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連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目 服を直すのは、服のためだけじゃない。アムステルダム発「United Repair Centre」が修理するもの

連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目

服を直すのは、服のためだけじゃない。アムステルダム発「United Repair Centre」が修理するもの

2026.10.29

    オランダ・アムステルダムに、年間5万4000着以上の服を修理する場所があります。それが「United Repair Centre(以下、URC)」です。

    働いているのは、18カ国から集まった人々。その中には、難民などの背景を持ち、母国で培った仕立ての技術を新しい土地で再び仕事にしている人もいます。

    「Repair is the New Cool(修理することは、新しいクールだ)」

    そう掲げるURCは現在、アムステルダム、パリ、ロンドンの3拠点を展開し、Patagoniaをはじめ、アウトドア、スポーツ、プレミアムファッションなど35以上のブランドと提携しています。

    なぜ今、これほど「修理」が求められているのでしょうか。そして彼らが修理しているのは服だけではないとしたら──?

    オランダ在住編集者である岡徳之さんが、サステナブルの新たな潮流を紹介します。

    「新品を買う」だけが、ファッションではなくなった

    世界では今、壊れたものを捨てるのではなく、修理して長く使う動きが広がっています。その象徴のひとつが、毎年11月のブラックフライデーに対するアンチテーゼとして生まれた「グリーンフライデー」です。新品の大量購入を促すのではなく、修理やリユースなどを通じて、今あるものを大切に使う。そんな消費のあり方への関心が年々高まっています。

    ちなみに国内でも、リユース市場は拡大を続けています。調査が始まった2009年以降、16年連続で成長し、2025年時点の市場規模は約3.5兆円にのぼります。

    大量消費から持続可能な消費へ。さらにその先をいくのが、今回紹介するURCの取り組みです。

    URC創業者のThami Schweichler(タミ・シュヴァイクラー)氏は、修理を単なる環境配慮ではなく、「消費に対するマインドセットの転換」だと捉えています。

    「新しいものを買うことで得られる一時的な興奮よりも、すでに持っているものを大切にケアすることで得られる満足感のほうが、深く、長く続くと思います」。

    URCアムステルダムの修理現場。ブランドから預かった衣類の修理を手がけています。
    Photo : Barbara Kieboom

    お気に入りの服にパッチを当てたり、破れた服を修理に出したりする。一度そんな経験をすると、「消費する」という行為への感覚そのものが変わっていくと言います。

    もちろん、若い世代が新品を買わなくなったわけではありません。むしろ変わりつつあるのは、ファッションの楽しみ方です。

    新品を買うだけでなく、中古を探す。手持ちの服を修理する。刺繍やリメイクによって、自分だけの一着に変える。

    シュヴァイクラー氏は、若い世代は過剰消費が環境だけでなく、服をつくる人々に及ぼす影響について、以前より多くの情報を持っていると指摘します。セカンドハンド(日本でいうリサイクルショップ)やリセールの広がりも、そうした変化を象徴していると言います。

    「かつて企業の競争優位は『最も安いこと』から生まれていました。しかし今では、『最も責任ある企業であること』が競争力になりつつあります」。

    UNIQLOも動き出した。「売ったら終わり」から「長く付き合う」へ

    こうした変化を受けて動き出しているのは、小さなサステナブルブランドだけではありません。

    UNIQLOは「RE.UNIQLO STUDIO」を展開し、傷んだ衣類のリペアだけでなく、刺繍などを使ったリメイクやカスタマイズを提供しています。

    2022年にロンドンで最初の常設RE.UNIQLO STUDIOを開設して以降、2025年11月末時点で23の国と地域、70店舗まで拡大。日本でも18店舗に設置されています。2026年には欧州でも、衣類をケアし、修理し、長く使うための取り組みを展開しています。

    またLevi'sなども店舗で修理やカスタマイズ、アップサイクルといったサービスを提供しています。

    これらは単なる「環境に配慮しています」という企業メッセージとは少し違います。

    従来のアパレルビジネスが「つくる→売る→また買ってもらう」ことを基本としてきたとすれば、そこに「ケアする」「修理する」「カスタマイズする」という接点が加わり始めています。

    服の寿命が延びるだけではありません。一着の商品を介した企業と顧客との関係も、購入した瞬間で終わらなくなります。

    URCでも、ブランド側の意識変化を感じていると言います。シュヴァイクラー氏によれば、最近、提携を検討するブランドとの会話は「修理サービスを提供すべきか?」ではなく、「どうすれば修理を大規模に提供できるか?」から始まることが増えているそうです。

