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コラム No.27-43

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第2回 ロボットを導入するということは、プロセスを変革するということ株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × MUJIN CEO 兼 共同創業者 滝野 一征

公開日:2019/11/20

ティーチングされたロボットの限界

秋葉:ティーチレスで稼働するロボットは、動きもスムーズですね。ティーチングしたロボットの動きはカクカクしています。

滝野:人間のように考えられませんから、ティーチングしたロボットはカクカク動きます。ロボットの腕にはモーターが入っていて、人がプログラミングすると基本的には1関節ずつしか動かすことができません。きれいな動きをさせようとすると、少しずつ全部の関節を動かさなければなりません。何マイクロ秒ごとに何回転と指示しなければならず、そんなことは不可能です。ティーチングをしている限り、いくらロボットが見えます、掴みますといっていても、動きを見た瞬間に無理だとわかります。

秋葉:ティーチングした数だけ動きが止まりますからね。ということは、その間の動きを速くするのが精いっぱいなわけです。ティーチレスだとそこをスムーズに動いていきます。実際に見たらすぐにわかります。

滝野:箱の中から取って落とすデモなどは、20年前から大学がやっていることです。それなのに全然導入が進まないというのは、そこなのです。デモ自体はできるけど、ティーチレスではないし、決まったものしかできず、いろいろな変化に耐えられない。

秋葉:MUJINが制御したロボットはきちんと動きます。雑然と入っているものの中から、カメラの目で見て取りに行って、置くときもきちんと置きます。MUJINはまだ事業を始めて10年も経っていませんが、ものすごいスピードで進歩しています。市場を制覇しつつあると言ってもいいかもしれませんね。

滝野:ただ、現場ではまだ非常に苦労しながらやっています。MUJINはデモを取らずに本当のラインでやっているのですが、本当のラインは、例外や想定しなかったケースだらけです。それを、エンジニアが現場に張り付いて一生懸命やっています。スタンフォード大学を出ているような優秀なエンジニアが、寒い中、暑い中、張り付いてドロドロになってやっているわけです。MUJINのいいところは、優秀なエンジニアであろうが何であろうが、現場で最後まで諦めずにやるところだと思います。

秋葉:その成果があって、次々といろいろなことが実現していますね。

滝野:できなかったことができるようになったというフェーズは、だいたい2年半くらい前でした。そこから1年半くらいで、今度はちゃんと動くようになってきています。ちゃんと動くということは、お客様のスペックに耐えられて24時間動くということです。ここからは当然高性能化をやっていくわけですが、誰でも簡単にロボットを使える、構築できるというのが次のフェーズです。ここまでいったら、やっと私たちも胸を張って制覇しましたと言えるかもしれません。しかし、いつでも足はすくわれそうなので、まだ油断はしていません。それは、コピーキャット(模倣)にやられるというよりは現場が厳しいからです。いろいろな現場ごとにカスタマイズしていたらビジネスにならないので、それをしなくてもいいシステムを作れなければなりません。ティーチレスといってもいろいろあって、商材によって全部違います。お客様の要求も違うので、そこに特化して作り込んでいかなければなりません。

ロボットと人間の違いを知り、自動化のために業務プロセスを変革する

秋葉:MUJINが頑張っているおかげで、物流サイドの人たちが何を考えないといけないのかに気づき始めたということがあります。今までは、ロボットメーカーやマテハン会社にお願いして、エンジニアリングから含めてすべてやってもらっていました。こういうことができたらいいということを、全部揃えてもらっていたのです。しかし、MUJINが出てきたおかげで、自分たちの商材でロボットを使ってやるのだったら、おそらくですが、こういうレイアウトでこういうプロセスでしたいと一緒に考え出すはずです。まだまだ十分とはいえないので、MUJINや私たちがコンサルティングをするケースはありますが、物流サイドの人たちが考えるようになってきたことは非常に大きいと思っています。

滝野:例えば出荷場のシュート下の積み付けポジションが30箇所あって、これだけを自動化したいと言われたとします。そこを自動化するためには、まず、どういうプロセスでものをロボットの前まで持ってくるのか考えないといけません。ロボットは一度横に置いておいてまた戻すようなことはできないので、最初から順立てしておかないといけません。重たいものは下にとか、重たいものは先に持って置こうとなるわけです。そこから考え出すと、その順立てをどうやってやるのか。そうすると、ここに自動倉庫を入れましょう、などとなります。でも、自動倉庫に入る前に、在庫が1日何回入ってくるかわからないので、在庫がショートする可能性が出てくる。在庫がショートしないためには、もう少し在庫を積まないといけない、そうすると自動倉庫を増やす必要がある。自動倉庫を増やしたらまたコストが上がるので、だったら、後方の在庫の分は人手を使い、ここだけ自動化して、こっちはソーター(自動仕分機)で回せばいい。こういったことを考え出すと、実は非常に高度なことなのです。

