インタビュー

【税理士インタビュー】
渡邊賢道会計事務所 渡邊賢道様
聞き手:大和ハウス工業 本社営業推進部TKC中部推進室(名古屋駐在)岡崎 年雄
自利利他の精神で、中小企業を元気にし、
日本を豊かに
理想を持つこと、現実を把握すること、
そのバランスが大事
岡崎:私は営業推進部に着任して13年目ですが、これまで親しくしていただいてありがとうございます。税理士先生にとって新参者は知識も乏しく、付き合いづらいところもあったと思いますが、渡邊先生は最初から非常にフレンドリーに対応していただいて、事務所を訪問した際には趣味や食事のことなど、いろいろなお話もさせていただいています。
渡邊:40歳過ぎからTKC全国会システム委員会にいます。システム委員会の中に電子申告の小委員会があり、その一員として電子申告の導入前から携わってきました。TKC全国会システム委員会の人間として国税庁の職員とやりとりして電子申告のシステムを作り、平成16年から13週にわたって新聞に記事を書いたこともあります。
岡崎:渡邊先生は若くしてTKC全国会デビューをされました。TKC中部会のシステム委員代表として全国で活動されていらっしゃいますから、全国の先生方とつながりをお持ちです。地方の先生から見れば、名古屋といえば渡邊賢道先生、渡邊会計事務所という存在でいらっしゃいます。
また、渡邊先生といえば、音楽に写真にと本当に多趣味でいらっしゃいます。仕事との共通点はありますか。
渡邊:毎日写真を撮っていても、それぞれ違う色に仕上がり、同じものは一つもありません。ジャズの演奏にしても、二度と同じ演奏は存在しません。仕事もまったく同じ仕事はありませんので、そういう点は同じではないでしょうか。
岡崎:大和ハウス工業での仕事も同じです。すべてオーダーメイドですし、お客様一人ひとり異なるニーズを尊重し、大切にしていかない限り、お客様の信頼を得られません。また、投資に関するビジネスの場合は、お客様がいかに黒字になるかを考えながら進めていく必要があります。
渡邊:家やオフィスとしての空間は必ず必要なものです。建てる人がどのように思って、どういうものが欲しいのか。このニーズをキャッチして、それに合う商品を提供すれば、購入いただけると思っています。
岡崎:そこでオーナー様が利益ばかり考えているようではだめでしょうし、それこそ自利利他の精神が大切になりますね。
渡邊:実際の現場には、お金が欲しいなどいろいろな思いがあって、その矛盾した状態で進行しているのが健全だと僕は思っています。きれいな心で理論的でいることも大事ですが、泥だらけの血だらけで進んでいくのが、もがいている人間の実際の姿です。そういう意味では両面があって、矛盾があったほうがいいと思いますね。どこか矛盾する自分に気づいている自分がいる、という状態が一番健全なのではないでしょうか。
岡崎:理想の姿と現実、そこのバランスなのですね。不動産のご紹介やさまざまなご相談があると思いますが、日頃からバランスの取れたご提案を心掛けていらっしゃるのでしょうか。
渡邊:バランスは本当に重要ですね。お釈迦様も中道だとおっしゃっています。やはりやりすぎは良くない、ちょうどがいいのだと思います。
不動産関連の相談がきたときには、大和ハウス工業、あるいは2社に話を持っていきます。建てるのは僕ではないので、お客様に選んでもらいます。その時にアドバイスはしますが、考え方を変えるとまた違う結果になるので、建てるお客様がどのように考えるかを大事にしています。建物を建てるということは、野菜を買うのとは違って、お客様にとって一生に何度もあるわけではない気合いの入った買い物ですから、たくさん情報をもらって選択していただきたいと思いますよね。
岡崎:渡邊先生は大和ハウス工業に対してどのようなイメージをお持ちですか。
渡邊:元気でバイタリティーがあるイメージです。それに話しやすいですよ。
岡崎:何でも対応しないと、この時代では受け入れてもらえませんので、元気に頑張っています。最近、大和ハウス工業では、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に取り組んでいます。SDGs対策や災害時に備えるという意味でも大切だと思っていますが、どのようにお考えですか。
