秋葉淳一のトークセッション 第3回 良いものをつくるという原点を失わない大和ハウス工業 執行役員 建築事業本部長 更科雅俊 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2024/09/30
ここでもう1回どうするかが重要
更科:今日は秋葉さんに聞きたいことがあります。共同配送はなぜこれほどに進まないのでしょうか。各社がその必要性を理解していますが、どの業界でも本来の意味ではできていませんよね。
秋葉:一番の原因は、物流の情報がずっとクローズだったことだと思います。どのような企業であっても自社での正確なものの動きがわかるデータを出すのは嫌でしょうし、小売業も店舗の発注データ等をクローズにしていました。また、パレットやカゴ車や什器類も同じものが使われているとは限りません。標準化の進んでいない分野です。
更科:今後もオープンにならないのでしょうか。今は運ぶ人がいないと言われつつ、実際は運べていますからね。
秋葉:これから、どこまでオープンにするかだと思います。純粋な第三者がエリア物流センターをきちんと回せるのであれば、あると思いますよね。
更科:物流のフィジカルインターネットについてはいかがですか。
秋葉:フィジカルインターネットは、規格上共同配送をやりやすくする標準化という話です。結局、店のいろいろな会社に対してのオーダーが分かる人がいないと、「一緒に持ってきていいよ」とは言えませんよね。例えば、物理的に物流施設がA社、B社、C社と分かれているとします。A社、B社、C社の建屋が同じ敷地内にあれば簡単ですが、離れている各施設をぐるっと回って届けるのかどうかということです。店舗への納品時間は決まっているので、ルートと納品時間によって隙間時間ができてしまいます。店側も品出しを考えると、当然、開店前と夕方前の2回来てほしいとなるわけです。標準化を進めて規格をつくればフィジカルインターネットのようにできるというだけで、実際の商売となるとやはり違います。難しいのですが、難しいと言ってしまってはだめなので、やっていかなければいけません。
更科:空いているお店の時間は決まっているし、納品のタイミングも似たような感じになってくるでしょうね。皆1番目がよくて、2番目、3番目ではだめだと。たしかにインターネットのようにはいきませんね。
秋葉:例えば大規模に商業施設を展開するような規模になれば、自分のセンターに入れておいて、そこからお店に持っていくことができます。では、複数の会社がそういう規模感になってやれるのかと言われると厳しいですし、さらにそれをするとデータが筒抜けになる。大手小売り企業であれば単独でできますが、複数の会社でそれができるのかという話です。ただしそれができれば無駄はかなりなくなります。エリアで消費される総量は変わらないので、その都度、個別の計算をする必要もありません。それが理想ですね。
更科:共配やフィジカルインターネットなど、いろいろ言い方は変わっていますが、昔から似たような話があります。パレットや段ボールなど、サイズの標準化についてはずっと言われています。
秋葉:コンテナしか標準化されたサイズがないので、パレットサイズを決めるのはすごく良いことですが、だからといってそれでできるかというのはまた別です。
更科:パレットは統一されると思いますか。
秋葉:100%には絶対にならないと思います。例えばヨーロッパのユーロパレットは約70%です。残りの約30%は建材や化成品のような工場に出すようなものなので、いわゆる物流センターでいえばほぼ100%になります。世の中で回っているものの何割が規定されたパレットに乗っているかといえば約7割ですが、それでも大きい。日本でも今は1,100mm×1,100mmといった話になってきています。ところが日本人は100%に近いものでないと標準化ではないと思いがちなので、そこから意識を変えないと余計に進みません。そこは大きいと思います。
規格で言うと、JR貨物さんの12ftコンテナではなく、31ftコンテナを増やそうという話も出ています。これもトラックや船と共用できるような形になってほしいですね。それができれば、あとは中にどうやってパレットを詰めるかという話だけですから。
更科:モーダルシフトもレールに関してはあまり進んでいませんね。期待は大きいですが。
秋葉:国も約10年間で2倍の物量と言っていますが、今まで通りのやり方では2倍どころか2割増も難しいのが現状です。予算を使って法律もおそらく変えていくことになると思います。さすがに変わっていくのではないでしょうか。
円安とか、日本人の給料が上がっていないとか、GDPが転落したとか、悪い言い方ばかりが出てきます。しかし、国内に生産拠点やラボが戻ってきて、何十年とやれていなかったことをもう1回やるのはとても大事なことです。やっていなかったということは継承されていないということですから、できない人ばかりになっているということです。だからこそ、ここでもう1回どうするかが重要です。
更科:コロナ禍を経てプラスの変化もあって、われわれが気づかなかったことにも気づかされました。生活水準を含めて日本は決して負けているわけではないと思います。
秋葉:そう思います。一方で日本人は労働時間が長く、きめ細かにいろいろなことをするので、生産性が低いと言われてきました。人がいなくなってきて労働時間の規制が入ってくる中で、どうやって仕事をするのか、どう生産性を上げるのかをもう一度考えなければなりません。グローバル標準の生産性といった話ではなく、日本として生産性を上げるということを明確にしたほうがいいと思います。
更科:日本人は生産性が低いとたしかに言われていますが、雑でもないし能力が低いわけでもないですから、本当にそうなのかなと。為替が変わったら全然変わるのではないでしょうか。
