大和ハウス工業株式会社

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コラム No.27-76

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第2回 「ロボットありき」の発想で仕事の流れを劇的に変える株式会社大塚商会 営業本部 トータルソリューショングループ TSM課 吉見 美智子 × 株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉 淳一

公開日:2022/08/31

人の代替としてではなく、「ロボットありき」で考える

秋葉:御社の横浜物流センターには、オートストアが導入されていますが、実際に現場を吉見さんの目で見たときの第一印象はどのようなものでしたか。

吉見:仕事目線も入っているかもしれませんが、様々なことを解決できるロボットだと思いました。大塚商会の「たのめーる」は毎年2回発刊されるカタログに数万点の商品が掲載されており、発刊のタイミングに合わせて新旧それぞれ約2,000アイテムを入れ替えております。オフィス系の通販会社にしてはかなり頻繁なので、普通の発想であれば、それだけ入れ替えているものを、いきなり今日バイトで入った人が対応できるかというと、なかなかできないと思っていました。しかし、弊社の横浜物流センターでは「オートストア」でセンター内の半数のアイテムの入庫と出荷を処理し、残りの半数のアイテムについては、「オートストア」とは別にデジタルピッキングを採用しています。オートストアでは出荷頻度が比較的少ない、BランクとCランクのアイテムについてピッキングし、デジタルピッキングでは出荷頻度の高いSランクとAランクのアイテムを取り扱っています。いずれも検品作業を不要とするシステムでもあり、人の作業負担を大幅に引き下げています。横浜物流センターに設置されたオートストアはロボットの稼働台数が国内最大規模としており、従来比で入庫作業が約2倍、出荷作業が約3倍まで生産性を高めている事にも感動しました。オートストアの効果により、経験の浅い方でも、言語が分からない方でも漏れなくピッキングできるのは、本当にすごいことです。 物流における人員不足は社会課題になっているうえに、コロナ禍で物流が欠かせないことは、皆さんしみじみ感じたと思います。これからさらにオートマティックになって、そこで働く方たちがより働きやすく、かつハッピーな気持ちで働けるようになっていく。オートストアにはいろいろな意味でDXを感じました。

秋葉:オートストアは画期的な発想ですよね。そもそも物流でロボットが使われるようになったのは、今はアマゾン・ロボティクスになっているキバ・システムズからで、10年以上前になります。キバというのは、棚がステーションに来るわけです。以前、ある量販店の社長に「アメリカでこんなものがあるのだけど、日本で導入しない?」と言われたときは、棚が自分のところに来るという発想がそれまでなかったので、本当にびっくりしました。しかし実物を見て、そういうことかと皆が納得して、逆に、その発想がなかった自分たちにびっくりしました。 そこからロボットが次々と出てくるようになりました。その中でも、自動的な在庫保管はいわゆる自動倉庫しかなかったのが、オートストアはロボットで上から下に縦方向に動かし、動かないものが勝手に下にいきます。「すごい!」と思いましたね。下からわざわざ取るほうが時間かかって大変ではないかという懸念も、ロボットの台数でカバーすることができます。今まで人間ありきだったので、棚の間を歩くことを中心に考えていたところ、「ロボットにやらせるというのはこういうことなのだ」と実感しました。 この二つは私たちに衝撃を与えました。それ以外のロボットは、いわば人間がやっていたことを置き換えているだけです。置き換えるのではなく、「そもそもロボットありきで仕事の仕方を変える」という意味で本当に衝撃的でした。

吉見:オートストアは完全にロボットありきですね、人にはできません。下から出てくるところはお客様に見せたいところなので、当社では、アトラクション感覚であえて一部をガラス張りにし、ビンの積み上げ状態が見えるようにされています。

秋葉:導入されたお客様はだいたい見せたがりますよね。物流以外でもアームロボットが使われていますが、けっきょくは人間の手の代わりです。メーカーではアームロボットが溶接に使われてきましたが、それも人間の仕事を置き換えているだけで、プロセス自体が大きく変わっているわけではありません。そこはすごく変わりましたね。

