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Sustainable Journeyは、
2024年3月にリニューアルしました。
特集:静かに起こる異変。生きものたちに何が起きてる?
2026.9.30
誰しも一度は「動物園」に足を運んだことがあるのではないでしょうか。小学生の頃の遠足、休日の家族とのおでかけ、学生時代のデートなど、動物園で初めて実物を見た動物もきっと多いはずです。
ライオン、キリン、パンダ、ペンギン——姿も、特性も、生息域もまったく違う生き物たちが、同じ敷地の中に暮らしている。私たちは、その多様さに驚き、笑い、時には「かわいい」と声を上げます。世界中の貴重な動物に会える楽しさがあるからこそ、動物園は多くの人に親しまれてきました。
和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドも、そんな場所の一つです。同園は「楽しむ場所」であると同時に、長年にわたって、飼育・繁殖、研究、教育、資源循環にも取り組んできました。
生き物の種がどんどん減り続ける今、30年以上にわたってジャイアントパンダの飼育・繁殖研究に携わってきたアドベンチャーワールド副園長の中尾建子さんの言葉を手がかりに、生き物たちのこれからと現代の動物園の役割を考えます。
和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールドは、動物園、水族館、遊園地を併せ持ち、陸・海・空の動物たちが約120種1,600頭暮らしています。
同園副園長の中尾建子さんは、動物園が担ってきた役割は、時代とともに変わり続けてきたと話します。
「動物園の歴史をたどると、古代のメナジェリー(珍しい野生動物を集めて見世物として飼育・展示する施設)、近代ヨーロッパにおける一般公開と分類学研究の場を経て、現代の飼育環境を豊かにする展示、未来へつなぐ種の保存や環境教育など、求められる役割は広がってきました」。
現在、同園も加盟する日本動物園水族館協会(JAZA)は、動物園・水族館の役割として「種の保存」「教育・環境教育」「調査・研究」「レクリエーション」の4つを掲げています。
©ilbusca
なかでも中尾さんが大切にしているのが、動物園を野生動物と人をつなぐ入り口として捉える視点です。
「動物園は、野生動物を知っていただく入り口です。『かわいい』だけで終わらず、その先をもっと伝えていきたい。動物園の動物たちは、野生からの大使です。私たちは、その通訳をどう務めるかを考えなければなりません」。
動物たちは、自分の生態や生息地の危機を語ることはできません。だからこそ、飼育や研究を通して知ったことを人に伝える。その通訳の仕事が、動物園にはあります。
中尾さんがアドベンチャーワールドに入社したのは1988年のこと。入社から約5年後、当時の上司からパンダの研究を任されたことが、その後の長いキャリアの出発点になりました。
1994年に来日したパンダ「永明(エイメイ)」と中尾さん。永明はその後、約29年間もアドベンチャーワールドで暮らし、16頭もの父親となり「ビッグダディ」と呼ばれました。
提供:アドベンチャーワールド
同園は1994年から、中国・成都ジャイアントパンダ繁育研究基地との共同繁殖研究に取り組み、これまでに17頭の繁殖・育成に成功してきました。
しかし、希少な動物を繁殖させることは、単に頭数を増やすことではありません。
「昔は、野生の動物を入手して動物園へ連れてくることもできました。でも、今はほぼありません。だからこそ、飼育下でしっかり管理していかなければいけないんです」。
動物園では、出生や血縁関係、移動歴を記録する血統登録を通じて、個体群を管理します。中尾さんは、これを「人間でいう戸籍のようなもの」と説明します。
「どこで生まれたのか、父親と母親は誰か、どんな移動歴があるのか。それを記録して、遺伝的な多様性を残していきます。今年はこのペアを繁殖させる、子どもが多い場合は少し抑えるなど、むやみに増やすのではなく、国内外の施設と一緒に考えていくんです」。
同園は、国際的な連携のもとでアムールトラの繁殖にも取り組んでいます。海外から導入した雌雄の個体の間で子が生まれ、母親による子育てを見守りながら、飼育スタッフが成長を支えています。
提供:アドベンチャーワールド
現在世界に生息するアムールトラは、500〜600頭。一時は数十頭まで減りましたが、こうした保護・繁殖活動により少しずつ数が増えています。
繁殖によって命をつなぐだけでなく、動物がよりよく暮らせる環境を考えることも、動物園に求められる大切な役割です。それを考えるうえで欠かせないのが、「動物福祉」という視点です。
ただ、動物の種や個体によって適した環境は異なるため、そこに明確な正解はありません。限られた空間の中で、動物にとってよりよい環境をどうつくるのか。中尾さんは、現場はまだ発展途上にあると率直に明かします。
アドベンチャーワールドでは動物たちを檻に入れて管理するのではなく、なるべく生息環境に近い状態での飼育を目指しています。左上から時計回りに、フラミンゴ、カンガルー、ミーアキャット、アメリカバイソン。
「今の私たちのやり方が完成形だとは思っていません。動物の種や個体によって適した環境は異なるので、正解はありません。苦労しながら考え続けるしかないんです。ただ、意識しているのは、“動物が選べる環境”をつくることだと思います」。
