大和ハウス工業株式会社

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コラム No.27-88

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第2回 イマジネーションがDXの未来を拓くIoTNEWS 代表 小泉 耕二 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2023/08/31

AIなどのデジタル技術が物流現場でできること

秋葉:ChatGPTに戻りますが、例えば大和ハウス工業では、建設現場は一番労働力が必要なところで機械を使ったとしても、職人さんがいてくれないと成り立ちません。物流施設の中も同じで、ロボットを入れても、人でなければ難しいこと、スピードが上がらないことがまだまだあります。そうしたさまざまな条件を考慮したうえで、物理的なロボット、マテハンをどう使うかを研究しながら取り組んできたこともあり、私たちなりに方向性は見えてきました。
一方で、ChatGPTのような生成AIを活用するためには、どのような環境が必要でしょうか。

小泉:建設の現場では「安全」が非常に重要なことですが、それを末端の社員やスタッフまで浸透させるのは大変なことです。例えば、会社の安全基準をきちんと分かっているか、それに達しているかといった内容のチェックシートを用意して、それぞれがチェックをして、回覧して、管理者がハンコを押して、というようなことは日々行われていますが、それは、ルールを人が理解できるかたちで伝えるのが難しいから、ルール自体に添わないと作業が進められないようにしているわけです。
これをデジタル化の観点で考えると、ChatGPTのような自然言語エンジンを使って、ルールのやりとりをわかりやすい言葉で話しかけるということが可能になりますが、それだけでなく、映像のAIのようなものを使って、チェック項目に対するエビデンスを写真で撮ったり、それに対して音声でコメントしたりすることができるでしょう。そうすると、全体としてうまくいっているかどうか、分かりやすい言葉でまとめることが可能になります。このように、ルールに沿って、報告したり、記録したりすることに使えると思います。

秋葉:当然、安全衛生のところでも使えるでしょうね。施工現場では日々の作業報告を上げますが、今は昔と違ってカメラも付いているので、映像も含めて簡単にできそうです。

小泉:報告はべつに人が書かなくてもいいですよね。カメラが付いていれば、映像を見て、AIがちゃんとやっているかどうかを判断できます。

秋葉:それに、人は嘘を書くことが可能ですが、カメラや他のセンサデバイスも含めてやれば、事実しか出てきません。

小泉:人間だと、一箇所のトラブルにかかりきりになってしまって、他で大変なことが起きても見えないことがあります。「誰か見ていないのか!」「こっちで火が燃えていましたから」という場面でも、カメラで撮っておけば、「火が出たのは16時○○分」「こちらのトラブルは16時●●分」と分かります。現場で皆が一箇所にかかりきりになってしまうのは、大きな問題が発生すると、うまく分業などができなくなるからです。これについても、AIが映像を見て、過去の事故事例から判断して、「AさんとBさんが現場に行ってください」と指示を出せば済みます。全員で行く必要はないわけです。多くの場合は、問題が発生している現場に皆で駆けつけて、経験ある人が「これが原因だな」などと知見から判断するものですが、その判断をAIがすればいいのです。AIが「原因はこれが考えられます。対応は5つ考えられます。一つずつ試してみてください」と指示を出して、それを全部試してうまくいかなかったとしたら、熟練の人を呼べばいい。対応を全部行ったかどうかも、映像で撮っておけば記録に残ります。適当にチェックシートに記入するのと違って、動かぬ証拠もあります。そうすればハンコもたくさん押さなくていいし、作業レポートに何をしたかいちいち書かなくてよくなります。
これは非常に画期的です。映像と音声で、AIが起きていることをきちんと認識し、さらに過去の事例と突き合わせて、何が起きるかをある程度推論するのもできないことではありません。

秋葉:それは可能ですし、AIにその経験をさせるためにも、どんどんカメラを設置して画像や動画を撮るべきですよね。そもそもデータをつくっていかなければなりません。

小泉:カメラをインターネットにつないで、撮った映像をクラウドに上げて、自分たちのフォーマットで加工しているセキュリティの会社があります。撮った映像で人流解析をして、人の行動を全部見ていき、特定の行動にマッチングするような動きはすべて映像にマーキングされます。例えば、大勢の人がいる場所でスリが発生しているとすると、スリが行う動きに近い動きをする人物の映像をマーキングするといった具合です。そうすると、マーキングした部分が静止画で表示され、何時何分に誰がどんな動きをしていたかが分かり、さらに気になったところの前後数秒を動かして見ることができる。もう一歩進むと予測の世界になってきて、このままいったら事故になってしまうと、事故が起きる少し前に教えることも可能です。実際にこういったことがセキュリティの世界では起きています。これはセキュリティだけでなく物流でも使えると思います。