渡邊:災害への備えとしてZEHのような取り組みは非常に大事だと思います。災害時に困るのは電気なので、特に蓄電は重要です。
岡崎:この辺りはあまり災害の経験がないので、皆さんそれほど敏感に反応されませんが、東北や九州では、蓄電池に関心を持ったり、自分の事務所に購入されたりする方が多くいらっしゃいます。
渡邊:私も事務所に太陽光発電システムを導入しました。電気があってこそですから。
不動産の「見える化」を推進
岡崎:最近は、事業承継するにも承継しきれない中小企業の方も増えてきましたが、先生のお客様で、会社のオーナーが工場跡地や自分の所有地をお持ちで、その活用をされること、あるいは、会社の承継問題などもあるのでしょうか。
渡邊:私のお客様では、自宅、事務所を建てる、あるいは建て替えが多いのが実態です。また、承継問題についても、深刻な話はほとんどありませんが、深刻になりそうな場合は早くから対策をします。例えばお子さんがいなければ、早くに養子縁組を勧めます。それで大まかな対策が打てます。先日は、ご夫妻のうちお一人が病気になってしまい、慌てて手続きをした一週間後に亡くなりました。「あの時やっておかなければ大変なことになっていた」ということが度々あります。
岡崎:渡邊先生には、固定資産税の名寄せ台帳のデータをいただき、われわれが公図と登記事項証明書を取ってお客様の所有される不動産を地図に落とし込みお返しするという、いわゆる所有不動産の「見える化」を定期的に利用していただいています。
渡邊:最初は自分でやっていたのですが、大和ハウス工業は仕事も早いので頼むことにしました。資料は相続で使っています。名古屋という地域柄、土地を多くお持ちの方もいらっしゃるので。この辺りはコロナ禍でも土地の値段が下がらず、逆に上がりました。店舗の入れ替わりも早いですね。お客様には店舗を探す方もいるので、不動産がらみで何かあったら岡崎さんに相談しています。
中小企業が元気になれば日本も豊かになる
岡崎:TKC全国会の職員様など若い方々に対して、自利利他の精神を持って仕事にあたるうえでのアドバイスはございますか。
渡邊:「自分のことを第一に考えるな」これが自利利他の実践だと思います。自分中心で考えるとどうしてもゆがんでいきます。自分に都合のいいように曲げて解釈してしまうと、相手が不利になることもあります。相手が喜ばないと自利利他にはなりません。そういう意味では、僕はあまり自分のことを考えずに、お客様のためになることを一生懸命考えています。
岡崎:渡邊先生には引き続き、TKC全国会の協定企業の大和ハウス工業としてどのように立ち回っていったらいいか相談に乗っていただきながら、良い関係を続けさせていただきたいと思っています。本来であれば近寄れないようなお立場にいる先生ですが、広く受け入れていただいて本当にありがたいです。
渡邊:私は反対で、個人の一事務所に、上場会社の人が来てくれるなんてとんでもない話だと思います。偉いと勘違いする先生もいますが、そのような認識がないといけないと思っています。
岡崎:ありがとうございます。最近ではさまざまなスキームを用意しています。そこでもTKCの理念「自利利他」とうまく並走していきたいです。そして、「困った、どうしよう」というところから一緒になって考え続けていきたいと思っています。私たちは不動産、建築のプロであり、先生方は会計、経営のプロですから、私たちをうまく使っていただきたいと思います。
その結果、関与先である中小企業の経営者の方々に元気になっていただきたいです。そうならないと、日本が豊かにならないですよね。
渡邊:本当にそうです。日本の多くを占める中小企業の人たちが動き、活躍しないと国を支えられません。国民一人ひとりが他人のために動いたら、すごく強い国になると思います。
岡崎:最近では、社会のために、生きているうちに資産を使うという考えも出てきました。
渡邊:これからはそのような考え方になっていくのではないでしょうか。人は裸で生まれて裸で死んでいくわけです。毎朝起きて、ご飯を食べて、明日を迎えるという繰り返し。このサイクルが波のように途切れることなく、死ぬ瞬間まで続いていくのが一番幸せなのだと思います。