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連載:みんなの未来マップ
2026.5.28
沖さんのロングインタビューはこちら
「日本は水が豊か」は大きな誤解だった。専門家が解き明かす、身近な水の真実
詳細を見る東京大学大学院工学系研究科教授であり、総長特別参与を務める沖大幹さん。水文学の第一人者として地球規模の水循環を研究し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書の統括執筆責任者も務め、第7次でも統括執筆責任者を再度務めています。
気候変動がもたらす未来の水循環の変化や、それに適応していくための社会のあり方について迫ります。
世界中で水不足が深刻化する中、将来「水をめぐる国家間の戦争」が起きるのではないかという懸念があります。水が足りなくなると、国と国で水を奪い合うような事態になるのでしょうか?
"水戦争"という言葉はよく聞かれますが、実際には起きにくいと考えています。理由はシンプルで、水は重くて運搬コストがかかりすぎるからです。
例えば、北海道で水が余っていたとして、水不足の四国や沖縄へ運んで売ろうとしても採算が合いません。重力で流せる範囲でしか共有できないのです。
今回お話を伺った沖大幹さん。
「外資に日本の水源林が買い占められている」というニュースも耳にします。
わざわざ日本の山の水を汲んでタンカーで海外に運ぶくらいなら、現地で海水を淡水化する施設をつくった方がはるかに安上がりです。鉄や石油のように、採掘して遠くまで運んでも価値を付けられる資源とは性質がまったく異なるんですね。
水源や源流と聞くと、神聖な意識を持ち、ナショナリズムと結びつき、燃え上がりやすくなります。ですから「外資に水を奪われる」というのは、実害というより精神性の問題が大きいのです。
中東にある逆浸透水処理プラント施設。©Adnan Rahim
では、水不足がもたらす本当の危機とは何なのでしょうか。
水そのものを奪い合うことはなくても、水が足りないことで「人が移動する」ことでしょう。そのインパクトは甚大です。気候変動による干ばつで農業ができなくなれば、人々は住む場所を追われます。実際、2007年から数年間続いたシリアの干ばつでは、農村部から都市部へ、そしてヨーロッパへと多くの人が難民として移動しました。
©Joel Carillet
移民が増えることで、受け入れ側の社会も不安定化してしまう。気候変動によって人がどう動き、社会がどう変化するのか。この「水と社会の相互作用」こそが、今まさに危惧されている問題です。
「水と社会の相互作用」というお話がありましたが、水と経済発展には大きな関係があるとお聞きしました。
SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標/2001〜2015年)では、「安全な飲料水を持続的に利用できない人々の割合を半減する」目標がいち早く達成されました。そこには、中国とインドの経済発展が大きく寄与していました。
当時は「安全な飲み水」の定義が統一されていなかった、など指摘すべき点はありますが、途上国の経済が発展するとまずは水関連のインフラに投資がなされます。水の確保に費やしていた時間が浮けば、人々は教育や労働に充てられるようになり、さらに経済が発展していく。
水と経済発展、そして教育や能力開発との間には、明確な因果関係があります。そのシナジーがあるからこそ、SDGsという枠組みが意味を持つのだと思いますよ。
日本における水の使用状況はどうなっているのでしょうか。
日本人の水の使用量は、1992年頃をピークに減少傾向にあります。昔に比べてペットボトル飲料を飲むようになったから、といった微々たる理由ではありません。
例えば、昔のトイレは1回流すのに13〜20ℓもの水を使っていましたが、今は少ないものになると4ℓ弱と、3分の1以下にまで節水が進んでいます。節水型トイレやドラム式洗濯機など、各メーカーのエンジニアたちが効率化を追求してきた成果といえるでしょう。
こうした努力がある一方、日本も人口が減少していく中で、これまでのような大規模なインフラを維持するのは難しくなってきています。
これまでは、水を一箇所に大量に貯めて、大規模な浄水場で処理し、広範囲に配るという「集中型」のシステムが効率的でした。
ですが、人口が減る過疎地や、インフラが整っていない途上国では、太陽光パネルなどの再生可能エネルギーを使って地下水や沢の水を自前で浄化する「分散型の水供給施設(オフグリッド化)」がひとつの解決策になるはずです。電力のオフグリッド化と同じように、地域ごとに水をやりくりする仕組みが広がっていくのではないでしょうか。
©Joel Carillet
今後人口減少に伴いリソースが減っていく中で、課題が顕在化しないことには着目しづらい現状がどうしてもあります。それでも水に関しては、水道管の老朽化や気候変動といったシグナルが出始めています。これからも発信を続けながら、解決策を出せる準備はしておきたいと思っています。

東京大学大学院工学系研究科 教授/東京大学 総長特別参与。1989年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。博士(工学)。気候変動と水循環、世界の水資源問題などを専門とし、第5次ならびに第7次のIPCC評価報告書の統括執筆責任者を務める。2024年、水資源分野で世界最高の権威を持つ「ストックホルム水大賞」を受賞。著書に『水危機 ほんとうの話』(新潮選書)、『水の未来 グローバルリスクと日本』(岩波新書)など多数。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

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