インタビュー

ヤマト税理士法人 税理士 北村 秀子
相続時に財産の現状分析を行うための3つの視点
財産をお持ちの方が相続を迎えるとき、まず現状分析から始めますが、3つの重要な視点があります。
1つ目は「財産の中身」で、どのような財産を持っているか、2つ目は「人」で、相続人はどのような方なのか、そして3つ目は「時間」で、被相続人の年齢や健康状態などを把握します。この3つを組み合わせながら、「どの時点で、どのような対策が必要か」を検討していきます。
「財産の中身」を分析する
1つ目は「財産の中身」の分析です。財産には、不動産、現預金、株、非課税財産などがあります。財産と債務がどれくらいあるか区分けをしたうえで、財産の中身を確認します。
財産は、不動産・現預金・有価証券の3つをバランスよく持つのが良いとされていますが、実際には、不動産はたくさん持っているのに現金がないというケースも多く見られます。
その場合も内容をしっかり確認します。土地であれば、宅地なのか、畑なのか、有効活用ができる場所なのか、それとも生産緑地になっていて手をつけられない場所なのか、あるいは遊休地がないかなどを確認します。建物に関しては、自宅なのか、親族に貸しているのか、賃貸住宅なのか、賃貸住宅の場合収益物件としての有効性があるかどうかを、固定資産税と照らし合わせながら見ていきます。
私たちのように不動産の税務に携わる者は、鳥の目を持っています。つまり、高いところから不動産を見ています。どのような場所に、どのように位置しているのか、どのような形をして、道路からどれだけ離れているのか、駅からの距離はどうか、どのような環境の中にあるのかをまず見ます。その上で「どうしたら有効活用できるのか」を大和ハウス工業のような専門家の目で見てもらいます。そして市場調査をしたうえで、土地の活用方法があまりないと判断した場合には、売却して資産の組み替えを考えます。
土地活用では、用途がとても大切です。信頼できるプロのアドバイスを受けて、どれだけ有効な土地活用ができるかが大きなポイントになります。
用途は、時代や社会の変化に応じて考えていく必要があります。時代のニーズに合った長期的に収益をもたらしてくれる用途にするために、不動産オーナーの悩みは尽きません。
今、建築コストが上がり、メンテナンスをするにも費用がかかり、30〜40年たった建物であれば、リノベーションも考える必要があります。ある程度躯体がしっかりしていれば、需要に対応するために古い建物をリノベーションした結果、非常に収益性が高くなるケースもあります。そういった判断を間違えないように、正確な情報を得ることが大切です。
相続人はどのような「人」か
2つ目の視点は「人」です。どのような方が相続するかによって対策はまったく違ったものになります。子どもが1人の方もいれば、子どもがいないので兄弟姉妹に相続させたい、兄弟姉妹の子どもたちに渡したいという方もいます。子どもが遠くに住んでいる方、中には海外にいる方もいます。
この相続人の問題は、3つ目の「時間」にかかわってきます。どのような方が相続人かによって準備期間が変わります。
今、少子化によって子どもがいないケースが増えています。子どもがいないご夫婦の場合、夫が亡くなった後、先祖代々の土地も含めて財産はすべて妻にわたり、妻が亡くなった後は、妻の親族に渡ってしまうケースもあります。それをご自分の家系に戻したい場合、養子縁組ができなければ、家族信託が有効な手段になります。家族信託のメリットは、いったん財産が自分の家系から別のところに渡っても、その次の相続先まで指定できることです。また、受益者が意思表示できなくなった場合に備えて、収益を維持するための修繕などができるようにするために、家族信託を使うこともあります。
相続人についてさまざまなケースがある中で、私が相続で大切にしたいことは「相続とは皆が元気で仲良く暮らしていくためにはどうしたらいいか」ということです。相続が終わった後、口をきかない、会いもしないでは寂しすぎます。また皆で集まれるような環境が一番です。
どれぐらいの「時間」をかけられるか
3つ目の視点は「時間」です。相続対策に緊急を要するケース、3〜4年は大丈夫、10年以上は大丈夫など、ケースによってかけられる時間が違います。1つ目の財産の中身で触れたように、所有している不動産が売りやすい場所なのか、自宅なのか、すぐに動かすことができるのかなどによっても、対策に必要な時間が違います。
最近、若い時から相続対策を始める方が増えてきました。コロナ禍になり、余計にその傾向が強まっているのかもしれません。ずっと元気だった方が、「この頃体力がなくなってきたので…」「そろそろ準備をしたい」と言われたり、財産を書き出して来られる方もいます。一方で、70代の方の父母がご存命のケースも多く、90歳を超えるご高齢で頑張っている方もいます。
また次の世代を超えて、お孫さんが対策を始めるケースもあります。お孫さんが30〜40代で、父母が70代、祖父母が90代後半だと、お孫さんが相続対策の主力として対応されるケースも増えています。父母があまり対策をしておらず、お孫さんが心配になったり、祖父ではなく、父のほうが病に倒れてしまったりしたこともありました。
どのようなケースであれ、被相続人が健康なうちに相続対策をしておくことが大事です。特に相続税の原資がない場合、もめそうな場合、相続人への分割がしにくくなるため、遺言を作成することも必要でしょう。遺言を作成することで、将来どうするかをシミュレーションできます。もちろん、シミュレーション通りにいかないケースもありますが、財産をどれだけ多く残したいかを考え、相続対策をしている方としていない方では、その後が全然違います。
土地活用では法人化が有効
相続税対策には、納税資金の準備としてキャッシュを用意する必要があります。キャッシュが不足しているのであれば、どうやってつくり出すかを検討します。不動産がある方は、現状分析して、キャッシュを生むためにどうしたらいいか、逆にキャッシュのウエートが高すぎる方はどうしたらいいか、いろいろなケースがあります。
財産が不動産しかない場合、相続税の原資を確保するために、工夫をしておく必要があります。賃貸住宅を建てて収益を生みだすなど、時間をかけて対策することが重要です。賃貸経営をすべきかどうかは、資金や場所をよく検討して判断する必要があります。市場調査をした上で、専門家の意見を参考にしながら、適切な選択をすることが重要です。
賃貸経営を行う場合、法人化することは有効手段の一つだと思います。一定の賃料収入などがある場合、個人だと税金の合計が所得の50%を超えてしまうこともあり、それでは納税資金が不足してしまう場合があります。法人化して会社に不動産を持たせれば、相続時においても、そのまま継続して持つことができます。親族の方々が役員として入って事業をすれば、給料として収入を得られますから、納税資金にすることができます。また、株を移動させて相続人それぞれに分散することで、皆に安定して分配できる仕組みをつくることもできます。
相続税の資金として、非課税資金をためておくことも必要です。非課税資金の一つが生命保険です。生命保険の非課税枠は1人500万円、死亡退職金も500万円の非課税枠がありますから、両方利用できればかなりの金額になります。仮に相続人が4人ならば生命保険で2000万円、退職金と生命保険金を合わせて4000万円が非課税になり、納税資金にすることができます。このような対策をするためには、法人化が必要です。
日本には、所得税、法人税、消費税、資産税とさまざまな税金がありますが、所得税はどうしても累進課税で高くなります。法人化にシフトしていかないと、日本で蓄財をしていくのは厳しい時代なのかもしれません。不動産に何らかの施設をつくり、会社として経営していくという方法は、今後も王道の一つだと思います。