秋葉:面白いですね。建築現場も物流現場も、事故、怪我が起こり得る現場ですから。その対策にはやはりカメラですね。

小泉:そのためには大量のデータを送れなければならないので、これでやっと5Gの時代の意味があるわけですよ。

秋葉:センター内であれば、手を動かす作業の他にも教育等で生成AIの使い道があると思います。他にも、例えばトラックドライバーの眠気防止、漫然運転防止として、カメラの画像と合わせて、ChatGPTがドライバーと会話をするようなことはできますか。ドライブレコーダーもあるし、車自体にもセンターラインをまたぐと知らせるような技術がありますが、それらは車の状態を見て車が反応するもので、ドライバーの状態は見ていません。AIを合わせることで何かできないでしょうか。

小泉:今おっしゃったような会話をするAIは、シナリオをつくれば余裕でできると思います。生成することがない現場では生成系AIがあまり活躍しませんが、そういう意味では生成する部分はあると思います。

秋葉:それは、ドライバーが話しかけると反応するようなものですか。今は連続2時間ぐらい運転していると、人工知能でもなんでもないのですが、「そろそろ休憩したらどうですか」と言われます。それとバイタルのデータを合わせてみるとか。

小泉:ただ、高速道路を長時間走っていて眠くなってきた時、話しかけられて目が覚めるか、が問題です。根本的には、センシングして体温が上がってきたら、ドライバーには強制的に休ませるような指示をするしかないのかもしれません。

一方で、トラックのルート解説のところなら生成系AIもアリかもしれません。カーナビゲーションシステムは、順路を教えるなど、今動いていることに対して指示を出します。生成系AIを使えば、例えば、荷物を下ろす順番を先にインプットしておくこともできます。トラックの中に荷物がどう積まれているかAIが分かっていて、荷物を降ろす時にはどのような順番が効率的かアドバイスして、到着の30分ぐらい前に次のアクションを細かく教えてくれる。ベテランには要らないと思いますが、慣れていない人だと、積む時も降ろす時も下手にやると時間がかかってしまいますから。

秋葉:いろいろなところでベテランが減って、「にわか」やテンポラリーの人が増えていますからね。

小泉:そういう時にベテランの知見が役立ちます。「あそこの問屋は大きい番犬がいるから気をつけて」「道にトラックが停まっていることが多いから、確認してから行ったほうがいいよ」など、たぶんいろいろな小ネタがあると思います。そういったことを教えてくれるのはアリかもしれませんね。

未来の暮らしを変えていく5G

秋葉:先ほど5Gのお話が少し出ましたが、4Gから5Gに変わることで、社会や私たちの生活にどれくらいインパクトがありますか。

小泉:5Gには、高速・大容量・同時多接続という3つの特性があります。一般的な5G通信網は高速・大容量に振っていますが、高速・大容量といってもそれほどでもないので、IoT業界的には同時多接続に振ってほしいですね。
ローカル5Gと呼ばれるような、物流倉庫の中に5Gの基地局をつくって、倉庫内だけ通信状態をよくすることも可能です。これが実現すれば、かなりの数のIoTデバイス、映像や何らかのセンサーと接続しながら、かなり高速に無線でデータのやり取りができるようになります。これには、配線しなくていいという最大のメリットがあります。一方で、センサー側に電源を持たなければいけないというデメリットもあります。有利な点としては、無線ですべてができるので配線しなくていいことです。特に物流倉庫のように人が歩いたりいろいろなものが動いたりするところでは、線を敷きたくないですよね。

秋葉:それに、有線の工事費は費用もかかりますし、出ていく時に撤去しなければならない。その期間仕事ができないといったことがなくなるだけでも非常に大きいですね。

小泉:ケーブルを天井に張り巡らせて、ソケットに刺したらネットワークが取れて、下は無線でつながる。そのようなやり方がじきに一般化するかもしれませんね。電源や通信設備は家主が代わっても必要だと思うのですが、なぜ毎回撤去して同じことをするのでしょうか。ソケット等の場所を変えたいのは分かりますが、全部やり直す必要はないと思います。

秋葉:5Gは、ローカル5Gや多接続、それによって情報が集まるとすれば、仕事でのメリットは多そうですね。また、今までどちらかというと下りの回線のほうが使われていて、そもそも上りは隙間があります。5Gになると、多接続で上りがもっと有効活用されていくのでしょうか。

