土地活用ラボ for Biz

土地活用ラボ for Biz

コラム No.53-7

PREコラム

戦略的な地域活性化の取り組み(7)英国BID制度にみるエリアマネジメント手法

公開日:2018/11/30

現在、BID(Business Improvement District)制度は世界各国で採用され、各国の国内事情に合わせた制度整備が進んでいます。日本におけるBID制度は着手したばかりですが、今後、日本独自の制度として、どのように根付いていくのでしょうか。その先例として、今回は英国のBID制度について解説してみます。  

英国BID制度の背景(エリアマネジメントの歴史)

英国では、1980年代に、交通網の発達や市民の購買力の向上による小売業の拡大を背景に、都市における建築規制の緩和を行った結果、大型店舗や郊外型のショッピングセンターが急速に発展しました。対照的に、モータリゼーションへの対応が遅れた中心市街地(タウンセンター)は衰退し、空洞化が起こります。この状況に対応するために、1980年代後半には、中心市街地の事業者が再生と活性化を目的に、TCM(Town Center Management)組織を立ち上げていきます。1991年には、専門家や企業、行政などがパートナーシップを結び、全国的なNGO組織であるタウンセンターマネジメント協会が設立されて、中心市街地の再生に向けた活動が本格化していきます。
これは、官主導か民主導かの違いはありますが、日本における中心市街地活性化施策や、TMO(Town Management Organization)活動の動きと類似しています。しかし、拡大する空洞化地域の再開発に対する国の資金援助にも限界があり、また、TCM活動へ会費を支払わない事業者(いわゆるフリーライダー)の問題も顕在化する中で、事業者たちはより効果的な地域再生に向けて、新たな資金調達方法や管理・運営方法を模索することになります。

英国BID制度の概要

TCM活動における課題を解決する手法として、英国では、2000年頃から米国を参考にBID制度の導入が検討され始め、試験的事業を検証した後に、2004年に初めてイングランドでBID法が整備されました。2017年末現在、全英で209のBID組織があり、特にロンドン市内では70ものBID組織が設置され、収入額が5億円を超えるBID組織もあるといわれています。英国におけるBID制度の概要は、次のようなものです。

  • (1)地域内の事業者や地権者等がBID提案書(対象地域、納税者、納税額、サービス内容等)を作成し、サービス内容について、地方公共団体との間で基本協定を締結する 
  • (2)BID設置には、事業者(納税義務者)の投票総数の過半数以上、不動産評価額で過半数以上の賛成票が必要(BIDの期限は5年間、継続する場合は再度の投票が必要)
  • (3)地方公共団体が、事業税徴収と同様の方法で事業者から対象資産額に応じた比率(おおむね1%程度)で、BID特別税を徴収し、BID運営組織に活動資金として交付する

英国BID制度の特徴は、米国BID制度と違って、納税義務が「地権者(土地所有者)」ではなくて「事業者(土地占有者)」であることです。これは、日本版BID制度「地域再生エリアマネジメント負担金制度」と類似しています。

英国におけるBID活動の特徴

北米などにおけるBID組織は、「安全と清潔(Safeand Clean)」を活動理念の基盤としているようですが、英国においては、「安全と清潔」は行政サービスとして位置づけられており、BID組織は、その補助的な活動に留まるとされています。そのため、英国におけるBID組織の主な目的は、「事業者の利益を創出する環整整備」と「地域不動産価値の向上」という地域産業の振興が中心とされており、事業者の負担金は、あくまでそのためのビジネスとしての投資であると認識されているようです。
地域事業者の合意形成と利益を享受するにあたっての負担義務を明確にしたBID制度は、民主導による民主的で公平な地域再生手法といえますが、一方で、以下のようなデメリットも懸念されています。

  • ・負担金拠出者の利益が優先され、地域内の格差が生まれるのではないか
  • ・貧困地域では成立しづらいため、地域間格差が拡大するのではないか

日本においての行政サービスの位置づけも、英国と類似しており、英国BID制度は、今後の日本版BID制度整備の先例として、注目に値するものだと思います。

多層的なエリアマネジメント

これまで見てきたように、英国BID制度は、TCM活動での課題を解決する制度として導入が進められた経緯はありますが、それではBID組織がTCM組織にとって代わる、あるいはBID組織同士の連携により、より広域なエリアマネジメントに発展するのかというと、そうではないと思われます。
TCMは中心市街地という比較的広域な地域の再生や再開発を行う、より公共性が強い事業のマネジメント主体であって、BIDは特定地域、一定目的のためのマネジメント制度といえます。言い換えると、TCMは地域の不特定多数に対する最大利益を追求する組織活動であり、BIDは特定された地域の納税者に対する利益を追求する組織です。しかし一方で、BIDの利益が行政や地域企業、TCMなどの他のマネジメント主体と一致するのであれば、多様なパートナーシップによって協業することが合理的です。他方、BIDは構成員の利益とならないボランタリーな活動は制限されると考えられます。このように、マネジメントの対象範囲や設立理念の違いから、BIDはエリアマネジメントの最終形態としてではなく、多様化する地域ニーズに対応する有効な一手法として、これまでのエリアマネジメント活動を補完し、多層的に連携し合う存在といえます。

英国BID制度が示唆するもの

英国の法体系や国と自治体の役割と権限、予算配分、自治体の構成、民主化に至る歴史的背景などが日本と異なるので、全てを参考にすることはできませんが、英国BID組織の活動紹介記事などを見ますと、日本のエリアマネジメント活動に、少なからず示唆を与えてくれます。

  • 前の記事へ前の記事へ
  • 次の記事へ次の記事へ

メールマガジン会員に登録して、土地の活用に役立つ情報をゲットしよう!

土地活用ラボ for Biz メールマガジン会員 無料会員登録

土地活用に役立つコラムや動画の最新情報はメールマガジンで配信しております。他にもセミナーや現場見学会の案内など役立つ情報が満載です。


  • TOP

このページの先頭へ