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コラム No.27-18

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 「物流イノベーション、今がそのとき」Ⅲ:宅配と物流の未来を考える フレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × 株式会社Hacobu 代表取締役CEO 佐々木太郎

公開日:2017/10/17

株式会社Hacobu 代表取締役CEOの佐々木太郎氏をゲストに迎えてのトークセッションの最後となる3回目。日本の物流業界は何を目指すべきか、今きている大きな波にどのように取り組むべきか、大和ハウス工業が目指す物流の世界について語り合っていただきました。

プル型サービス vs.プッシュ型サービス

秋葉:西濃運輸が「GENie」という別会社をつくって、広島でセブン-イレブンのデリバリを受け持つことになり、我々もこのプロジェクトに協力しています。
エリアごとにいくつかの店舗をまとめて配車などの管理をするために、20台の車に装置を付けてもらい、車が実際どのように動いているか、データを取っているところです。
そうすることで、二つのことがわかります。一つは最適なエリアの区切り方です。数カ月に1回ずつ見直しながら、より最適な区切り方を割り出していくことになります。もう一つは、どこからどこに荷物を運ぶか、つまり車両の最適な割り当て方です。佐々木さんが指摘されるように、実際の車の動きに応じて自動的に割り当てていくことが可能になります。

佐々木:速度監視やアイドリングのデータも5秒に1回のペースで取れるんですよね。大手企業が多額の投資をして入れたシステムでも1分に1回だったりするので、我々のほうが安いのに精度がいいという結果になっています(笑)。

秋葉:ただ、GPSなので、トンネルに入ったりするとデータが取れなくなります。トンネルに入ってデータが取れないのか、エンジンを切ったからデータが取れないのか、そのあたりは複数の情報から予想することになります。かなりの速度で走っていたのに急に取れなくなったのであれば、トンネルに入ったということが分かるわけです。

佐々木:GPSには誤差があって必ずしもデータが道の上を走っているとは限りません。そこで実際の道のデータと引き合わせて、きれいな線に描画する「マップマッチング」という技術も導入しています。このマップマッチングについては、大手の運送会社ですら導入を諦めて生データの表示にとどめていたりするくらいで、使う人からはごく普通に見えているものでも、それを実現するために裏ではけっこう細かい部分で頑張っているわけです(笑)。

秋葉:こうしたデータが貯まってくると、配送頻度が高いエリアだとかトラックがよく通っている道がわかり、ある場所からある場所に行くのにどれくらい時間がかかっているかもわかります。それらのデータをすべて整理し直すことで、どういうエリアの設定が最適なのかということも見えてくるわけです。
なぜ私たちがGENieに協力するのかというと、今、セブン-イレブンは日本全国で約2万店舗ありますが、この試みを日本全国に広げていこうとなったときのことを考えているからです。人間が配車を行う以上、何人の担当者が必要なのか、莫大な人数に上るであろう中で作業レベルを一定に保つことができるのか、という問題が出てくるのは明らかです。こういう作業については人間に依存すること自体が間違っているというのが私の考えなので、広島でやっているうちにデータを集めて仕組みをつくっておき、全国展開する際にはきちんとシステム化したもので対応できるようにできればと思っているわけです。

佐々木:そういうことが可能になるのも、とにかく「データが取れること」が前提なんですよね

秋葉:さらに、GENieの取り組みの面白さは「宅配のプル型」であることです。たとえば、多くの運送会社が行うサービスは基本的に送る側の意思を優先した「プッシュ型」で、その延長に宅配ボックスや再配達などのサービスがあります。
セブン-イレブンの宅配サービスは再配達率がゼロなんですね。なぜなら、お弁当などお客さんが今持ってきてもらいたいものをオーダーし、それをすぐに届けるというサービス形態だからです。ここに、プッシュ型とプル型の大きな違いがあります。
プッシュ型はまず配送ルートありきなので、いないのを承知で不在票をポストに入れに行っている側面もありますが、オーダーされた場所にすぐ届けに行くプル型の場合、そういう無駄はありません。一日の大きなルートの中での寄り道と、確実な届け先をつなぎ合わせたルートとでは、まったく質が違うわけです。
プッシュ型で来る荷物と、プル型のオーダーの人たちとを結びつけることができれば、再配達の問題などもなくなってしまうでしょう。
すべての宅配をプル型にできるわけではありませんが、個配の限界に対して「足らないところを埋めていく」方法として、プル型というのはかなりのアドバンテージを持ったサービス形態だと思います。
ですから、プル型の可能性に対して、私はものすごく注目していますし、そこに関わっていたいと思っています。ほとんどの人はプッシュ側にいて議論していますが、私はプル側にいたいと思います。

