サプライチェーン
秋葉淳一の「CREはサプライチェーンだ!」 Vol.7 「人財」が資産価値を上げる
公開日:2017/06/30
人手不足が真の課題か?
毎日のように、いろいろな場面で「人手不足」という表現を見聞きする。確かに図‐1が示すように労働人口(20歳から64歳として)は総人口の40%となっている。
(図—1)日本全国の総人口、労働人口、及び総人口に対する労働人口の比率の推移
※労働人口は、20歳~64歳の就業者(休業者を含む)と完全失業者としております。
出典:総務省統計局 国勢調査結果
しかし、真の課題は「人手不足」なのだろうか?
私は、「人手不足」ではなく、「人財(人材)不足」が真の課題だと考えている。
例えば、図‐2を参照して頂きたい。物流センターでの「ピッキング作業」の人時構成を示したものである。ここで50%の人時を費やしている歩行時間は、コンベアやピッキンロボットに置き換えることはできないのか?また、手待ち、リスト確認、探す時間を情報システムや人工知能の活用で削減することはできないのか?
(図—2)ピッキング作業の人時構成比
出典:「ビジュアル図解 物件センターのしくみ」田中 彰夫氏、臼井 秀彰氏
ご推察どおり、現在の技術レベルで両方とも可能である。
このように、人財以外でも可能な作業も含めて「人手不足」と表現しているように感じている。
私の専門分野である、ロジスティクスを例に人財の状況を記述する。
ロジスティクスにおける「業務」の現状?
日本においては、「物流」という言葉と「ロジスティクス(Logistics)」という言葉が混同して使用されていることが多々あるが、本来は全く違う意味である。「Logistics」を日本語にすれば「兵站」であり元々は戦争用語である。戦争に勝利する為にあらゆる情報(データ)を収集し、分析をして、戦略を練り、実行する。
以前のコラム「物流不動産の価値を上げる「人工知能」が資産価値を上げる」で説明した内容に近い。これをビジネスの世界に適用し、コストという重要な要素を加えた物が、我々が日常的に使用している「ロジスティクス」の意味である。「ロジスティクス」は自ら考えるものであり、ルールに従って実行する「物流」とは大きく違う。
ここで、日本のロジスティクス事情を振り返ってみたい。日本の人財に対する考え方、文化のようなものが見えてくる。
先ずは、WMS(Warehouse[倉庫]Management Systemの略)から振り返る。在庫管理システム(IMS)ではなく、WMSという倉庫管理システムと言われるカテゴリが整理されたのは、ERPと同時期の1990年代であり、もう四半世紀も以前の話である。WMSはこの間に日本独自の進化を遂げている。人間が作業をする前提であり、優秀な人材の豊富な日本においては、人間による判断や人間による改善といった属人性に依存するシステムとして進化してきたのだ。それでもトップクラスの生産性と素晴らしい物流品質を実現してきた。誤解されては困るが「カイゼン」がまさにその典型だ。
2010年くらいにAmazonにおけるピッキングの様子が撮影された動画が多く紹介されたが、記憶されているだろうか。ガンタイプのハンディターミナルを渡せば教育しなくても直ぐにピッキング作業が行えるというものだ。1指示に対して1作業を実行する。行き先ロケーションが表示されたら、そこへ行ってロケーションのバーコードを読み取る。次は、そこのロケーションでピッキングすべき商品が指示される。ピッキングすべき商品を探したらバーコードを読み取る。指示と合っていれば、次の行き先ロケーションが表示されるというものである。間違った商品をピッキングしたら次の指示には進まない。
この当時の日本では、ピッキング作業を実施する人に有効であろう情報を多く与えて、如何に生産性を向上させてもらうかに主眼をおいたWMSが開発導入されていたのである。教育は必要な時間だけ行うことが当然である。繰り返しになるが、優秀な人材がいることが大前提、人が作業する事が前提のWMSである。
次に、配車業務である。配車業務には配車マンと呼ばれる人がいる。日常的に意識はしていないだろうが、配車業務は大きく分けて3つの最適化を実行している。最適な車両台数の決定、最適なルートの決定、最適なドライバーの決定である。世の中には配車システムと呼ばれるものが存在するが、基本的には配車マンをサポートするシステムである。ここでも人間が仕事をする前提なのだ。恐らく最適に近い解が出されていると思うが、一番残念なことは、人間が判断する前提であるがために、データ化(コンピュータが認識可能なデータ)されていない情報が多く存在したままで放置されていることだ。こういう事象は多い。データ活用が進んでいないのである。いやデータ活用が出来る環境整備が進んでいないのである。一方で、データ活用を実施した場合の効果が大きいことも分かっている。
これからのロジスティクスにおける人財の重要性
「人間が仕事をすることが大前提」という延長線上では、これからの「人財不足時代」は乗り切れないとしたときに、コンピュータが認識可能なデータを作成し、収集し、上手く活用していくこと、人間とロボットや人工知能をどのように共存させるかが重要であることはこれまでに記述してきた通りである。
フル自動で全ての業務をロボットと人工知能で実施することも一案であるし、人間がするべき仕事、人間ではなくロボットが仕事をした方が良いこと、或いは人間が考えるより人工知能が考えた方が良いこと、これらをいかに組み合わせるかというコネクテッドロジスティクスの概念も一案である。