秋葉:現在の物流センターというのは、人が働きやすいように仕組みがつくられています。業務プロセスやレイアウトも、全部人ありきで設計され、配置されているわけです。

滝野:ロボットと人は全然違います。衝撃的な発言をすると、瞬間最大風速でいうと人のほうがずっと仕事ができます。人は何でもできますから。
ただし、ロボットが人よりできないことは多いのですが、人よりもずっと上手にできることもあります。長時間働くことや正確さなどです。ロボットが5台あってもムラはありません。人の場合、熟練の人から未熟な人、辞めてしまう人までいます。また、ロボットには柔軟性がないので、見たらわかるでしょという世界はありません。ですから、事前に何がくるかという情報が必要です。周りのセッティングをきちんとしておけばロボットはずっと動き続けるので、すごく役に立つやり方があるはずです。それは、人のポジションと入れ替えたのではできません。ロボットを中心にして、全然違う考え方をしないといけないのです。

秋葉:ロボットによって自動化を図ろうと考えるとき、多くの人は、人の代わりに動く、人型ロボットをそのままイメージするくらいの感じだと思います。

滝野:複数のパンがあって、チョコパンを判別する必要があるとき、「チョコパン」と書いてあれば、パートさんならわかるのでそう判断しますが、ロボットにはチョコパンかどうかわかりません。バーコード等を見ないとわかりません。それなら、バーコードをきちんと検出できるようにしておく、ということです。私たちがやっとそれをできるようになって、周りの物流系の会社も、まず自動化は人間とは違うのだということ、ロボットや自動機器を使うためには自動化のためのレイアウトやワークフローを考えなければいけないことがわかってきました。
そうなるともう少し上位の業務プロセスの部分で標準化しないといけません。毎日全然違うものが流れてくる中で、人が選り分けているわけです。
極端な話ですが、現場で「もうどうやったらいいかわからない!」となったとき、「パートの葛西さん!葛西さんはどこ?今日は休みなの?葛西さんだったら見ただけでわかるのに!」となってしまうことからまず直さないといけません(笑)。

秋葉:笑い話のようですが、現実は、まだまだこうした現場が多数派です。それでもやっと考えるようになった。そして、自動化に向けて確実に進む会社が出てくる。そうすると、その差を埋めようと、いろいろな会社が引きずられて変わっていく。それが全体に大きな影響を与えると思っています。当然、お金やいろいろな制約の中でロボット化できない会社もまだあると思いますが、それに対して、キャペックスのモデルでどうかとか、キャペックスにプラスして繁忙期にリースするというアイデアはどうかなど、そういった話ができますよね。ただ、やろうと考えられる人たちが出てくればそれを提供できますが、そもそもまったく考えられない人には通用しない側面もまだまだあります。自動化イコール業務プロセスを根本的に変えるということになったとき、それが高いハードルであることは間違いありません。

滝野:物流の業務フローは、大きく分ければ、入荷する、ストックに格納する、出してくる、ピッキングをする、ソーティングをする、そこからさらに仕分けをする、出荷するという、五つ、六つくらいのことです。しかし、インバウンドや格納のやり方は、それぞれの物流センターによっても違うし、同じセンター内でも、一つだけではなくたくさんあります。箱の大きさはどうするのか、バッチの切り方はどうするのか、在庫数はどうするのか等々、一つのことだけでやり方が100通り以上あります。さらにマテハン機器があります。仕分け機器といっても、ピースソーターもあるし、ベルトコンベアソーターもあります。そういったことが10個以上あります。そうなると、10の10乗×100くらいの、非常に多くのやり方があることになります。それだけのパラメータの中から決めなければなりません。 さらに、これは庫内だけの話です。庫内でどれだけ頑張っても効率が上がらない。なぜなのかと聞くと、配送が1日に1回しか来ないから、15時だけがすごく忙しい。15時が忙しいから、そのために人を200人入れている。16時には暇になるのだけど、200人が1時間だけのために来てくれませんから、1日中来てもらわないとならない。これはどう考えても無駄なコストが発生しているわけです。そこを平準化したら、人は10分の1の20人で済むでしょう。それには、ITを使って配送をもっと平準化する。そうなるとインバウンドが減る。インバウンドが減ったらもっと効率よくできるようになります。インバウンドが減ったら、もう一回庫内のプロセスをやり直して、また違うやり方を考えます。そういったことをだんだんと積み重ねていくのです。

