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コラム No.53-36

PREコラム

戦略的な地域活性化の取り組み(36)地域資源の域内循環が地域を再生する

公開日:2021/04/28

自治体が主導して、エネルギーの地産地消により地域循環共生圏を形成し、地域課題を解決する取り組みが各地で始まっています。

海外の先進事例
~ドイツ「シュタットベルケ」~

ドイツでは、19 世紀後半から「シュタットベルケ」という事業形態が存在しており、ドイツ国内には現在、1400 以上の組織があるといわれています。
「シュタットベルケ」とは、自治体独自、あるいは民間企業と共同で運営する都市公社の意味で、電力・ガス・熱供給・上下水道をはじめ、公共施設や交通、通信、廃棄物処理の管理・運営など、幅広い公共インフラ事業を民間企業と同じ経営手法で展開しています。この「シュタットベルケ」の特徴は、地域で得た利益を地域事業に展開する点にあります。
「シュタットベルケ」はこれらの公共インフラ事業を一括で経営し、リスクを分散させることで経営を安定させ、地域内で必要な公共サービスを維持しており、地域雇用の創出にも大きな役割を担っています。
ドイツにおける電力事業は、日本に先立って1998 年に電力小売の自由化が始まりましたが、当初は競争が激化したことで経営が悪化する新電力が続出し、大手電力企業の寡占化が起こりました。その中にあって「シュタットベルケ」は、再生可能エネルギーを重視した電力事業や多様な地域公共サービス事業の実績が地域住民の信頼を得て、厳しい競争環境を勝ち残り、現在では電力事業者として国内上位を占めるまでになっています。またドイツには、900 以上の送配電事業者が存在しているといわれ、地域におけ る多様な公共サービスとの複合的な商品を作りやすい利点も、その要因であると考えられます。
このような「シュタットベルケ」の事例は、今後の日本における地域電力事業の在り方に、大いに参考になると思われます。

国内における先進事例
~福岡県みやま市~

福岡県みやま市は、福岡県南西部に位置し、農業を基幹産業とする人口約3万8千人の地方都市ですが、人口の減少や高齢化が進み、地域課題となっています。同市では、2014年に経済産業省の住宅エネルギー管理システム(HEMS)実証事業が開始されたことを機に、「日本初のエネルギー地産地消都・日本版シュタットベルケ」を目指し、2015年に自治体主導の地域新電力会社「みやまスマートエネルギー株式会社」を設立しました。当時は、みやま市域から年間約40億円の電力購入費が他の地域に流出している状況にありましたが、同市の第3セクターが運営する出力約5MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)の発電電力と、市内に設置されている民間企業の太陽光発電設備から買い取った余剰電力を地域内に供給、消費することで、電力コストの域内循環を進めています。また、事業で得られた収益を基に、HEMSやスマートメーター、住民に無料配布したタブレットを活用した高齢者見守りサービスや、商店街EC事業(みやま横丁)、住民支援事業(なんでもサポートすっ隊)、地域観光・物産拠点運営(さくらテラス)など、多様な住民サービス事業を運営しています。これらのみやま市の活動は、2015年度には「グッドデザイン賞」金賞(経済産業大臣賞)を受賞し、脚光を浴びています。

地域電力事業をバックアップする経営環境

国内では、脱炭素社会の実現に向けて、CO2を排出しない燃料として水素、あるいは水素の化合物であるアンモニアが注目されています。国内の発電量は、火力発電の割合が現在におい ても70%以上を占めています。国内の電力需要に応え、かつ脱炭素社会を実現するには、この火力発電によるCO2の排出量を抑制することが必須となることから、化石燃料を水素やアンモニアで代替していく取り組みが進められています。
また、自然状況により発電量が不安定な太陽光や風力で発電した余剰電力を蓄電し、その電力で水素を生成して地域内の水素サプライチェーンを構築する、あるいは災害時等を想定した送配電システムを地域で構築する計画など、ゼロカーボン社会の実現に向けた挑戦的イノベーションも各地で進められています。
一方、脱炭素社会に向けた革新的な技術開発やインフラ構築のためには、長期的に多くの資金が必要となります。これに対して、近年ではESG 投資という考え方が普及しつつあります。ESG投資とは、企業の財務情報だけではなく、Environmen(t 環境)、Socia(l 社会)、Governance(企業統治)の3つの観点から企業の持続性や長期的な収益性を分析・評価したうえで、投資先企業を選定する手法です。こう した金融の動きは、地域における社会的課題解決を目的に、公共性の高い事業を推進する企業にとって、資金調達面で後押しをする取り組みであるといえます。

連邦制をとるドイツの「シュタットベルケ」を、体制が異なる日本にそのまま当てはめて実現するのは簡単ではありませんが、特に電力自由化後の取り組みに関していえば、「シュタットベルケ」は先例として多くの示唆に富んでいると思います。
日本においても、日本版「シュタットベルケ」実現に向けた事業環境が整いつつある中、自治体主導の地域事業に対して、より挑戦的、戦略的経営が求められています。

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