温をエリア別・商品別に可視化するサービスを提供しています」。

    これにより、企業は適切なタイミングで、適正な量を製造・出荷・販売できるようになります。結果として、販売機会の最大化はもちろん、食品ロスや過剰在庫の削減にもつながる、サステナブルな循環が生まれます。

    画像提供:日本気象協会

    道路工事に鍋の終売時期まで……天気が決める企業の動向

    「導入企業様は、メーカーや小売店、道路工事などの建設現場まで多岐にわたります。わかりやすい例で言うと、3月に入っても急に寒波が来ると予測された場合、スーパーの入り口に入ってすぐの棚に鍋商品を置く、という行動につながります。そうしたお客様の意思決定とアクションを、気象データで支えています」。

    ほかにも、建設現場では気温や天候が作業員の労働環境に直結するため、現場の安全管理や工程計画においても気象予報が大きな判断材料となります。業種は違えど、「気象が意思決定を左右する」構造は共通しています。

    さらに須長さんたちは、大手キャリア企業とともに気象データと「人流データ」を掛け合わせた来店客数予測にも取り組んでいます。

    「気象データに加えて、周辺の人の動きや施設情報を組み合わせることで、特定の店舗にどれだけのお客様が来るかを予測するサービスです。現在、予測精度は93%に達しています」。

    こうした多角的なデータの掛け合わせによって、日本気象協会の支援は「天気を教える」から「企業の意思決定」に関わるまで深化しています。

    「ただ『暑くなるからこれくらい売れるよね』ではなく、年間の経営企画の段階から入り込み、製造個数やスケジュールの検討といった製造販売計画にまで関わっていくこともあります」。

    夏に飲料が売れずにカップ麺の売り上げ増? 酷暑日により生まれる新しい行動様式

    長年蓄積された気象データと販売データ。しかし近年、「酷暑日」という言葉が生まれるほど暑さが年々更新されていく中で、私たちの生活には"新しい行動様式"が生まれ始めています。その変化は、これまで積み上げてきた予測の常識をも塗り替えつつあると、須長さんは言います。

    「これまでは、寒ければ鍋料理の商品が動き、暑ければ冷たい飲料やアイスクリームが売れるといった動きが定石でした。ですが、例えば暑いと売れるはずの商品が、気温が38℃や40℃を超えると、反対に売れなくなるという現象が起きています」。

    猛暑になって野外スポーツの自粛が呼びかけられると、人はクーラーの効いた室内に入ってしまいます。その結果、屋外で消費されるスポーツドリンク系の売り上げは落ち込み、実は35℃前後が最も伸びやすいということがわかってきました。

    「反対に、暑すぎることでこれまで夏場に動かなかった商品が動くようになりました。インスタント系食品がいい例でしょう。屋外は暑いから出かけたくない、涼しいクーラーの中で手軽にカップ麺を食べよう、という新しい行動パターンが生まれています」。

    気候変動によって、これまでの「過去から学べる常識」が通用しなくなりつつあります。一方で、この変化は新たなビジネスチャンスを生むかもしれません。

    「40℃を超える日が日常になることで、どのようなマーケットが生まれるのか、というのが面白いところです。夏場でも、ただ冷たいものがいいというわけではなくて、室内にいれば逆に温かい食べ物や長袖の衣服が欲しくなることもあります。インスタント系食品のように、これまでになかった商品の動き方やカテゴリが誕生してくるのではないかと思っています」。

    異常気象は脅威であると同時に、新しい需要を生み出す起点でもある——。だからこそ、最新のデータとその変化をいち早く読み取ることが、企業の競争力に直結する時代が来ているのです。

    天気を意識せずとも、日常を快適に過ごせるように

    日本気象協会は、「自然界との調和(ハーモナビリティ)」をキーワードに、気象データを軸とした持続可能な社会の実現を目指しています。

    「地球温暖化やエネルギー問題、少子高齢化も重なり、社会課題は常に変化しています。独自のノウハウがあっても、同じソリューションだけでは、同じ問題にしか解決策を出せません。独自の解析技術を継承しながらも、自然科学に則った確かな技術で、社会課題にソリューションを提供し続ける。自然界と調和し、変化にも対応していくことこそが、サステナブルだと考えています」。

    「ハーモナビリティ」とは、日本気象協会の掲げる企業メッセージ「私たち日本気象協会は、誠実に、探究心をもって、先見性や創造性を発揮し、あらゆる人々とともに『自然界と調和した社会』を創ります。」を表した造語です。

    先述したように、酷暑日によって売り上げのセオリーなど、これまでの"当たり前"が変わるような事例も生まれています。

    「課題が今後どのように表面化していくのかはわかりません。ですが、変化しても追いかけられるように、私たちは技術を武器として持ちながら、常にお客様の要望や課題解決に寄り添っていくスタンスを大切にしています」。

    客観的なデータを扱う須長さんですが、幼少期から大の「天気好き」だったと続けます。

    「天気によって気持ちって左右されませんか。雷が来るとワクワクもしますが、危険なのでドキドキもします。ふわっとした空を見た時は、やさしい気持ちになります。天気が移り変わると、私たちの行動も変わるんです」。

    しかし、一般の人が天気予報を見るだけでは、大きな組織の意思決定までには至りにくいのが現実です。

    「気象データを元に、さまざまな生活場面でのアクションを良い方向に変えていく。そうした企業努力を裏側から支えることで、先々は生活している多くの人たちが気象情報を意識して見なくても、快適な日常を当たり前に享受できる未来を実現していきたいですね」。

    PROFILE

    須長智洋

    須長智洋Tomohiro Sunaga

    一般財団法人日本気象協会に所属し、需要予測をはじめとする気象データのビジネス活用において、メーカーや小売店など多岐にわたる企業のコンサルティングに従事。AIを組み合わせた高度な予測モデルの開発・提供を通じて、食品ロスの削減や企業のサステナブルな活動を支援している。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    日本の社会課題である"酷暑"対策の家「断熱等級6を標準化」について、詳しくはこちらよりご覧ください。

    断熱等級6を標準化

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