物流部門の在り方が変わってきた

滝野:現在は、サプライチェーン部門として、経営課題のなかでも上位に位置づけられるようになりましたが、以前は、物流部門はコストセンターという位置づけで、本来は効率化すべき部分でしたが、人材や予算は、物流ではなく、生産や販売のほうに投入されていました。
トヨタに自動化対象作業というものがあります。一つは危険なところです。二つ目はトランスファー部分、要は右から左へと移しているところです。動かすというところは、本来は自動化するべきところです。なぜかというと、価値を付加していないからです。ものをつくるということは、本来楽しいことです。鉄の塊がやってきて、機械に入れたら、50円のものがなぜか2万円になったりします。価値が生まれる瞬間、自分が貢献している感がすごくあるのです。しかし、物流は極端に言えば、右から左へと移す作業です。工場の中でも右から左に移したところで、価値は一緒なのです。
ですから、本当は自動化しないといけないところなのです。価値が少ない、プラス人がやるべきではないからです。人がやらなければいけないことはもっとたくさんあります。しかし、そこにはまず人がいなかった。フォーカスされていなかった。そもそも自動化が可能だとはみんな思っていなかった。自動化が可能だと思ったら、みんなチャレンジするはずです。生産部門の優秀な社員に、「物流にいって自動化してこい」となるはずです。ところが、そんな風景は生まれてからずっと見たこともないですから。

秋葉:物流の最大の制約はコスト削減ですから、経費や人件費を削減するかの考えしかなく、その課題の中で、パートやアルバイトの方が頑張っている姿しか浮かばないですよね。

滝野:物流の中でロボット化できるなんて思ってもいませんでした。ですから、そもそもそれが問題意識にもなっていませんでした。物流で何か問題ありますか?と聞かれても、人が集まらないことくらいでした。「パートさんを全部ロボット化できたらいいのですが」と言う人はあまりいません。生まれたときから、そんなものは見たことがありませんから。今日、駅からここまで来るとき、テレポーテーションできたらいいなとは思わなかったですよね。なぜなら、生まれたときからテレポーテーションしている人を見たことがないからです。では、秋葉さん、生活で何か困っていることはありますか。

秋葉:通勤時間が長いとか。

滝野:そう思ったらすごく優秀です。ほとんどの人は問題として捉えていないと思います。

秋葉:ずっとそういう生活をしているから、当たり前だと思っているわけですね。

滝野:東京だったら、通勤時間に片道1時間半くらいかけている人はざらにいると思います。往復にしたら3時間、何も意識せずに通勤していることが普通だと思う人もいるわけです。しかし、起きている時間を18時間だと仮定すると、実はその方は人生の6分の1電車の中にいるということになります。人生の6分の1があったら、決意があれば、かなりのことを成し遂げられると思います。でも、多くの人はそれが問題だとは言いません。給料が高くなったらいいなとか、きつい仕事から解放されたいとか言う人はいても、通勤がなくなったらいい、通勤に困っていると言う人はあまりいません。人生の6分の1を電車の中にいるにもかかわらずです。
物流においても、同様のことが言えます。そもそも物流の仕事がロボット化できると思っていない。だから物流部門にそういう人材を配属しなかった。私はそう思っています。

秋葉:物流業務でロボット化のイメージを持つとすれば、荷物の移動ぐらいかもしれませんが、その移動にしても、常に同じものが同じように移動するわけではありませんからね。本当に、考えることすらなかったのでしょうね。そういう世界に、ロボット化の仕組みを導入していくのですから、さすがMUJINです。

滝野:秋葉さんや有志の方々に支えられてここまでくることができましたが、私たちが未熟だった頃は、全部をできるような状態ではありませんでした。しかし、「あれ? もしかしてできるようになったの?」と見ることが大事です。
技術が進み、一般化し始めたころにようやく気づき、「こんなことができるのに、なんでうちは使ってないの?」「うちのSCM(サプライチェーンマネジメント)、物流部はどうなっているの?」と上層部から声が出始めたときには、すでに遅すぎるでしょう。そこから慌ててロボットや機械を導入しても、まずうまくいきません。仕組みを変えなければいけないのです。そこにITを入れるのは技術も知識も創造力も必要です。
そういうことを考えていくと、やはり優秀な人材を採用しなければなりません。そうなると、SCM部門、物流部門が取締役会に入るようになってきます。昔はそんなことはありませんでしたが、今は大手企業でもSCM改革本部長が経営陣に入ったりするようになりました。最終的には、物流に力を入れて、お金を入れて、自分で物流をやる。今まで、物流は戦略ではなくコストでした。しかし、物流のプロセスを整備し、効率化し、低コストで運営することができれば、インフラになっていくのです。Amazonがなかったら明日生活できない人も実際にいるわけです。本来、SCMはそれくらいインパクトがあるものです。それがやっと重要化されてきました。もちろん私たちの力だけではありません。

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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