吉見:おっしゃるとおりですね。私もロボットを担当していながら、人の代替の発想しかありませんでした。

秋葉:いろいろな業務が人を前提にして組まれています。しかし、人工知能ありき、ロボットありきで考えれば、仕事の仕方は劇的に変わります。 「完全情報ゲーム」という言葉があります。たとえば、将棋、囲碁、麻雀を例にとると、将棋と囲碁は自分の持っているもの、盤上のもの、相手が持っているもの、全部が情報としてあります。このような完全情報のゲームでは、人間はAIには敵いません。麻雀は見えていないものが多いので、まだ人間が勝ちます。これがまず特徴的な話です。 情報がなければ人工知能はまだまだだ、ということです。例えば、嗅覚や臭覚は十分なセンサーがないので、人工知能はまず勝てません。ましてや「美味しい」は難しくて、まだまだ人間にはかないそうにありません。データが集まったうえでモデリングをすることで、人工知能は自ら賢くなっていきますが、逆に言うと、それ以外のことはできません。ですから、「優秀だけれど不器用なのが人工知能、ロボット」という特性を分かったうえで、「人間が何をするか」「ロボットや人工知能に何をさせるか」を整理しなければなりません。ところが、「人工知能を入れたら100点取れるよね」とか、「ロボットを入れたら、あれもこれもできるの?」といった話になりがちです。

吉見:分かります、ありがちですよね。

秋葉:今、大和ハウス工業は日本全国にある公設市場の建て替えの提案を進めていますが、私たちも関わっていて、物流と合わせた提案をしています。これまで、市場は商物一致を原則にしてきました。競りではものが入ってきて値段を決めるので、商物一致でもよかったのですが、時代の流れの中で、現実には商物がバラバラになって、法律でも商物分離となりました。 しかし、地域の食を支えるという意味では、市場がなくてはならない存在であることに変わりありません。その市場の建て替えのなかで、物流機能を共同化するというテーマの話も出てきます。そうなると、産地から作物の情報をどうやって取るかがポイントになっています。なぜなら、同じ野菜でも産地によって農業協同組合が違うと、違う箱のサイズ、バーコードの位置もバラバラなのです。 このデジタル化を農林水産省の食品流通課が進めているのですが、データをどうやって取るか、データの標準化をどうするかという話になったときの、農林水産省のDXチームのお話がとても面白かったです。「データの標準化はするけど、紙のフォーマットの標準化はやめてください」と言ったのです。紙のフォーマットを標準化すると、紙ありきをイメージさせてしまうからやめてほしい、どのようなデータをやりとりするかだけを決めてほしい、ということでした。人間がやるから、紙のフォーマットや画面のフォーマットのイメージが必要なのであって、コンピューターで処理するのであればそれ自体が要りません。これは「人ありきではない」という考え方です。

吉見:まさにそうですね。人ありきではない発想をしなければいけないと、本当に思います。

標準化を行い、「データの価値」を理解する

吉見:直近でDXを最も感じたのは当社の「横浜物流センター」でした。というのも、倉庫を全社員が見ることはないからです。

秋葉:新しいセンターを建てたことは社内に公開されますが、中身の映像までは公開しません。今は動画配信も簡単にできるのに、すごくもったいないですよね。

吉見:競合他社に見られたくないというのはありますので、公開には制限をかけています。当社では一度の注文金額が300円以上で送料無料にしています。そのため、原価をどう下げるかがポイントであり、そこがノウハウになってきます。

秋葉:全部を見せる必要はないと思います。オートストアを入れるような企業は、ある程度の物流の機器投資、システム投資をします。一方、物流には中小企業が多いので、「どうしたら中小企業がロボットを含めたDXを進められるか」というのが実は一番の課題です。価格的にも導入ハードルが非常に高いのです。そこで、経済産業省が後ろ盾になって検討する組織体をつくり、標準化を進めています。業界をまたいで、メーカー、物流事業者、小売業もいるし、ロボットベンダー、エンジニアリング会社、われわれのような会社も入っています。それぞれの業界の中でどうすればいいのか、物流全体でどうするかといった話をしています。 私が入っているのは物流倉庫TC(テクニカルコミッティー)ですが、他にも小売、施設など、いろいろなことを検討している人たちがいます。物流の場合、デジタル化していないと情報が繋がっていきませんので、保管する製品のサイズや出荷状況などさまざまな情報をどうやって繋げるか、といったテーマについて検討しています。

吉見:標準化と国が動くことは、どの業界でも同じだと感じています。昨日は神奈川県の病院にお伺いしましたが、国内病院間のカルテが共有化できていない問題をお聞きしました。例えば救急でかかりつけ以外の病院に搬送された場合など病院として本当に困るそうです。共有できるようになれば、患者さんは診察に時間がかからなくなるし、病院側も工数が減ります。しかし、フォーマットの統一化は国が動かないとできません。「国が最初に動かないと」というところは、どの業界でも一緒だと思いました。

