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土地活用ラボ for Biz

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コラム No.27-40

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第2回 AIで物流に革命を株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × 株式会社ABEJA 代表取締役社長CEO 岡田陽介

公開日:2019/08/30

動画を撮ることで見えてくるもの

秋葉:フレームワークスは、大和ハウス工業のDPL流山の中で「PoC(Proof of Concept)」をやっています。まずはカメラをたくさん使って実証実験を行います。業務プロセスの中でこういうことがしたい、といったことも確かにあります。しかし、カメラで動画をたくさん撮ることに大きな価値があるのです。その動画をどう使うかは後でもよくて、動画を撮るということ自体が非常に重要です。
大量の情報が目に入ってきても、人間は賢いので、その中から必要な情報だけをチョイスしています。カメラも同じです。例えば60度の視界でカメラを設置しておけば、人間の視界よりは狭いですが、60度の範囲をすべて撮ることができるので、人間と同じで、カメラの中に情報が入ります。その中の何を使うかは次に決めればいいことです。明確な目的があって、画像からやりましょうという話もありますが、情報にはたくさんの使い方があるので、とりあえずカメラを設置しておくのです。
センサーデバイスなどを除くと、基本的には、何らかのアクションをしてはじめてデータ化されて、インターネット経由でクラウドに上がります。それが、アクションがなくても画像としてすべてクラウドに上げ、何かあればその中からデータ化をして、そのデータだけを保持することができると、現場で人間は何のアクションもしなくてもよくなります。この膨大な画像を使ってデータを作り出すということは、非常に価値のあることです。例えば、この中にQRコード(※)があったとしたら、その情報をとることができます。近くに商品があれば、その色の情報がとれます。画像の中にある情報はいくらでもとれるわけです。人間の顔を認識するのと同じようにできると思います。それは私たちが認識している世界ではなくても、画像の中に保存されている情報であれば可能なので、そういったかたちでデータを作り出すことができるのが大きいですね。あとは、それをどうやって使うかの話です。

※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。

岡田:PoCとは、日本語訳にしにくいのですが、あえて訳せば「概念実証」でしょうか。

秋葉:AI業界の考え方なのでしょうね。属人的な現場での積み上げ方とは違う感じがします。実際のビジネスの中で、その辺の感覚的なものを感じることはありますか。

岡田:本来は、新しい構想やアイディアを、形にしながら、その仮説に実現可能性があるか、どうすると実現できそうかを検証するプロセスを指すのですが、AI業界ではこのPoCという言葉が、意味が曖昧なまま、バズワード的に使われていて、課題に感じています。中でも、最近AI業界で話題になっているのがPoC貧乏”という言葉です(笑)。大きな投資をしてPoCに取組んでも、結局本番運用に至らずに終わってしまうケースがあまりにも多いからです。何が課題になっていて、どういう状態が理想なのか、という大前提を検証することなく、とりあえずAIで何かやっちゃいましょうという話からスタートすると、何も形にならずに終わってしまいます。

秋葉:先ほどのとりあえずカメラをつけるという話とPoC貧乏という話が、見方によっては近いように感じてしまいますから、そこをきちんと理解しておく必要がありますね。

岡田:明確に違うのは、”PoC貧乏”に陥るケースは、ある程度パターンがあることです。それは、AI活用が手段ではなく目的になっているケースです。例えば、社長から「とりあえずうちもAIをやるぞ」という話が出た時。どのような世界観を実現するために、何を検証すべきなのかという議論がないままに、言葉尻だけをつかみ、担当役員や部長の方が「何とかしなければ、とりあえずこれをやろう」と決めてしまうケースは危ない。これでは、本末転倒です。結局、10円で1円を買っているような状況になり、やればやるほど、コストばかりが膨らんでいきます。これでは、AI技術を提供する企業側としても実証実験で終わってしまいますので、本番まではほど遠い。そんな誰にとっても嬉しくない状態に陥るケースが、この業界で多くなっています。

秋葉:例えば、とりあえずマイクをつけて音を録ってみて、音がきちんと拾えて、音声データを活用すれば業務プロセスや業務自体を変えられる、あるいは音声から導かれる予測などを仮説として確認する。そういうことを早くやればいいんですね。

岡田:画像認識でいえば、あるアパレルの小売店で、試着室まで持っていったけれども、結局買わなかったとしたら、その動きを見て、そこから推論する。「広げたら今一つ気に入らなかったのか」「身に着けた感じがよくなかったのか」など、そういう推論につながっていくということですね。

秋葉:購入しなかった理由が色なのか、サイズなのか、上下の組合せなのか、それはわかりません。であれば、ほかのものをレコメンドしてみる、などとつながります。データの活用という点においては、物流の世界よりも小売りの世界の方が圧倒的に進んでいます。小売りの世界では、マーケティング分析も含めてしなければならないので、データの活用はずっと昔からやっていることです。さらに、インターネットでものを売る場合、インターネット上であればいろいろな履歴が取れるので、さらに分析につながっていきます。これをリアルの世界でも同じようにやりたいのです。だからこそ、音声や画像も含めて撮って、それを人工知能で解析するということを一生懸命やっています。「クラウドの上に」という話と同じですが、物流は遅れていることを認めて、進んでいる業界・業種の中でやっていることの流用、転用など、できそうなことは何かを考えることが大事です。
進んでいる業界があって、ABEJAも、そこのお客様やそこでやっていることがすでにたくさんあるわけです。例えば、お店の中で情報をとって分析するとします。割り切って考えれば、棚が並んでいて商品が入っている点では、お店の中も物流センターも一緒です。客が歩いたか手を伸ばしたか、作業している人が歩いたか手を伸ばしたか、まったく一緒なのです。そういったこともあっとういう間にできるのではないかと思います。ですからPoCといいながら、一から始めなくても、経験を積んだ岡田さんたちがいるのであれば、私たちは途中から始められるのではないかと思っています。