隠れられる場所があるか。群れで暮らす種なら、その社会的な関係を保てるか。食べるという行動に、どれだけ時間を使えるか。飼育する側が一つの答えを決めるのではなく、動物の反応を見ながら環境を整えていきます。
サファリワールドのヒマラヤタールは、そのことを教えてくれた動物の一つです。険しい山に暮らすヒマラヤタールは、展示エリアの高い場所にある岩の隙間を、意外な使い方をしていました。
ヒマラヤタールの展示エリア。
「岩の洞穴を出産場所として使っていたんです。私もスタッフたちも、『こんな使い方をするんだ』と、とても驚きました。私たちが用意したものを、動物がどう使うのか。そこから学ぶことがたくさんあります」。
ヒマラヤタールの親子。
提供:アドベンチャーワールド
パンダの飼育でも同じです。中国から栄養価の高い飼料を与えるよう指示されていた時期、永明は体調を崩したことがありました。
「中国からは、栄養価の高いいわゆる『パンダ団子』を与えるように言われていました。でも、お腹を壊していたということは、何かが合っていない。それなら本来の主食である竹に戻そう、と。団子と違って、竹だと、大量に食べなければいけないし、時間もかかります。でも、その時間があることが、野生に近い行動につながるんです。楽にお腹いっぱいになることが、必ずしも動物にとっていいとは限りません」。
提供:アドベンチャーワールド
中尾さんたちは中国側とやり取りを重ねながら、7~8年かけて竹を主食とする食餌へ移行しました。
中尾さんは2016年頃から「地球に優しい動物園」という想いを抱いていました。そうした中で、ある環境教育の会議で耳にしたSDGsの考え方が、自分たちの目指すものと重なると感じたと言います。想いを形にすべく、2019年頃から「循環型パーク」を掲げて取り組みを始めます。その活動を象徴するのが、「パンダバンブープロジェクト」です。
同園は2011年から、岸和田市の竹をパンダの飼料として活用していました。 放置竹林の整備と飼料調達を結びつける取り組みです。
「パンダのために竹をいただくことが、竹林整備にも関わり、環境にも寄与できるのではないかと思ったんです。でも、パンダが食べるのは与えた竹の3分の1ほど。残りを費用をかけてCO2を発生させて処分するのは、違うと思いました」。
食べ残した竹や、枝葉を取るために伐採した竹をどう活かすか。同園は堆肥化や竹チップ舗装に加え、海中での活用にも取り組んでいます。
パンダバンブープロジェクトの一環で、2024年に5,000本の竹を使ってつくられた巨大竹アートの前で。
2024年度には、アオリイカの産卵床として64基を設置し、展示卵から2,641匹が孵化・放流したと発表しています。
「漁師さんから、『最近、魚が太ってきた』『脂がのってきた』『今まであまりなかった貝がおいしくなった』と聞いたこともあります」。
アオリイカ産卵床。
提供:アドベンチャーワールド
竹の活用が里山の手入れにつながり、海の生き物の居場所にもなる。動物の飼育を園内だけで完結させず、地域の自然へつなげていく。中尾さんは、その循環こそが、これからのパークのあり方を変えると考えています。
アドベンチャーワールドは、「いのちを見つめ、問い続ける。いのちの美しさに気づく場所。」をパークテーマに掲げています。
この言葉をつくる際、スタッフは「いのちの美しさとは何か」を話し合い、「愛」「つながり」「可能性」という言葉にたどり着いたと中尾さんは言います。
「私たちが答えを提言するのではなく、お客様にも気づいてもらいたいんです。図鑑やインターネットで調べればわかることを伝えるだけでは、きっと覚えてもらえません」。
楽しさやワクワクから、「なんでだろう」へ進む。その“モヤモヤ”を、中尾さんは大切にしています。
「わからないことは、いいと思うんです。モヤモヤすると、もっと調べたい、知りたいと思いますよね。変に答えが出るよりも、そのモヤモヤは素敵だと思います」。
自然と共生できる社会をつくりたい。そのために中尾さんは、自分が感じた「ワクワク」を口にするようにしていると言います。
「『こういうことをしたいよね』と声に出すと、同じように思う人が集まってきます。私も活動を通して竹に興味を持ったことで、これまでつながりのなかった人たちとも出会えました」。
動物たちを見て、少し立ち止まる。竹の行き先を知り、海や山のことを想像する。一頭の動物との出会いが、地球上の名もない生き物たちの多様さや、その危うさに思いをはせるきっかけになる——。
動物園は、そうした小さな気づきの入り口になれるのかもしれません。

アドベンチャーワールド副園長。獣医師・学芸員。鳥取大学農学部獣医学科卒業後、1988年に入社し、獣医師として動物園動物の診療や飼育管理、極地ペンギンの人工孵化・育雛に携わる。1994年の日中共同ジャイアントパンダ繁殖研究開始から、ジャイアントパンダの飼育・繁殖に関わり、これまで17頭の赤ちゃんの誕生を見守ってきた。株式会社アワーズ常務取締役、SDGs担当。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

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