小泉:まず通信行政全体でいうと、無駄な帯域はけっこうあります。例えばテレビに使っている電波の周波数帯は、アナログでは混線しないために広い帯域を取ることが必要でしたが、デジタルチャンネルになった後も未だに広い帯域を取っています。今はネットワークが主流ですから、そのような無駄な帯域をきちんと整理し直して、もっとネットワークに割り当てるように通信行政が変わっていく必要があります。これは土管全体を太くしようという話です。 また、5Gはネットワークスライシング(※1)という技術に対応することができます。この技術を使うことで、土管の中を区切って、例えば医療で使う分として専用の領域を取ることができます。医療用、緊急車両用など特別に割り当てるので、当然コストはかかります。残りは、全体を皆で割れば安くなります。このネットワークスライシングしている状態を、キャリアの基地局が持っているソフトウェアでコントロールすれば、料金設定を変えやすくなります。例えば地震が起きて、緊急回線として国に明け渡す時、今まで国が毎月1万円払っていたのをその月は10万円にするといったことが、パッとシステムの設定でできるわけです。これは期待感があります。われわれの通信が速い遅いというよりも、必要に応じて、特別なネットワークをひくができるので、それによっていわゆるベストエフォートと呼ばれる「良かったら〇ギガ出ます」ではなく、「だいたい〇ギガ出ます」くらいまでにできるようになります。災害が起きた時でも、個人の回線はともかく、自治体と政府、消防などはつながっていて対応をスムーズに行う、という状態を実現できます。

  • ※1:物理ネットワークを仮想的に分割(スライシング)し幅広いニーズに対応する技術

秋葉:災害が起こっても、つながるべきところがきちんとつながるとなれば、これは大きな進歩ですね。

小泉:例えば、有線の部分が地震で断線してしまっても、無線通信ができればバックアップになります。逆もしかりで、無線ができない時には有線がある。そういうことがきちんとできたらいいと思います。
5Gの仕様にはいろいろな特徴があります。その一つであるMEC(Multi-access Edge Computing)は、狭い地域にサーバーを置くことで、端末とサーバーが近ければ近いほど無駄な通信が発生しないため、高速で打ち返すことができます。例えば沖縄にMECがあるとしたら、沖縄にサーバーがあって、スマートシティのカメラがあって、そのデータを引っ張れば、いちいち東京までいかなくても沖縄のサーバーで全部処理して返すことができるようになる。これも5Gの面白いところです。5Gは、どちらかというと高速・大容量よりも、同時多接続性、ネットワークスライシング、MECが面白いと思います。

「これから先どうなるのか」とイマジネーションを働かせる

秋葉:ただ、高速といっても、個人の生活では今もべつに困っていません。3Gはもう少し速くならないかな、4Gはそれほど困らないなという感じでしたが、振り返ってみたらそれは遅かったということでしょうか。

小泉:それは、スマートフォンのサイズで見ることを前提にしているからです。例えばテレビのディスプレイが生活の中心にあれば、もっと大容量のデータを送りたくなります。パソコンですら数ギガのファイルを頻繁に送っていますから、そのレベルのデータ通信をするのであれば、今の通信量ではまったく足りません。将来的に、スマートフォンからホログラムが立ち上がって、バーチャルキーボードが出てくるような時代になったら、スマートフォンのデータ通信は速くて大容量のほうが絶対にいいですよね。スマートフォンというデバイスありきで物事を考えているからそう思うだけなのだと思います。

秋葉:なるほど、面白い。それぐらいになれば、世の中が変わりそうですね。

小泉:できることが増えることに注目しがちですが、それは時間が解決していくことです。それより大事なのは、「これから先どうなるのか」とイマジネーションを働かせることです。それで通信もコンピューターもどんどん高速になっていきます。VRも今はヘッドセットを被っていますが、「そうではないVRが出たとしたら、私たちの生活は一体どうなるだろう」と考えることで、あっという間に理解が進んでいくと思います。
ChatGPTも、今はテキストを打ってテキストで返ってきますが、声でやり取りができたり、声で言ったことを映像にして文字で出てきたり、イメージを写真で見せてくれたりと、表現方法自体がどんどん変わっていくと思います。変わっていくイメージを持っている人が、「この先AIがこうなる、ドローンがこうなる、VRがこうなる」といったことを語っても、普通の人にはそれがイメージできないので、「なるわけないだろ」となってしまうのです。
例えば、手術で心臓のイメージがバーチャルで出てきて、手術の方法を遠隔で教えると言われても、知っている人に処置してほしいと思いますよね。しかし人の心臓はそれぞれ形が違うので、医師も手術の方法に悩むことがあるわけです。現状でも、手術の前にはカンファレンスを行い、医師同士が手術の方法について話し合いますが、それだと病院にいる医師同士でしか話せません。バーチャル空間上に投影された、その患者さんの心臓のイメージが立体的に投影されていて、世界中の名医と、複雑な手術についてどうするか、どのようなアプローチがあるかを議論できたら全然違いますよね。

秋葉:僕らもtemi(※2)をやっているから分かります。目の前で動いているtemiに価値があるわけではなくて、このロボットはどんな世界を作るのだろうか、どんな社会のためにtemiを使えばいいのかを考えなければなりません。temiの意味もそこにあります。

  • ※2:株式会社hapi-robo st(ハピロボ)が販売する「temi」は自律走行機能やAIアシスタント機能などを備えたロボット。大和ハウス工業はtemiのインテグレーション・パートナー。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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