秋葉:良いものをつくれるかつくれないかであれば、良いものはつくれます。ただ、1人当たりでどれだけ売上をつくれるかという話なのだと思います。だからといってずるい商売をするとか、ファイナンス系ばかりやればいいというわけではありませんが。
更科:日本はものづくりにこだわってきました。ファイナンスもビジネスには欠かせませんが、良いものをつくるという原点は失わないようにしたいですね。
秋葉:それをもっと効率良くできないか、という話なのだと思います。品質が悪いものをつくりましょうということではなくて。
更科:やっぱり為替の問題は大きくて、1人あたりの売上をドルに換算するから低くなってしまっているような気がします。つくり出しているものの価値は負けていないと思います。
秋葉:何基準で見るかはありますね。逆に円安ドル高で利益が上がる会社もあります。僕は円安の中にも楽しみがあると思っています。円安によって色々な意味でもう一度国内を見直すことになりますから。
更科:先日、フードデリバリーはすごいという話が話題になりました。例えばある大手通販会社は無料配送で伸びてきましたが、フードデリバリーの企業はお金を払ってもらって物を運びます。これによって物を運ぶにはお金がかかるということが浸透したような気がします。昔は食事を出前で頼むと食事の料金だけで配達するのが普通でした。ですから、われわれ消費者の意識、常識を変えることも必要だと思っています。送料無料だと思い込んでいましたが、送料が無料なわけがないですからね。
秋葉:物流目線でいうと、最終的には、全国を隅々まで網羅しているJR貨物と日本郵便がカギになってくるのではないでしょうか。最近は日本郵便との提携の話をよく聞きます。また、郵便局の建物は年賀状のためのサイズと床荷重でつくられているのですが、年賀状が減り、今はそこが空いています。
JR貨物については、大手小売り企業が、リードタイムを1日延ばすという動きをしはじめていますので、それによって在庫の配置も変わるでしょうし、物流拠点の有り様が変わってきます。今後はJR貨物の使用頻度が増えるでしょう。
更科:昔から物流をされていて、しかも拠点は良い場所にありますから、やはり再開発を考えているのではないでしょうか。日本郵便さんともお付き合いがありますからもう少し深くパートナーシップを組みたいですね。
新しいアイデアが新しいビジネスモデルを生み出す
秋葉:先ほどお話しいただいた建物のリノベーションやリブネスの話に戻ると、これは新しいビジネスモデルがつくれるチャンスだと思います。
更科:大和ハウス工業のLOCシステム(不動産の有効活用を希望する土地オーナー(Land Owner)と新しい事業展開のための拠点を求める企業(Company)を結びつけるシステム)もよくできた仕組みです。テナント企業と土地オーナーを結びつけることで、建設業からビジネスの創出に商品価値を変えました。これを全国で展開していることもすごいのですが、何よりすごいのは、地主さんとの圧倒的なリレーションを持つ「オーナー会」や、ナショナルチェーンを持つような100社を超えるテナントさんとパートナーシップを組む「テナント会」をつくったことです。ビジネスモデルの仕組みだけでなく、そこがしっかりできているので揺るぎないし、営業担当もそれに合わせた動きがしやすい。これを建築事業部に置き換えてみると、Dプロジェクトといった仕組みだけでなく、テナント企業さんと強固な関係性をつくるなど、他が真似できないようなものにまで昇華させていくべきで、そこが次の課題です。あとは大きなところだとプロパティマネジメントがとても大事ですね。
秋葉:事業本部内でアイデア賞のようなものを創設しても面白いと思います。単に「こんなことをやったらどうですか」だけでなく、それを実現するための道筋や損益まで考えてもらえたらいいですね。今日更科さんが話してくださったいくつかに対して、廃校になる小学校の話もそうですし、そうした枠組みについてアイデアを募集できたら面白いのではないでしょうか。
更科:そうですね。かつて樋口会長が100周年で10兆円と言ったときは皆驚きましたが、毎日話を聞いているうち、皆でそれに向けてどうしたらいいか考える文化ができてきました。今までまったく突拍子もなかったものに「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」(安全・安心・スピード・福祉・環境・健康・通信・農業)という一つの物差しができて、それに則してわれわれが考えているものが合っているかどうかを測ることはとてもキャッチーで、考える柱になるので素晴らしいと思いました。そういった意味ではコンテストもいいかもしれませんね。
秋葉:毎年コンテストを行っている会社もあるようです。上位に選ばれると発案者を中心にチームを組ませてもらえて、予算もついて、やらせてもらえるような仕組みづくりをしていると聞いています。
結局これは評価の仕組みに関わります。うまくいかなかったときそこの数字とはまったく別ものとして切り出せるかだと思います。ほぼカンパニー制なのでやろうと思ったらできるじゃないですか。
更科:現に社内ベンチャーもできましたしね。
秋葉:大和ハウスベンチャーズ(※)ができましたが、これは外でやっていることに対しての話なので、それを事業本部の中でもやってみるわけです。ベンチャーに限らず、頭の中にあることをやってみるというような話でいいと思います。言ったことが実現できなかったからといってマイナス評価をするのではなく、言い出してやり始めたこと自体を評価するような仕組みにしたいですね。
※CVCファンドの運営、スタートアップ支援及び協業促進、これらと連携する事業開発の推進を行う
更科:お客様のため、社会のために、新しいことにチャレンジし、取り組んでいきたいと思います。
秋葉:本日はありがとうございました。