秋葉:物流も含めて、食品流通の間に関わっている受け手側の人たちは、情報が事前に入ってきて、リアルタイムで分かること自体が価値だと皆が分かっています。しかし、情報の発信側である農家さんにとって、デジタル化することで得られる価値とは一体何でしょうか。私は農家さんにお金を払うべきだと考えています。農家さんは、受け手側の人たちにメリットのあるデータをつくってくれる人なので、その人たちのデータを買わせてもらうという発想です。ただ、今の法律ではできないそうです。 人工知能を精度よく動かすためには、きちんとしたデータを与えることが大前提です。より一層データの価値が高まっていくのに、データの発生元にお金が払えないのは非常に残念です。「データの価値」という捉え方がなかなかできていません。ソフトウエアという仕組みの価値もなかなか理解されませんが、それ以上に「データの価値」に対する理解が必要だと思います。

吉見:何かを検証するとき、データを取る方に負荷がかかってしまうとだめですよね。病院も同じです。タブレットやtemiで退院アンケートを取りデータ化しているのですが、看護師さんは紙を配布する方が楽なのではないかといった意見もありました。今回は検証の一環として協力してくださいましたが、それを期間限定ではなく実務の日々でやるとしたら、結局それが負荷になってしまってDX化がまた減速してしまうかもしれません。

秋葉:今までの仕事プラスデータエントリーになってしまう。

吉見:そこが一番の課題です。ビックデータの基盤となる情報を取得するのは実務を行っている方ですが、活用を検討しているのは上層部の方です。そのため実務の方々に負荷をかけるだけではなく、後工程の作業工数軽減をメリットとして享受しなければ、と感じました。

DX化が階層ごとに進んでいる

吉見:今、小規模から大規模までの各企業、自治体、公共でDXの流れが変わってきているのは感じます。層ごとに、やらなければいけないことが違うのです。中小企業がテレワークを進めて分かったのは、「ファックスが本社に来ているから取りに行かなければいけない」というような些末な課題がDXに繋がるということです。電話も同じで、社内外線を会社貸与のスマートフォンに繋げることもできます。大手ではペーパーレス化が進んできて、契約書でも電子承認が始まりました。 ところが、ペーパーレスと言いながら、現在、1日のコピー用紙の出荷トン数は新型コロナウイルス感染症拡大前に戻ってしまっています。感染が拡大し出した頃は紙の出荷は10%以上が減りました。皆さん出社しないのでコピーの量が減ったわけです。しかし、今は感染拡大前と出荷トン数が変わっておらず、各企業のペーパーレス化はまだ道半ばかと思います。

秋葉:そこは「temiが受付に立つだけでも」という話に近いような気がします。ただし、何かをやることによって気付くことがあります。紙の出荷数量がコロナ禍で大きく変わったと思っていたのに、また戻っているという事実が分かった。コロナがなかったら、今までの量が多いか少ないかもあまり意識しませんよね、日常ですから。

吉見:自治体の業務でも紙を大量に使っています。多くの申請書や届出書は、紙で処理され、保管されています。それを別のシステムに打ち込む等の後工程業務も存在します。ローコード/ノーコードのシステム導入も検討していますが、手続き全体を設計しなおさないと、一部がデジタルツールで置き換わるだけであり、紙がなくならず、効率化も限定されます。そのため、大塚商会では、自治体へのシステム導入に際し、職員の方と一緒になって、業務プロセスのBPRとともに、業務全体をリデザインする伴走サービスを行っています。

秋葉:日々目の前の業務こなしている人に、もう少し上の目線で考えろと言うのはやはりしんどいですよね。

吉見:自治体は、窓口業務以外に住民サービス向上や市町の発展のために、多くの施策を企画し実行されています。本来DXではその企画段階から、従来の考え方を大きく変える発想が必要です。先ほどの、人が行うのではなく、ロボットが行う前提で企画するような発想です。そのため、大塚商会では、自治体職員向けに、マインドセット研修とスキルセット研修を提案しています。マインドセット研修では、失敗を恐れずチャレンジすることの必要性、サービスデザイン思考等をセミナーとグループ討議を組み合わせて実施しています。スキル教育では、ExcelとRDBMSとの違い、RPAの活用、5G・IoT・AI等の最新技術の説明や、BPR実施方法の実践型研修を行っています。このような取り組みがDXを進めるにあたり重要と考えています。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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