戦略的な地域活性化の取り組み(55)公民連携による国土強靭化の取り組み【17】公民連携によるパークアンドライドが地域の脱炭素社会と地域活性化を促進する
公開日:2022/11/30
近年、自動車による大気汚染や交通渋滞の緩和、最近では脱炭素対策の一環として、市街地や観光地周辺で地方自治体や公共交通機関によるパークアンドライドの取り組みが注目を集めています。
パークアンドライドの背景や効果
パークアンドライド(Park and Ride)とは、自家用車等で市街地や観光地へ向かう人々が、公共交通機関(鉄道やバスなど)の最寄り駅、市街地や観光地周辺の駐車場までアクセスし、そこからは公共交通機関等を利用して目的地に向かうシステムのことです。モータリゼーションの発展により、交通量が増加し、交通渋滞とそれに伴う排気ガスによる大気汚染が国内外で社会問題化していました。道路の整備や排ガス規制の強化によって、近年では徐々に解消に向かってはいますが、市街地や観光地への自動車等の流入傾向は続いており、都市によっては大型の駐車場を整備する、あるいは交通規制により自動車等の進入を制限するといった対策をとっている地域もあります。しかし、市街地や観光地に手軽な料金で利用できる大型駐車場を整備することには限界がありますし、交通規制は市街地や観光地における商業施設利用者の利便性を低下させ、地域の魅力を低下させかねません。
このような背景から、自治体や公共交通機関、商業施設等が連携した、地域におけるパークアンドライドの仕組み作りが活発になっています。例えば、市街地や観光地近郊の指定した駐車場を利用することで、公共交通機関利用料金が割引になったり、市街地や観光地の商業施設が利用できるクーポン券が付与されたりといった取り組みが行われています。このような公民連携事業によって、自治体としては地域課題解決に対する支出を抑えることができ、公共交通機関や商業施設側は利用者の増加が見込めるといったメリットがあり、また来街者を確保することで地域の活性化が期待できます。さらに、排気ガスの排出抑制は脱炭素社会の実現に向けて効果的であることから、国も積極的に後押ししています。
鎌倉・江の島地域におけるパークアンドライドの取り組み
鎌倉や江の島地域は、首都圏近郊の観光地として大変人気があり、多くの観光客が自家用車で来街することで慢性的な交通渋滞と駐車場不足が発生しています。特に古都鎌倉の中心部は狭い空間に多数の名所旧跡が密集し、周辺地域と接続する道路も細いため、週末や年末年始には大規模な交通規制が実施されている状況です。
そのような課題を解決する取り組みとして、鎌倉市は、鎌倉や江の島への玄関口であり、JR横須賀線、湘南モノレールの乗継駅である東海道線大船駅の大型駐車場と連携した、「大船パーク&ライド」の運用を2021年7月から始めました。その内容は、大船―江の島間を結ぶ湘南モノレールの1日フリー切符を購入する、または鎌倉の5か所ある文化施設のいずれかを来訪することを条件に、駐車場料金を割り引くというものです。それ以前にも鎌倉市は、隣接する藤沢市や江ノ島電鉄と連携して、江の島―鎌倉間の指定駐車場を利用することで江ノ島電鉄の1日フリー切符を2名分付与する「江の島パーク&レールライド」という取り組みを2006年4月から運用しており、自治体、公共交通機関、公共施設、商業施設それぞれのメリットを生かした広域なパークアンドライドによる地域活性化事業として、その動向が注目されます。
横浜駅を起点とした鉄道によるパークアンドライドの取り組み
神奈川県最大の人口を擁する横浜市は、横浜駅からみなとみらい21地区にかけての沿岸地域に商業施設が密集し、山下公園や横浜中華街、元町などがある関内地区などの観光地にも隣接しているため、横浜市内のターミナル駅である横浜駅周辺の交通渋滞は常態化しています。
その横浜駅に乗り入れる鉄道の一つである相模原鉄道(相鉄)グループは、二酸化炭素の排出量削減と横浜駅周辺の交通渋滞緩和に貢献することを目的として、2021年10月から沿線の商業施設駐車場を活用したパークアンドライドの取り組みを試験導入し、2022年6月より本格運用を始めています。その内容は、相鉄グループのポイント会員向けサービスとして、相鉄沿線のグループ商業施設で3000円以上の買い物をすると、沿線の別の駐車場利用であっても料金が6時間無料になるというものです。これにより、グループ内の鉄道や商業施設の利用客増が見込めるというメリットとともに、自家用車の利用を抑制することで交通渋滞を緩和し、二酸化炭素の排出を抑える効果が期待できるとしています。相鉄によれば、2021年10月から2022年3月まで試験導入の約5カ月間で、累計990台のサービス利用があり、この利用実績から二酸化炭素の排出量を換算すると、約3.2トン削減したことになるということです。
全国の地方都市の中にも、ターミナル機能を果たしている中心街は多く見られます。この相鉄のパークアンドライドの事例は、公共交通を運営する自治体や企業にとって、利用客を確保しながら交通渋滞緩和と脱炭素に貢献する取り組みとして、大いに参考となるのではないでしょうか。
少子高齢化が進む中で、脱炭素社会の実現が急がれている現状を考えると、地域内でのストレスの無い移動手段として新しい交通システムの必要性を感じます。パークアンドライドの取り組みは、公民が連携して相互の既存施設・設備を活用した新たな地域交通の在り方を示す、一つの道標となるかもしれません。