大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

メニュー
コラム No.53-66

PREコラム

戦略的な地域活性化の取り組み(66)公民連携による国土強靭化の取り組み【28】気候変動に立ち向かう農林水産業の新たな動向

公開日:2023/10/31

2023年、日本の夏は記録的な猛暑となりました。その影響から、高温障害や土壌乾燥による農作物の生育不良、沿岸海水温の上昇による一部海産物の漁獲量減少などが報告されています。今回は、気候変動により年々厳しさを増している農林水産環境への適応動向について概観してみます。

身近になってきた気候変動が農林水産業に及ぼす影響

2023年3月に気象庁が公表した「気候変動監視レポート2022」によれば、日本の気温上昇率は100年あたり1.30℃、気温変動傾向をみると、1980年代後半から急速に気温が上昇し、異常高温は1990年代以降に集中しています。この影響は、農作物にも及んでおり、コメや野菜、果物、果樹の生育不良、品質の低下、着色不良などの被害が報告されています。
一方、日本近海における100年あたりの海域平均海面水温上昇率は、+1.24℃となっており、気温上昇率とほぼ同等であり、北太平洋全体の平均海面水温の上昇率(+0.62℃/100年)より高い値を示しています。特に、日本海中部(+1.87℃/100年)、釧路沖(+1.55℃/100年)では全国平均より高く、北海道や東北、日本海沿岸で特定海産物の漁獲量減少が見られます。

農産物や海産物の不作・不漁は、土壌や海流、病害虫の影響等様々な要因が考えられますが、近年の状況を考えると、やはり地球規模での気候変動・温暖化が主因のようです。政府は、地球温暖化対策として、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減対策(緩和策)と、気候変動の影響による被害の回避・軽減対策(適応策)の2方向から、各省庁が対応策の策定に当たっています。
温暖化原因物質の排出抑制(緩和策)については、地球規模の課題として、世界各国で歩調を合わせた対策が進んでいますが、温暖化は現在あるいは将来も続くことが予測されるため、各国固有の対策(適応策)が必要となっています。特に、亜熱帯から寒冷地域が広く分布する島国日本にとっては、国全体の変動動向を俯瞰した対応が必要だと思います。

農業分野における温暖化対策

農林水産省の「令和3年地球温暖化影響調査レポート」によれば、高温によって米粒が白濁化し品質が低下する白未熟粒(しろみじゅくりゅう)の発生、ナス、トマトなど野菜、イチゴなど果物、リンゴ、ミカン、サクランボ、ブドウ、ナシなど果樹の生育不良や着色不良等が報告されています。農林水産省は、「気候変動適応計画」(最新は令和3年改定版)を策定、温暖化による農林水産物の現状を把握し、将来的な気候変動を予測するとともに適応策の指針を発表しています。中長期的には、温暖化により作物の露地栽培適地がより北上する、または高地に移動するということになるため、作物の適地適作を計画的に進める、あるいは現在栽培されている作物の品種改良を行い温暖化に適応する、といった対応策が必要となります。産地にとっては、伝統的な地域作物の存続が危ぶまれる傍ら、新たな農産物の開拓が可能となる好機でもあります。
一方、気候変動の影響を受けない施設園芸農法も対応策の一つだといえます。特に、大都市圏周辺の農地が乏しい地域においては有効な手段であると考えられます。一部の野菜や果物の栽培に限られますが、企業が自動化された植物工場や垂直農法(高層化して作付面積を確保する農法)施設を建設し、運営する取り組みが活発化しています。稼働するためのエネルギーコストとのトレードオフが課題ですが、作物の安定供給、人手不足の解消手段として、今後の動向が注目されます。

水産分野における新たな挑戦「環境DNA」

温暖化は、水産業にも大きな影響を与えています。北海道のスルメイカやサンマ、岩手県のサケ、富山県の寒ブリなどの漁獲量が激減している反面、北海道ではブリ、東北ではタチウオやトラフグ、イセエビの漁獲量が増えるなど、海面水温の変動によって魚類の生息域が変化しているようです。また、魚類等が移動できない海洋養殖などでは、養殖海産物が死滅し壊滅的な被害を受けた地域も報告されています。水産業が難しいのは、魚類は海洋を定期的に回遊・移動しており、特定水域に生息する生物が明確に把握できないため、「獲ってみないとわからない」点にあります。
この課題に対して、現在注目を集めているのが「環境DNA」の活用です。「環境DNA」とは、水や土壌、大気などに放出されたDNAのことで、海水などを分析することにより、どのような生物が存在するのかを網羅的に把握することができます。現在、収集したビッグデータをオープンデータとして運用する動きも出ています。
また、一部の魚類を陸上の水槽で養殖する試みも見られます。都市再生機構(UR)が、高齢化が進み空き家が増加している神戸市垂水区「新多聞(しんたもん)団地」で、カワハギやヒラメ、バナメイエビなどの陸上養殖の実証実験を開始し、地域活性化を推進するといったユニークな事例も出てきています。

地球温暖化の影響への対処にフォーカスした技術は「気候テック」と呼ばれています。食料の安定供給を担う農林水産業において、各産業が蓄積したノウハウを結集し、「気候テック」のオープン・イノベーションが推進されることを期待したいと思います。

関連コラム

メルマガ
会員登録

注目
ランキング

注目ランキング