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連載:みんなの未来マップ
2026.10.29
岩瀬さんのロングインタビューはこちら
理想の学校は掲げない。人口6,000人の真鶴町で始まる、みんなでつくる公教育
詳細を見る2026年4月、神奈川県真鶴町の教育長に就任した岩瀬直樹さん。子どもが自ら学びをつくる教育で注目を集めた軽井沢風越学園の設立に携わり、初代校長を務めた人物です。
人口約6,000人の真鶴町では、2030年の小中一貫・義務教育学校の開校に向けて、新たな学校づくりが始まっています。岩瀬さんがこのまちにやってきたのは、「小さなまちでも、いい学校はつくれる」というモデルを示したかったから。
子どもも先生も、地域の大人たちも学校づくりの当事者になる。そんな挑戦を通じて、岩瀬さんが実現しようとしている公教育の未来の姿とは?
岩瀬さんが長年、教育に熱量を注ぐ理由はなんですか。
僕自身、子ども時代がすごく楽しかったんです。好きなことを思いきりやらせてもらって、その中で「自分はこれが好きなんだ」「こういう人間なんだ」とじっくり自分に出会っていくことができた。それを社会に支えてもらったという実感がある。だから、子どもが自分自身と出会う時間と空間、そして仲間を残すのは大人の責任だという気持ちがありました。
それと、これまで「子どもってすごい!」と驚く瞬間にたくさん出会ってきました。でも同時に、その力を教室では発揮できていない場面もたくさん見てきたんです。それは学校という構造がそうさせているだけで、子どもの問題ではありません。それこそ、その構造を変えるのは大人の責任だと思っています。
2030年開校予定の義務教育学校※1は、まさに構造を変える試みだと思います。どのような学校なのでしょうか。
とにかく「子どもこそがつくり手である」ということを真ん中に置いています。学校は当事者である子どもがつくっていく場所であり、考えの違う誰かと一緒に「つくる」経験こそ、子ども時代に一番必要だと考えています。同時に「地域の学校」を目指しているので、大人も含めた多世代が混ざり合いながら、コミュニティを自分たちの手でつくっていくということを、学校の一つの柱にしたいと考えています。
取材前にちょうど書いていたというホワイトボードのメモ。
もう一つは、比較から緩やかに自由になれる学校にしていきたいと思っています。
「比較」ですか。
人を苦しくさせるのは比較だという仮説が僕にはあって。特に中学生くらいになると、自分って何者なんだろう、自分はどうありたいんだろうって、考えるようになりますよね。そのとき、どうしても周りの人と自分を比べて、自分の価値を決めてしまうことがあるんです。
本当は「自分はこれが好きなんだ」と伸びていける時期なのに、日本の中学生はその逆の経験をしている。しかも、小さいまちだとずっと同じ人間関係の中で育っていくので、関係性も評価も固定化しがちです。でも異年齢が混ざり合うと、みんな違うのが当たり前で、比べようがなくなる。「比較」という物差しをいかに取っ払えるかが、公教育が変わっていくカギになると思います。
軽井沢風越学園も異年齢での学びを重視した学校でした。
異年齢が混ざり合うとこれだけ人を伸びやかにさせるのかと、始めた僕も驚くぐらいでした。特に中学生が圧倒的にのびやかに育ったんです。いい意味での子どもらしさを残しながら、大人と対等になっていく。真鶴町へ来るときも、風越のある中学2年の生徒に「僕にエールを送って」とお願いしたら「比較したくなるから、風越での成功体験は持っていかないほうがいいよ。真鶴の人たちは真鶴の人たちの『こうしたい』っていう思いが絶対にあるから、それを聞きながら一緒につくったらいいよ」って言われたんです。
すごいですね。とても中学生の言葉とは思えません。
びっくりしますよね。今でもそのアドバイスをすごく大切にしています。
※1:小学校から中学校までの9年間の義務教育を、一つの学校で一貫して行う学校。真鶴町では2030年に開校予定で、「1〜4年生」「5〜7年生」「8〜9年生」の3つのステージに分ける計画。
建設予定の校舎についても教えてください。
まず、地域の人が気軽に立ち寄れるサロンや共有の図書スペースをつくります。家庭科室が空いていれば予約して公民館的に使えるようにしたり、社会教育講座を学校で開いたりと、大人が入る余白をつくりたい。時には子どもと大人が一緒に授業に参加したり。地域と学校の関わりしろを増やしていくことで、大人になっても自分たちの場所だと思い続けられる学校にしていきたいんです。
図書館が校舎の中央に配置されているのがわかります。平面図は基本設計に基づいて検討中のものです(2026年10月現在)。
子どもの数が少ない地域の学校は、この視点が大切になりそうです。
これから子どもが減っていけば、教室も空いていきます。そこは大人が使っていけばいいし、高校生の放課後の居場所などにも活用すれば、まちのインフラとして校舎が育っていくと思います。校舎にはそのような可変性を持たせています。学校のことを学校だけで抱え込まず、地域みんなの場所にしていく。そういう意味では、小さいまちのほうが有利なんです。
一方で、人が集まれば集まるほど、意見が合わなかったり、急に感情的な話になったり、すごく面倒くさいんですよね。でも僕は、この面倒くささこそが大切だと思っています。学校は、いわば「民主主義のお稽古」の場所なんです。
面倒くさいことを避けると何が起きるのでしょうか。
どんどん寛容じゃなくなっていきますよね。寛容さは、違いに出会い、その中に面白さや豊かさを発見することでしか養えない。その上で、自分のことを自分でOKだと思えていないと、他者には寛容になれないんです。自分にOKと言うためには、自分でつくり、変わる経験が必要です。AIが当たり前になる社会だからこそ、身体を通した学びや実感が、これからの学校の意味になっていくと思います。
最後に、日本の公教育を変えていくために何が必要だと思いますか?
日本には、先生たちの日々の実践に寄り添い、授業づくりや学びを継続的に支える専門職がまだ十分にいません。教師もまた学び続ける存在です。だからこそ、先生と一緒に考え、試し、振り返りながら、学校や教師の成長に伴走する専門職を育て、その役割が根づく仕組みをつくりたいんです。
6月に立ち上げた、先生の学びや挑戦を支える専門チーム「学び共創室」はその一番ミクロな仕組みです。これから、周辺自治体の指導主事のみなさんに声をかけて、一緒に学習する機会を2週間に1回設けていく予定です。
これを草の根的に広げつつ、いずれ予算が確保できたら、自治体の垣根を越えたラーニングセンターをつくりたいです。リソースの少ない小規模自治体も、そこで必要なことを学んで持ち帰れるようになれば、公教育の質の向上につながります。一つの自治体だけが変わればいいわけではないので、学校を結び目に、つながりたい人たちがつながっていけるようにしたい。いつか必ずつくりたいですね。

1970年、北海道生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。埼玉県の公立小学校教諭を22年間勤め、学習者中心の授業・学級・学校づくりに取り組む。2015年に退職し、東京学芸大学大学院教育学研究科 教育実践創成講座 准教授に就任。教員養成や現職教員の再教育に取り組んだ。2016年12月、一般財団法人軽井沢風越学園設立準備財団の設立に参画し、副理事長に就任。2019年10月、学校法人軽井沢風越学園設立、理事就任。軽井沢風越学園校長および軽井沢風越幼稚園園長を兼任する。2026年3月に同学園を退職し、2026年4月に真鶴町教育長に就任した。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

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