
戦略的な地域活性化の取り組み(83)公民連携による国土強靭化の取り組み【45】公共サービス・インフラの長寿命化を図る試み「民間提案型官民連携モデリング事業」
公開日:2025/03/31
2025年1月に発生した埼玉県八潮市の下水管破損による道路陥没事故は、住民の避難や排水制限など地域生活に大きな影響を及ぼすとともに、完全復旧に向けた長期的大規模な工事が継続しており、老朽化による公共インフラの事後保全(損傷復旧)や事前保全(メンテナンス)の難しさを露呈した事案となりました。今回は、深刻化する公共インフラの保全問題について考えてみます。
老朽化が進む全国の社会資本(公共インフラ)
国内の公共インフラは、高度経済成長期以降に集中的に整備された施設が多く老朽化が深刻であり、今後、耐用年数の目安となる建設から50年以上経過する施設の割合が加速的に進行していくとされています。
図:建設後50年以上経過する社会資本の割合(2023年3月時点)
注1)建設後50年以上経過する施設の割合については、建設年度不明の施設数を除いて算出。
注2)国:堰、床止め、閘門、水門、揚水機場、排水機場、樋門・樋管、陸閘、管理橋、浄化施設、その他(立坑、遊水池)、ダム。独立行政法人水資源機構法に規定する特定施設を含む。
都道府県・政令市:堰(ゲート有り)、閘門、水門、樋門・樋管、陸閘等ゲートを有する施設及び揚水機場、排水機場、ダム。
注3)一部事務組合、港務局を含む。
注4)総数には、建設年度不明の施設数を含む。
出典:2023年国土交通資料「建設後50年以上経過する社会資本の割合」
この現状に、老朽化が進む公共インフラを計画的に維持管理・更新することにより、国民の安全・安心の確保や維持管理・更新に係るトータルコストの縮減・平準化等を図る必要があるとして、国も2013年には「インフラ長寿命化基本計画」を策定し、公共インフラの大部分を維持管理する地方公共団体が行動計画を策定するとともに、国が技術的・財政的な支援を始めています。
2018年に国土交通省が取りまとめた「社会資本の将来の維持管理・更新費の推計」によれば、「事後保全」(破損発生後の復旧)を「予防保全」(事前検査による補修)に転換することにより、公共インフラの維持管理コストが、20年後には約3割、30年後には約5割縮減できる見込みが示されており、「予防保全」への計画的な行動シフトを促しています。しかし一方で、自治体における人材・人員、財政には制約があり、国は民間活力活用や新技術導入の促進により、公共インフラの「単純更新」から将来を見据えた「機能向上型更新」へとパラダイムシフトすることを目指すとしています。
社会資本の強靭化に向けた課題
現在、公共インフラには、最低5年に1度の近接目視による点検が義務付けられていますが、老朽化が加速度的に進行している現状では、破損事故が後を絶ちません。2012年に発生した中央自動車道の笹子トンネル天井板崩落事故や、2021年の和歌山県の紀ノ川水管橋崩落事故は記憶に新しいところです。いずれの事例の場合でも、一定の定期点検が行われていましたが、事故を未然には防げませんでした。
これまで、公共インフラは管理自治体が検査仕様・計画を策定し、民間が作業を受託するといったプロセスが一般的なようですが、今後は民間活力を活用して、自治体が持つメンテナンスノウハウと民間が持つ技術力を駆使して、地域インフラを保全することが求められます。そのためにも、地域のインフラ保全ニーズと企業が持つシーズを整理しモデリングした上で、市区町村に留まらず、都道府県や国全体で共有、平準化することで、公設民営化、民間への包括的民間委託事業とするなど、「予防保全」を合理化し加速化することが必要だと思われます。
「民間提案型官民連携モデリング事業」への期待
公共インフラの保全・更新手法を平準化するといっても、全国各地域が抱えている課題はさまざまです。そこで、国土交通省では2023(平成5)年から、地方公共団体が抱える課題を、民間事業者から提案された新たな官民連携手法により解決する「民間提案型官民連携モデリング事業」に取り組んでいます。この事業では、自治体等の課題(ニーズ)と、それに対する民間事業者の提案(シーズ)を公募し官民のマッチングを実施、選定した後、国土交通省の委託調査によって導入を検討した上で、官民が一体となって新たな官民連携手法(PPP/PFI)を構築し、全国の地方公共団体のモデルとして横展開につなげていくことを目指しています。例えば、「予算や職員等のリソース不足のため、早期の措置が必要とされる橋梁の対応に数十年を要する恐れがある」とする複数の自治体の課題(ニーズ)に対して、大手橋梁建造メーカーが、「見守り保全により、維持管理コストの大幅削減、メンテナンスサイクルの促進による工期短縮、業務の効率化、地域企業の維持確保」を提案(シーズ)するといった事例が提示されています。このような提案が実現して有効性が認められ、地方自治体等の負担軽減と民間事業の国内外での事業規模拡大、コスト低減化により、相互の利益が見込めるようであれば、新産業分野の創造につながる可能性が期待できる 取り組みだと思います。
官民連携による公共インフラの保全には、その他にも、管理自治体の規模適正化(広域管理、職員や機能の集約)、上下水道のような住民の利用料金と維持管理コストとのバランス、官民の利益配分など、早急に検討が必要な課題があります。
加えて、エネルギーやモビリティ改革等将来を見据えた統合的な公共インフラの多機能化、持続可能な柔軟性も、今後は重要な要素となるのではないでしょうか。
いずれにしろ、自然災害が多発する中で、地域住民の安心・安全に直結する公共インフラの強靭化は喫緊の課題でしょう。