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コラム No.53-26

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戦略的な地域活性化の取り組み(26)都市農業を保全する取組

公開日:2020/06/25

2017年に生産緑地法の一部改正が行われるのに先立ち、都市農業の安定的な継続を図るとともに、農業の持つ多様な機能が十分に発揮され、良好な都市環境の形成につながることを目的として、2015年に都市農業振興基本法が制定されました。
都市農業とは、「市街地及びその周辺の地域において行われる農業」のことで、転用などが厳格に規制される「生産緑地」より広い概念といえます。今回は、この都市農業を保全する取り組みを紹介します。

持続可能な都市農業を振興する制度

2016年には、都市農業振興基本法に基づいて都市農業振興基本計画が閣議決定されました。
その主な内容は、①農産物供給機能の向上、担い手の育成・確保、②防災、良好な景観の形成、国土・環境保全等の機能の発揮、③的確な土地利用計画策定等のための施策、④都市農業のための利用が継続される土地に関する税制上の措置、⑤農産物の地元における消費の促進、⑥農作業を体験することができる環境の整備、⑦学校教育における農作業の体験の機会の充実、⑧国民の理解と関心の増進、⑨都市住民による農業に関する知識・技術の習得の促進、⑩調査研究の推進、と多方面に及んでいます。

言い換えれば、都市における防災機能や景観、生活環境を保全するために、都市住民と都市農業の交流を通じて地産地消を促進し、都市農家の収益性を向上させることで、担い手の育成を図って、持続可能な都市農業を振興するということです。
また、この計画に関連して、2017年の都市緑地法等の一部を改正する法律では、以下のような規制緩和が実現しました。

  • ①生産緑地地区の面積要件を500m2から300m2に条例で引き下げが可能に
  • ②農地と調和した低層住宅に係る良好な住居環境の保護を目的に「田園住居地域」を創設し、低層住居専用地域をベースに農業用施設(直売所や農家レストラン等)の立地を限定的に許容
  • ③地域の特性に応じて建築規制・農地の開発規制を行い、従来の生産緑地買取申出を10年先送りする特定生産緑地指定制度を創設

さらに2018年には、農業従事者の減少・高齢化に対応して「都市農地貸借法」が施行され、農地所有者が相続税納税猶予を受けたままで、意欲ある農業従事者に直接農地を貸し出すことが可能となりました。

都市住民が農家の指導の下で野菜づくりができる農業体験農園【東京都練馬区】

東京23区の北西に位置する練馬区には、23区内では最大といわれる、約340haの農地があり、キャベツなどを中心に都市農業も盛んな地域です。この練馬区で、1996年に開設されて以来、都市農家と行政、地域住民が協働して取り組んでいる活動が農業体験農園事業で、現在17園(平均43a/農園)が開園しています。
この制度は、住民が毎年度、農家から1区画30m2の農園を38,000円(区外住民の場合は50,000円)で借り受け、農家の指導を受けながら農作物を栽培し、行政は施設整備費・管理運営費の助成と募集の援助を分担するというものです。農園を利用する住民にとっては、農家の指導を受けながら本格的な農作業を体験できるメリットがあり、農家にとっては農作業が軽減される一方、125万円/10a程度の収入を得られるため、営農計画を立てやすく、面積当たりの収入も大きいため経営が安定化します。また行政にとっても、自治体開設型の農園に比べて、管理運営面の行政側の負担が軽減されることから、都市農業の保全を効率よく実現できます。練馬区農業体験農園は、2008年には日本農業賞大賞を受賞するなど全国的に注目を集めており、2010年からは農業体験農園の普及啓発を行う目的で全国農業体験農園協会が設立され、全国で活動を展開しています。

直売所を運営し、地元の和菓子店とのコラボで商品開発【神奈川県川崎市幸区】

川崎市幸区、鶴見川に近い1haの土地に、300年以上続く農家「しんぼりファーム」があります。8代目である新堀氏は、枝豆やトウモロコシなどの露地野菜に加え、塩分の多い土壌に対応して石綿を苗床にし、温度や湿度をデータ化して管理・制御する施設栽培により、主にトマトやイチゴを栽培しています。これらの野菜や果物の70%を併設の直売所で販売しており、市内外から多くのファンが詰めかけるほど好評を得ています。また、地元の和菓子店とのコラボにより、「とまと大福」や「ジャンボイチゴ大福」などの商品を開発し、地元メディアに取り上げられるなど、注目を集めています。
しんぼりファームでは、環境制御システムを導入した施設栽培で農作業を効率化するとともに、大消費地住民のニーズを捉えた高品質な作物を栽培し直売することで、単位面積あたりの収益性向上を実現。さらに、作物を用いた商品を開発するなど6次産業化にもチャレンジすることで話題性を発信し、差別化・ブランド化を図るなど、しんぼりファームの取り組みは都市農業のこれからの在り方を示唆する好事例です。

全国には、学校給食への食材供給や農業学習などの食育関連事例、地元食産業とのコラボによる6次産業化事例、伝統作物を復活させる事例など、食料の安定供給を主な使命とする郊外農業にはない、多様な取り組みが見られます。都市農業は、比較的小規模ながら、都市部ならではの多様な食嗜好に応え、住民が農業体験できる身近な場所として、保全が望まれる存在ではないでしょうか。

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