今、新たな波が来ている

秋葉:現在、ヤマト運輸をはじめとする運送会社が、宅配料金の値上げを発表しています。Amazonも対象の例外ではなさそうです。そうなると、他の宅配業者も横並びになりますから、新たな料金が決まり、消費者が払う宅配料金も値上がりします。私たちの生活に影響が出ることは間違いのないところでしょう。気軽にゴルフバッグを送るようなことはできなくなるかもしれません(笑)。
実は、GENieもデリバリ単体では採算がとれないので、その分はセブン-イレブンの本部や各店舗が負担して、この事業を成立させているわけです。こうしたことが周知された結果、買う人も含めて「皆で宅配のコストを負担しよう」という世界になると、プル型ビジネスの事業化が可能になります。採算が取れるのであれば、他の事業者もまた参入しようとするでしょう。そのときにGENieと我々がきちんとデータを活用できていれば、先に進んでいる分のアドバンテージはかなり大きいはずで、それが企業としての強みなるのではないかと思います。

佐々木:アメリカだと、GENieタイプのプル型のサービスがけっこう成り立っています。インスタカート(食料品の即日配達サービスを運営するアメリカの企業)もまさにそうです。日本では、秋葉さんのお話にあったように、そのサービスに対して受益者負担がされていません。サービスはお金が掛かるもの、もっと利便性のあるものにお金を払ってもいいというように意識が変わってくれば、本来は成り立つはずです。でも、お金を払いたくないという人たちがいるのも事実で、そういうサービスが成り立たないという状況があります。そうした状況が今回の料金の値上げやプル型の事業化などによって変わってくると、サービス料金がかかるとしても、プル型の事業が成り立つ可能性があると思います。
Amazonが買収したホールフーズはインスタカートと綿密なパートナーシップを結んでいるので、今後、プル型のビジネス展開を視野に入れていることは確かだと思います。

秋葉:今、間違いなく波が来ています。ずっと波待ちをしていたので、その波に乗れるかどうか、ここからが本当の勝負ですね。事が起きてから動いても間に合いませんし、個社が単独で必死に漕ぐのではなくて、同じ志を共有できる企業が協力し合って一気にこの波を乗り切ることが大事だと思います。それができないと、日本はAmazonはじめ外資に根こそぎやられてしまいかねません。

プロバイダーがコンサルタントを兼ねる時代?

秋葉:これは宅配など物流に限った話ではありません。商品をつくって在庫管理をしてお客さんに届けるという点ではどのビジネスも同じですから、今までは安泰だったとしても、こういう新たな波が来ていることに対して、どう動くかが非常に重要になってきます。
「危機が迫っていますよ」といくら一生懸命に話しても、危機感のない人にはなかなか届かないのが現実です。その一方で、解決策はわからないにしても、課題意識はものすごくあるという人たちに対して、我々がどんな説明ができるのか、そこが鍵になるかと思います。
今、課題というと、採用が大変とか、採用して一生懸命教育しても辞めてしまうとか、どうしても人の問題が中心になります。しかも、解決策がわからない、どうしていいかわからないわけです。それに対して、昔のように「システムを入れれば何とかなりますよ」という提案をしてもだめだと思うんです。やはり人にしかできないこともありますから。
そこで、私としては「人間依存の発想を変えませんか」と言いたいわけです。そこをまず入口にして、「人にしかできないこと」と「そうではないこと」を明確に整理する。さらにデバイスを使ってデータを集め、それをうまく活用していけば、ロボットやAIなどいろいろなことができるようになるはずです。
そもそも人手不足と人材不足の話は違うわけで、人がやらなくてもいいことまで人にやらせておいて、「人が足りない」という議論をするのは不毛だと思います。