いずれの方策であっても、人材が考えるエンジニアリング力と人財が意思決定する投資が重要になってくる。だからこそ考えるべきことがある。
例えば、物流施設の中で取り扱う商材をカテゴライズできるとすれば、そこで動かすロボット、マテハン機器、システム、或いはそこでオペレーションする人をシェアリングすることは当然可能である。荷物だけを預ければ、非常に効率的なオペレーションを委託することができるようなセンターが構築できる。さらに、物流センターだけではなく、配送、或いはお店の中までの情報を一元的に管理することによって、物流センターや配送でのオペレーション、ショップでのオペレーションの次の動きを予測することができ、ロジスティクス全体で効率化が図れるのである。
こうした仕組み、システムを個社で設備投資をするCAPEXモデル(設備投資モデル)から、全てを運用コスト化するOPEXモデル(オペレーションコストモデル)に代わっていく流れの中で、経営者という人財の意思決定が今まで以上に企業価値、資産価値に与える影響が大きいと私は考える。
「人財」の有効活用に向けた課題
まず行うべきことは、人財にしかできない業務を選別することである。言い換えると人工知能やロボット、マテハン機器に代替え可能な業務を特定することである。人財の属人性に依存してきた日本では苦手なことだが、これができなければいつまでたっても、「人手不足」と言い続けることになる。
次に業務のデータ化(コンピュータが認識可能なデータ化)である。これによりデータが蓄積され、人工知能が「経験」を積むことができ、ロボットが自分の判断で動き出すのである。業務のデータ化もすぐに始めなければいけない。
そして、人財にしかできないことにフォーカスした人財教育である。オペレーション教育ではない、専門性の高い、あるいは特殊な業務の教育を実施する。
これらができれば、人財が人手の10倍以上の生産性を人工知能やロボットを駆使して実現するだろう。そして企業価値、資産価値は向上する。
トークセッション ゲスト:学習院大学 経済学部経営学科教授 河合亜矢子
トークセッション ゲスト:セイノーホールディングス株式会社 執行役員 河合秀治
トークセッション ゲスト:SBロジスティクス株式会社 COO 安高真之
トークセッション ゲスト:大和ハウス工業株式会社 取締役常務執行役員 建築事業本部長 浦川竜哉
トークセッション ゲスト:株式会社Hacobu 代表取締役CEO 佐々木太郎
トークセッション ゲスト:明治大学 グローバル・ビジネス研究科教授 博士 橋本雅隆
トークセッション ゲスト:株式会社 日立物流 執行役専務 佐藤清輝
トークセッション ゲスト:流通経済大学 流通情報学部 教授 矢野裕児
トークセッション ゲスト:アスクル株式会社 CEO補佐室 兼 ECR本部 サービス開発 執行役員 ロジスティクスフェロー池田和幸
トークセッション ゲスト:MUJIN CEO 兼 共同創業者 滝野 一征
トークセッション ゲスト:株式会社ABEJA 代表取締役社長CEO 岡田陽介
トークセッション ゲスト:株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 小野塚 征志
トークセッション ゲスト:株式会社アッカ・インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和
スペシャルトーク ゲスト:株式会社ママスクエア代表取締役 藤代 聡
スペシャルトーク ゲスト:株式会社エアークローゼット代表取締役社長兼CEO 天沼 聰
- 第1回 お互いのビジネスが「シェアリング」というコンセプトで結びついた
- 第2回 まずは見ていただいて、シェアリングの世界を感じていただきたい
- 第3回 シェアリング物流のコアで、かつ本質的なところは、進化すること
秋葉淳一のロジスティックコラム
トークセッション:「お客様のビジネスを成功させるロジスティクスプラットフォーム」
ゲスト:株式会社アッカ・インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和
トークセッション:「物流イノベーション、今がそのとき」
ゲスト:株式会社Hacobu 代表取締役 佐々木 太郎氏
「CREはサプライチェーンだ!」シリーズ
- Vol.1 究極の顧客指向で「在庫」と「物流資産」を強みとする「トラスコ中山」
- Vol.2 「グローバルサプライチェーン」で食を支える日本水産
- Vol.3 「当たり前を地道にコツコツ」実現したヨドバシカメラのロジスティクスシステム
- Vol.4 「新たなインテリア雑貨産業」を構築したニトリホールディングス
- Vol.5 物流不動産の価値を上げる「人工知能」が資産価値を上げる
- Vol.6「ロボット」が資産価値を上げる
- Vol.7「人財」が資産価値を上げる
- Vol.8「ビッグデータ」が資産価値を上げる
- Vol.9 AI、IoTがCRE戦略にもたらすこと
「物流は経営だ」シリーズ
土地活用ラボ for Biz アナリスト
秋葉 淳一(あきば じゅんいち)
株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。
単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。