
秋葉淳一のトークセッション 第3回 マンション管理から広がる新たなビジネスの可能性大和ライフネクスト株式会社 村上昂佑 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2025/06/30
作業から新たな価値の創出へ
秋葉:今回の取り組みは新規事業の一環とお聞きしましたが、他にも新しい取り組みがあるのでしょうか。
村上:今は通常便だけですが、今後は冷蔵冷凍便にも広げていきたいと考えています。そうすると、冷蔵冷凍庫を設置しなくてはいけませんが、それを活用して冷蔵冷凍便の配送受付や、小売として冷蔵冷凍食品の販売などもできるかもしれません。そこは、お客様のニーズに合わせてさまざまな可能性を探っていきたいと思います。
秋葉:今は既存の分譲マンションですが、これから建てる計画もあるわけです。このような取り組みをしていると、デベロッパー目線で「こういうものを建てればいいだろう」ではなく、宅配サービスを含めて「入居者側としてどうあったらいいか」という目線も生まれてくるような気がします。管理のしやすさや入居者の便利さから発想されたマンション、そのような建て方ができますよね。
村上:そういったマンションであれば空室が減ることにつながり、資産価値にもなりますね。
秋葉:そこは大和ライフネクストの管理会社として新しい視点ですね。
村上:いずれは不動産検索サイトで、マンション内配送があるかどうかの選択ができるようになるところまで事業を成長させたいと考えています。
秋葉:それが当たり前になる気がします。賃貸マンションでも展開ができそうですね。分譲である程度の部屋数があるマンションと賃貸で部屋数が少ないマンションでは当然違うところがあるので、そこはまた検証になりそうですね。
村上:賃貸と分譲では若干性質に違いがありそうです。分譲では管理組合が導入判断をするため居住者目線での導入判断、賃貸ではオーナーが導入判断をするため投資目線も加わってきます。規模により荷物数や管理員勤務時間も異なるので、別のサービスのやり方も検証できるのではないでしょうか。
秋葉:大和ライフネクストの取り組みでご入居者へのサービス、満足度が上がってくるということであれば、あとはやり方をどう考えるかです。1棟1棟ではなく、面でどうするかという考え方もあるということですね。
村上:できることなら、近隣のマンションにもサービスを拡大したいですね。エリア単位で展開することができれば、さらなる効率化につながります。いずれは他社にも広げたいですね。
秋葉:そうなると、システムがひとつのキーになってきます。そこも含めてグループ外にも販売できるようにしていきたいですね。まだきちんとできていませんが、どのようなデータを集めるとそれが活かされるのか。今はモノとして受け払いのようなことをやっているだけですが、それ以外にもあるはずです。個人情報にせずに統計データとしてどうするか。そういうことをしていくと、先ほど村上さんが言ったように、マンションの中だとかグループの中でご入居者に対して商品を販売することもできてきます。冷凍冷蔵の仕組みが入ると本当に大きいですね。冷凍冷蔵は配る側も大変だけど、受け取る側も大変です。受け取らないといけないわけですから。
村上:宅配会社が1日に2回以上来館しているのは、冷蔵冷凍便の存在が大きいと思います。それがなくなれば1回で済むようになるかもしれません。システムに関しては、秋葉さんの方ですでに組み立てていただいていたものを活用したので、実証実験を開始するまでのスピードが非常に早く、ゼロから始めていたらおそらく1年ぐらい遅れたところを早めることができました。また、関係各所との調整もサポートいただき、それがなければさらに半年かかって2年半くらい遅れていたかもしれません。
秋葉:他社への展開は、本当に楽しみですね。
村上:他社展開を行うにあたっては、システムに加えてノウハウも大事であると思います。導入するときの動線や、管理員用のマニュアル、置き配をする際の荷物の置き方やルール整備の方法など、コンサルティング的な部分が必ず必要になってきます。
秋葉:それこそが価値です。どちらかというと今まではそういったことを価値と見られなかったのですが、これは明らかに価値の話です。ニュースで取り上げてもらったこともそうですし、価値としてきちんと出していくことがとても大事です。作業ではなくて価値なのです。
管理会社が着荷主の視点でつくる新しい宅配のかたち
村上:実証実験を始める前に、秋葉さんはよく「まずPoC(Proof of concept:概念実証)をやることから始めよう」とおっしゃっていましたが、本当にその通りで、やってみたからこそ分かったことが多くあります。
秋葉:最初の頃、村上さんたちはずっと現場にいましたよね。
村上:今でも毎日、チームの誰かは現場にいるようにしています。
秋葉:日々起こっていることをどう解決するか、を回していく。当社のエンジニアも状況が分かっている中でやりとりをしているので、スピード感という意味ではPoCを超えていると思います。裏を返すと、本来PoCとはそういうもの。だからこそ期間を決めてやっているわけで、だらだらやるものではありません。本気でこれをきちんとしたサービスにしようと思えば、その期間の中で出し切れるものを出し切らないといけない。今でも現場にいるということは、その一番の現れだと思います。「ルールを決めたから、管理員さんやっておいてね」だったらこのスピードは絶対に出せません。本気でサービス化をすることを前提に動いているのはやはり大きいですね。システムは所詮手段でしかなく、システムがいくらきれいにできても、使われなかったら意味がないですから。