ネクストステップを追求する

岡田:「カメラをつけまくるプロジェクト」という話をしたとき、メンバーからは大反対を受けました。しかし、私はカメラをつけることはすごく重要だと思っています。なぜなら、人が意味がないと思って、目をつぶらないのと同じです。意味がないとき、人間は目をつぶり続けていたほうが、処理が少なくなるのでいいはずです。それなのにずっと見ているということは、何かしら気づかないところに気づくということがすごく重要なのではないでしょうか。人もそうですが、見慣れてしまうと当たり前に処理をして、当たり前になればなるほど感覚的に処理をし始めます。車の運転をしているとき、30度ハンドルを切る、30度曲がるなどと考えて運転している人はいませんよね。感覚的な処理が始まることはディープラーニングととても似ている気がします(笑)。
見ているだけで感覚的に解読できるものがあるはずです。見ると何か違和感を覚えるのは、音声だったり、匂いも関係してきます。そういったことをモニタリングすることが重要です。物流業界の中で24時間365日状況を目視している人は皆無に近いので、カメラで撮っておいて、後から3倍速、4倍速で見たとしても、何かしらの気づきがあるはずです。その気づきの部分をAI化して、「これは今おかしかったよね」と発見できれば、これまで人ではできなかったところが急にできるようになっていくのではないでしょうか。そういうことも含めて、カメラをたくさんつけて、まずは現状というものを見ます。秋葉さんや私たちが見ると、「何か今のおかしくない?」ということが出てきます。そういったことを作り上げていくことが、近道だと思っています。
逆に、ソリューション側というか課題並列型では、目的があってカメラをつけますから、これが無駄に思えてしまいます。これはニワトリが先か卵が先かという議論と同じで、カメラをつけて気づくこともあるはずです。実際に作ったものをダイワロジテックさんのほうで横展開していくところまでいけると、おそらくこれは物流業界の革命になると思っています。

秋葉:さすがにカメラ1台100万円したら、とりあえずつけろとは言いません。ネットワークカメラの精度が上がって値段は下がっているという今の環境であれば、とりあえずつけたらいいという話です。
例えば、私がインターネット通販を物流施設でやっていたとします。お客様のところにものを出すとき、ハンディ端末でピッとやって箱に入れていきます。ところが、商品3個のお買い上げなので、確かに3個箱に入れたはずが、コールセンターにお客様から商品が入っていなかったとクレームきたら、現状ではこれを証明することができません。そこですみませんでしたと割り切って即商品を送ったとしても、クレームなのでそれだけでは済まずに、誰がやったのか、本当に大丈夫なのか、ハンディ端末のデータを探して、その商品をどうしたかなど、膨大な作業を行わなければなりません。
そこに画像があれば、タイムスタンプがあるのですぐにわかります。間違いなく3個を箱に入れていることを画像で確認できるのです。どのようにインデックスをつけるかという課題はありますが、インデックスがついていればすぐにわかります。そういったことがどんどん出てくると思います。人間がやっているのだから間違いが起こるのは仕方ないと思われていることがたくさんありますから。だから、そこでのチェック機能にも使えるわけですね。これは出荷のところの話ですが、この分析方法は他のプロセスでも使えます。熟練工のノウハウをコピーして持ってくることはできませんが、AIであればそれができます。カメラとセットで持っていけば終了です。

岡田:今はとりあえず撮っておくという段階ですが、検証すべき仮説のイメージはつき始めてきています。最初から見えているところもありますし、撮る中で課題感が見えてきているところもあります。実際に見てみて、こういうことかと気づくこともあります。

秋葉:私たちもそうです。結果を数字で見ていて、なぜそんなことが起こるのかわからなかったことが、動画を見直して、そういうことかと気づくことがあります。今までも当然指導をしていますが、私が四六時中そこで見続けているわけにもいきませんので、これまでは「ちゃんと指示をしておけよ」という話でしかありませんでした。

岡田:属人的にやっていて当たり前だと思っていたプロセスが「実は……」、ということですね。生産性効率のような指標と画像を解析すると、どのような条件で、生産性が上がるか下がるか、ということがわかってきます。これは、ずっと画像としてデータを残しておいたからこそわかる相関性です。画像が3時間しかなかったらまったく相関になりません。10日、20日とデータが貯まれば、生産性が良かったとき、逆に全然うまくいっていないとき、何が原因だったのだろうと後から見直すと「ここだ!」というものが見えてきて、解決につながっていくはずです。それを自動化していくのが、まさに人工知能の得意分野です。自動化が進んでいけば、次の活用段階にどんどん進んでいくことができます。

秋葉:ネクストステップこそが本来のポイントです。ある瞬間のある目的レベルを切り取ってモデルを作ることは、やりたいことの10%です。それができたら次もまた出てくるし、このデータを加えたらこうじゃないかという話をずっとしていかなければなりません。どこかで飽和するのでしょうけれど、人間の習熟の話と同じで、やらなければいけないことです。そうかといって、そこまでのデータ量を溜めて、PoCを一生懸命やってからこれを作ります、という話ではないはずです。いったんここでリリースして、ここまでクリアして、とやっていくためには、モデル自体も成長していかなければいけませんし、集めるデータの種類、精度も上げていかなければなりません。それに、カメラで撮るからわかることがあるといいましたが、画像から切り出せるものばかりではありません。人間が見てここがおかしいとわかっても、画像から切り出せないのだとしたら、センサーを入れるなり何かして、データをとらなければなりません。こうした仮説検証を繰り返しながら、1日も早くソリューションとして効果を出したいと思っています。

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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