佐々木:Hacobuはサービスのプロバイダーなので、本来はサービスを買っていただければそれでいいのですが、どうしてもコンサル的なことをする羽目になるんですね(笑)。Hacobuのサービスは業界でも最安値ですが、それでも最初は「もっとコスト下がらない?」的な部分からスタートすることがあります。そういう場合は、大切なのは「どういう将来像を描いているのか」なのに、「その将来像をちゃんと描かないで、今の目先のことをやろうとしているから高く映るケースがほとんどです。そこに向けての投資だと考えたら全然安いじゃないですか」みたいなことを言っています。
無償でコンサルティングをやっているようなものですが、物流業界のマネジメント層はITとかイノベーションに疎い方が多いので、そういった投げかけをするだけでパッと意識が変わるケースも少なくないんです。戦略としてどういうことを考えなければいけないのか、IoTにどう取り組むか、といったことを一緒に考えていくことで、最終的に我々のサービスを使っていただけるようなこともあるので、できるだけそうした投げかけをしていこうと思っています。

秋葉:今までの配送業は「来たものを送る」だけでよかったのですが、そういう発想そのものを変えなければならないのが今の時代です。佐々木さんはサービスプロバイダーと言いながら、「ビジネスプロセスを変えましょう」という提案もされています。危機意識や課題意識がある人であれば、きちんと説明することで導入につなげることができるという実感は私にもあります。

佐々木:そのサービスを入れることによって「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)しましょう」ということまでがセットになってきますから、そういったアプローチに始まって、本当にいろいろな相談に乗りながら導入を進めていくことになります。

秋葉:BPRをやると基幹システムとか管理システムにも大きな影響が出ますから、それこそシームレスにデータがつながっていかないと、せっかくのデータも価値が上がっていきませんし、お客さんの事業に対する効果も限定的になってしまいます。コンサルティングとしても、かなり重要な部分のコンサルティングですよね。

佐々木:無償でそこまでやっているので、よく考えたら、コンサルティングフィをいただいてもいいのかな、という気が最近はしてきました(笑)。

大和ハウス工業とともに目指す物流の未来

秋葉:今後も大和ハウス工業とはさまざまな取り組みをしていくことになりますが、データがシームレスに連携することによって、取り組める幅も数も一気に広がっていくのではないかと考えています。 現在、ロジスティクス全体の機能に加えて、暮らしに関するすべての機能を結び付けた「物流タウン」と呼ぶ構想を持っています。物流タウンに必要な領域は全て大和ハウスグループでカバーしており、自治体とも連携した物流タウンは、まさに求められているものだと思います。
今、この物流タウンという言い方が個人的にすごく気に入っていて、タウンだからいろいろなものが存在していないといけないし、そのタウンに住みたいと思われるような場所にしたいと思うわけです。企業に「あそこの物流タウンに入居したい」と思わせるような街づくり、そこをファーストラインとして捉えています。
そして、こういうファーストラインの技術やノウハウをセカンドラインやサードラインに普及させつつ、「いつかは自分もファーストラインに行きたい」と皆さんに思ってもらえるようなものを考えていきたいですね。佐々木さんにもぜひその中に一緒にいていただいて、大活躍してほしいと思っています。

佐々木:大和ハウス工業の浦川常務に初めてお会いしたとき、「物流、ロジスティクスの領域で地方創生をしていく。それを一つの産業として盛り立てていく」というお考えを伺って、非常に共感しました。 これまで物流部門はバリューチェーンの中でも見下されがちでした。2000年前後のIT部門もそんな感じでしたが、今や組織の花形になっていて、ITがわからないとビジネスなんてできない世界になっています。
物流も今後、ITと同じようになっていくと思います。実際、これほど知的な領域もありませんから、私としては物流領域の地位を上げていって、そこにいろいろな才能が集まってくるようにしたいと考えています。このへんは大和ハウス工業が考えていることともリンクしていると思いますので、そういったことを一緒にやっていけたら面白いと思っています。

<完>

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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