    そのためURCは、ブランドと顧客の双方にとって修理を大規模に提供できるよう、独自のテクノロジーや仕組みに投資しています。

    修理は、小さな工房の職人的なサービスから、アパレル産業を支える新たな「インフラ」へと変わろうとしているのかもしれません。

    URCで扱われている衣類。2025年には5万4000着以上の衣類を修理しました。
    Photo : Barbara Kieboom

    服を直す人が足りない。そこで生まれた意外な出会い

    しかし、修理を大規模な産業にしようとすれば、一つの問題が浮かび上がります。

    「誰が、その服を直すのでしょうか?」

    シュヴァイクラー氏によれば、ヨーロッパでは高品質な修理を担える技能に「世代間のギャップ」が生まれています。

    かつては、手元にあるものを工夫し、修理しながら使い続ける「make do and mend」という考え方がありました。しかし、使い捨て型のファストファッション文化が広がるなかで、衣服を修理する技能が若い世代へ十分に受け継がれなくなってきたと言います。

    一方、新たにヨーロッパへ移り住んできた人々の中には、母国で仕立て職人として働くなど、高度な縫製技術を持つ人がいます。URCは、その技能と拡大する修理需要を結びつけています。

    URCでは、専門的な技術を持つテーラーが衣類を一点ずつ修理しています。
    Photo : Barbara Kieboom

    アムステルダムのテーラーチームには18カ国出身の人々が働いています。URCによれば、ニューカマーとして働くスタッフの90%以上が、URCで働くことでオランダ語の能力が向上したと回答しています。

    つまりURCがつないでいるのは、「修理してほしい服」と「修理できる人」だけではありません。

    新しい土地で仕事を必要とする人と、社会が必要としている技能。その二つを「リペア」という仕事がつないでいるのです。

    修理しているのは、服だけではない

    スタッフの一人、ハミダさんは、URCで働き始めて9カ月後の変化をこう語っています。

    「今では自信がつき、一人で食料品の買い物にも行けるようになりました。もう娘についてきてもらう必要はありません。ここで働けて、とても幸せです」

    URCはさらに「United Repair Academy」を運営し、就職する上で困難を抱える人々に無料で修理技術を教えています。

    受講者はそれぞれのペースで学び、修了すればURCでの仕事が保証されます。2025年には12人が参加し、9人が修了して有給の仕事に就きました。そのうち3人にとって、そこで手にした修了証は人生で初めて取得したものだったと言います。

    一着の服を修理する仕事が、別の土地へやってきた人の技能を社会につなぎ直す。仕事を生み、言葉を学ぶ機会となり、自信を取り戻すきっかけにもなる。

    修理によって回復しているのは、服の寿命だけではないのです。

    URCアムステルダムのスタッフ。テーラーチームには18カ国出身の人々が働いています。
    Photo : Barbara Kieboom

    国も「捨てない」から、「より良くする」へ

    こうした変化を後押ししているのが、欧州の政策です。

    EUが掲げる2030年の繊維戦略では、域内で流通する繊維製品を「耐久性があり、修理可能で、リサイクル可能」なものにしていくことに加え、収益性のあるリユース・修理サービスが広く利用できる未来を目指しています。

    欧州委員会は、そのビジョンを「Fast fashion is out of fashion」と表現しています。

    とはいえ、リペアが大量生産・大量消費の問題をすべて解決するわけではありません。

    安価な服を簡単に買い替えられる社会で、時間やお金をかけて修理する文化はどこまで定着するのでしょうか。企業が修理サービスを提供する一方で、大量の商品を生産・販売し続けるという矛盾も残ります。

    それでもURCの取り組みが興味深いのは、「環境への悪影響を減らす」だけではない価値を生み出していることです。

    服の寿命を延ばす。失われつつある技能をつなぐ。ニューカマーに仕事を生み出す。人が自信を取り戻す。そして企業と顧客との関係も長くする。

    シュヴァイクラー氏は、URCが目指す社会的インパクトについて、働く本人だけではなく、その家族や子どもたちまで視野に入れていると話します。

    「URCが成長しても、長期的で、世代を超えたインパクトを生み出すことを常に大切にしていきます」。

    近年、「悪影響を減らす」だけでなく、ビジネスを通じて自然や社会をより良い状態へと回復させていく「Regenerative(再生型)」という考え方が注目されています。

    URC自身が「Regenerative Commerce」を掲げているわけではありません。しかし、一着の服を長生きさせることで、失われつつある技能を残し、仕事を生み、人が新しい社会とつながっていく。その姿には、「減らす」だけではないサステナビリティの可能性が見えてきます。

    服を修理することから、経済や社会のあり方まで“修復”できるのでしょうか。

    「Repair is the New Cool」という小さな合言葉は、そんな大きな問いにつながっています。

    PROFILE

    岡徳之

    岡徳之Noriyuki Oka

    Livit代表・編集者/ライター。オランダ・アムステルダム在住。シンガポールにも在住経験あり。海外のハブ都市を拠点に、ミレニアル世代やZ世代を中心とした次世代の価値観、また生成AIなどの先端テクノロジーの潮流に着目し、ウェブメディアを通じて日本の読者に向けて発信している。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    大和ハウス工業は環境負荷“ゼロ”と“事業の拡大”の両立を目指し、資源が循環するサステナブルな社会の実現を目指しています。

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