村上:現場にいたほうがモチベーションも上がります。また、入居者様との会話の中でPoCに関するご意見を伺い、サービス設計に取り入れるのも私たちの大切な役割と感じております。サービス向上の観点でも現場の大事さを感じております。
秋葉:テレビにも出ちゃいましたしね(笑)。
村上:居住者様のご協力があってこそ実現しているPoCなので、取り上げていただけてありがたいです。
秋葉:それだけ注目を浴びたということです。言われてみれば、なぜなかったのだろうと思うような話なのかもしれませんが、実際にやっているところはないですからね。
村上:あるようでなかったという声はいろいろなところから聞きますね。
秋葉:いろいろなハードルがありますからね。紙には描けても、実際にやろうと思うとたくさんのハードルがある。
村上:ほかの管理会社が500戸規模のマンションで一緒にやりたいといってくださったり、今回一緒に取り組ませていただいた3社以外の宅配会社からもお問い合わせをいただいたりと、管理業界と宅配業界それぞれから反響がありました。
秋葉:最初からそれを狙っていました。そうした広がりを考えると、やはり冷凍冷蔵があるといいですね。
村上:冷蔵冷凍便の対応については今整備を進めていて、別の荷物と一括で預かるのか、別の仕組みにするのかを調整している状況です。
秋葉:その先を行かなければいけないですね。小売りの話や、新しく建てる建物だったらどうしたらいいかとか、外販としてこのサービスを展開するときのコンサルティングサービスもやっていかないといけません。
以前の対談でも話しましたけど、経済産業省が荷主という言葉を分解して、「発荷主・着荷主」という言葉を最近使うようになっています。結局、着荷主がどうするかを決めていて、その望み通りに発荷主が物を発送している。それで考えると最終は消費者なので、消費者が着荷主で、これをどう変えるかという話なわけです。ところが多種多様な個人を変えるといっても、やはりどうしようもできないですよ。だからこそ着荷主代行のような管理会社がいることによってそこが大きく変わるというのが今回の動きです。そうやって考えると宅配の荷物だけではありません。最終の消費者の代行としてやるべきことはまだまだある、ということだと思っています。
村上:ラストワンマイルを分解することによって、マンションごとに柔軟にルールを設定できます。宅配業者が届ける場合、置き配の指定があったから置き配にした、指定がないから置き配にはできないというように、宅配約款に従って届けられます。一方、マンション内配送では宅配業者から管理会社が一括で荷物を受け取るので、その後はマンションのルール内で配ることができます。当然、効率も上がります。
1月に満足度を調査して、220世帯中80枚のアンケートが返ってきました。満足度は、「これまで以上に満足」が6割、「変わらない」が3割、「今までのほうが良かった」が1割という結果でした。ご指摘をいただいたのは主に通知の部分で、マンションに荷物が到着したら、まだ自宅に荷物が届いていないのに宅配会社から通知がきてしまうといった課題があります。
秋葉:宅配事業者が渡した時点で通知が飛びますからね。
村上:宅配ボックスに置いたと通知がきたのに、行ったらなかった。これはどうにかしなければいけません。
秋葉:宅配事業者側がいったん預けたというステータスにして、双方でやりとりするところまでいけばスムーズになると思います。ただ、1棟だけのためにシステムを大改修することはできないので、途中経過をどうするか、最終をどうするかの両方があると思います。
村上:満足とご回答いただいた方の理由は大きく3点ありました。「再配達がなくなった」「時間指定をしなくていいので楽になった」、一番多かったのが「安全・安心だ」です。
秋葉:私はそこが大事だと思います。
村上:インターフォンの話をしましたが、顔見知りの管理員が鳴らすことで出やすくなります。顔の知らない配達員に比べて、受け取りやすいのかもしれません。
秋葉:確かに配送業者をかたる犯罪はなくなります。やはりそこは他人なのですね。
村上:また、配達員が外からマンションセキュリティ内に入る必要がなくなるので、マンション内のセキュリティ強化にもつながると考えられます。
秋葉:個人的には、配達時間帯の間ずっと家にいないといけないのがなくなるだけでもいいですけどね。意外とストレスだと思うんです。その結果面倒くさいから出かけて、また再配達みたいな。
村上:今は管理会社から一括で荷物を受け取る時間をある程度決めようとしています。そうすれば、管理員も別の業務と両立しやすいですし、居住者様にとっても、荷物が届く時間を予測しやすくなります。このように運用修正を加えながら、第1PoCの第2フェーズとして取り組んでいます。
秋葉:何時から何時ではなく、それ以降だったらあるという捉え方ができるというのは大きいです。これもPoCをしたことで、その結果として次の課題が見えてきたわけですね。システムも物流も、何かやろうと思ったときには必ず関わる業務です。一生懸命前に進もうとする人たちと一緒に取り組んでいくのはやはり楽しいです。