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コラム No.53-8

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戦略的な地域活性化の取り組み(8)スポーツによる戦略的な地域振興

公開日:2018/12/25

今回は、少し視点を変えて、近年注目を集めているスポーツによる地域振興について、考えてみます。

地域資源による地域振興

少子高齢化、人口減少傾向が進むにつれ、各地域で地域資源を広く発信し、認知度を上げる地域振興策が活発化しています。海や山、川、雪といった自然資産、神社仏閣、街並み、建造物といった歴史資産、伝統工芸品や地域名産品、地域食材といった産業資産などを活用した地域おこしは、各地で見られます。しかし、すべての地域に、そのような魅力的な地域資源があるとは限りません。
そこで、近年注目を集めているのがスポーツ産業です。スポーツの強みは、性別や年代を問わずファン層が広いことです。「みるスポーツ」はもとより、「するスポーツ」分野でも、競技として参加する人は多くないかもしれませんが、趣味として、あるいは健康増進や美容目的では、多くの方が何らかのスポーツをやられているのではないでしょうか。それに加えて、スポーツ用品やグッズ販売、スポーツ観戦に伴う旅行や宿泊など、関連する周辺産業は多々あります。また、地域にとっては、集客力の強いスポーツイベントの開催に付帯した観光への誘客は、大変魅力的な地域振興施策といえます。その最たるものが、オリンピックでしょう。

国内のスポーツ事情

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、スポーツ界の活動も活発になってきています。国際大会においても、日本選手の目覚ましい成績が、連日報道されています。また、新たにバスケットボールや卓球のプロリーグが設立されるなど、国民のスポーツへの興味が増大することに呼応した企業の動きも出てきています。国としても、2015年に文部科学省にスポーツ庁を発足させ、2017年には第2期スポーツ基本計画を策定し、スポーツ振興施策を多々打ち出しており、 2018年には約340億円のスポーツ関連予算が組まれています。
一方、地方におけるスポーツ関連経費は、財源不足などから、1995年は1兆84億円でしたが、 2013年度は約半分になっています。対策として、競馬や競輪といった公営競技に加え、スポーツ振興くじ(スポーツ振興投票)などにより、スポーツ振興の財源確保策が進められているのは、耳に新しいと思います。 ただしこれは、学校体育や競技スポーツが中心であり、民間セクターにおけるスポーツ市場と必ずしも連動しているわけではありません。

国内のスポーツ市場規模

ここで、2016年にスポーツ庁と経済産業省によって取りまとめられた、「スポーツ未来開拓会議中間報告~スポーツ産業ビジョンの策定に向けて~」を参照して、スポーツ産業の動向について見てみましょう。 この報告書では、スポーツ産業活性化に向けた4つの基本方針が掲げられていますが、そのうち注目すべき二つの方針が提案されています。

(1)「 負担(コストセンター)」から「収益(プロフィットセンター)」へ
・「体育」から「スポーツ」へ
・ポスト2020年を見据えた、スポーツで稼ぎその収益をスポーツへ再投資する自律的好循環の形成

(2)スポーツ産業の潜在成長力の顕在化、我が国基幹産業化へ
・スポーツをコアとして周辺産業に波及効果を生む、新スポーツ産業の創出

(1)では、学校教育としてのスポーツのみならず、スポーツの価値を幅広く捉えて、スポーツ産業政策として展開すること。(2)では、スポーツの周辺産業への波及効果を含めた新しいスポーツ産業を創出していくことがうたわれています。そして、今後のスポーツ産業市場規模を下表のように試算しています。

表:我が国スポーツ市場規模の拡大について【試算】

スポーツ産業の活性化の主な政策 現状推計 2020年 2025年
(1)スタジアム・アリーナ(スタジアムを核とした街づくり) 2.1兆円 3.0兆円 3.8兆円
(2)アマチュアスポーツ(大学スポーツなど) - 0.1兆円 0.3兆円
(3)プロスポーツ(興行収益拡大) 0.3兆円 0.7兆円 1.1兆円
(4)周辺産業(スポーツツーリズムなど ) 1.4兆円 3.7兆円 4.9兆円
(5)IoT活用(施設、サービスのIT化進展とIoT導入) - 0.5兆円 1.1兆円
(6)スポーツ用品(スポーツ実施率向上策、健康経営促進など) 1.7兆円 2.9兆円 3.9兆円
市場規模合計 5.5兆円 10.9兆円 15.2兆円

スポーツ庁、経済産業省「スポーツ未来開拓会議中間報告~スポーツ産業ビジョンの策定に向けて~」より作成

これは、あくまで公共セクターの政策に絡む市場規模試算ですので、民間セクターへの波及効果を含めれば、さらに大きな市場規模となることが想定されます。
ここで、地域振興に関連して特に注目したいのは、(1)スタジアム・アリーナなど施設基盤と、(4)周辺産業の市場規模の伸び予測値です。

スポーツ施設を核としたスマート・ベニュー ®構想

スマート・ベニューとは、日本政策投資銀行が提唱する複合的な機能を組み合わせたサステナブルな交流施設のことですが、強力な集客力を持つスポーツに着目し、スタジアム・アリーナをスマート・ベニューとして中心市街地に据えた地域開発構想が注目を集めています。例えば、日本初の全天候型多目的スタジアムである東京ドームは、野球場をはじめ、各種屋内競技、コンサートや展示会にも対応し、周辺にはホテルや遊園地、飲食街、ショッピングモールを備え、東京ドームシティを形成しています。また、さいたまスーパーアリーナは、さいたま新都心のスマート・ベニューとして、客席やステージ・床・天井などが可動するムービング・ブロックシステムを採用し、さまざまな屋内競技やコンサート、展示会、イベントに対応が可能で、周辺にはホテルやショッピングモール、マンションなどが次々と開発されています。

海外では、米国を中心に多くの事例がみられます。例えば、カリフォルニア州ロサンゼルス市街地にあり1999年に完成したステイプルズ・センター(Staples Center)は、NBA(男子バスケットボール)ロサンゼルス・レイカーズ、ロサンゼルス・クリッパーズ、WNBA(女子バスケットボール)ロサンゼルス・スパークス、NHL(アイスホッケー)ロサンゼルス・キングスの本拠地であるとともに、コンサート会場や国際的な展示場としても定着しており、ロサンゼルスのスマート・ベニューとして機能しています。
いずれも、多種スポーツに対応可能で、スポーツ以外の多目的会場としても利用可能な機能を備えており、周辺には宿泊施設やショッピングモールなどが整備されています。
このように、スタジアム・アリーナを核としたスマート・ベニュー構想は、施設単体で、あるいは地域全体で“稼げる”街づくりの手法として、将来性が期待されています。

次回からは、さらに具体的な先行事例や将来構想、マネジメント手法などについて紹介したいと思います。

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