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TKCコラム

知っておきたい土地活用の基礎知識②
建築着工統計

国土交通省は毎月、建築基準法の届出義務に基づく建築物を対象にした「建築着工統計調査」を公表しています。この調査で全国の建築物の動態が把握できるため、国や地方公共団体の施策の基礎資料となるだけでなく、民間でも業界団体や金融機関、各種研究機関などが動態分析などに利用しています。

建築着工統計調査は、2008年に開設した政府統計の総合窓口「e-Stat」で閲覧することができます。報道で取り上げられることが多い「住宅着工戸数」は、この建築着工統計調査にある「住宅着工統計」に収録されています。

2008年のリーマン・ショックで100万台割れ

新たに建設された住宅の戸数は、注文住宅である「持家」と賃貸住宅の「貸家」、建て売り一戸建てやマンションなどの「分譲住宅」、社宅などの「給与住宅」の4つに分類されています。総戸数は2009年に100万戸を大きく下回って78万戸となり、その後持ち直して90万戸を維持しています。2007年にいわゆる「耐震偽装事件」が起きて建築基準法が改正され、建築確認・検査の厳格化が図られたこと、2008年のリーマン・ショックで世界的な不況に陥ったことなどが大台割れに繋がりました。

新設住宅着工戸数の推移(1997-2019)

国土交通省「建築着工統計調査」より作成

戸数の減少に比例して床面積も年々減り続け、1個当たりの平均床面積も減少しています。1997年は138万7014戸で床面積は12万9181千㎡。1戸当たりの平均床面積は93.1㎡。2019年は90万5123戸で7万4876㎡。1戸当たり平均床面積は82.7㎡で、20年前と比べて10.4㎡狭くなっています。

分譲住宅はマンションと戸建てに分けられます。マンションは2006年がピークで、その後の3年間で3分の一以上にまで急減しました。これは、前述した「耐震偽装事件」による建築基準法の改正で、建築確認・検査の厳格化が図られたことが大きな要因です。この時期は住宅ローン金利も2%台から1%台に下がりましたが、リーマン・ショックとともに、マンションに対する構造上の欠陥が指摘されたために、戸建ての需要が増したと思われます。

持ち家住宅と賃貸住宅の新設着工数の推移(1997-2019)

国土交通省「建築着工統計調査」より作成

自己所有の有無で「持家」と「分譲住宅」を持ち家、「貸家」と「給与住宅」を賃貸住宅に分けたのが上の表です。2013年は翌年の消費税引き上げをにらんで持ち家の数値が上がっています。これは住宅購入の駆け込みが増加したためです。また2011年の東日本大震災の翌年から賃貸住宅が伸びています。震災復興の一環として賃貸物件である「復興住宅」の建設が進んだことを反映していると思われます。一方、社宅や社員寮、借り上げ住宅などの「給与住宅」はリーマン・ショック後の2008年と翌年に一時的に増加していますが、それ以降は減少しています。

2015年1月から相続税制が改正されたことで、この年以降、賃貸住宅の建設需要が上昇しました。高額な相続資産を持つ人が節税効果を狙いに賃貸住宅・マンション経営に乗り出したことが賃貸住宅の着工数を押し上げたと思われます。

またこの4、5年、「持ち家」と「賃貸住宅」の新規着工戸数が以前に比べて拮抗してきています。これは非正規雇用の拡大で個人所得が伸び悩んだという経済的な影響とともに、シェアハウスやカーシェアリングなどに代表される「所有しない」世代が増加し、ライフスタイルが変化したことも背景にあるとも考えられます。

首都圏・近畿圏は賃貸志向、中部圏は持家多い

わが国では、人口が集中する東京、大阪、愛知の3大都市圏で新設の住宅着工戸数全体の6割を超えています。首都圏は東京都と埼玉・千葉・神奈川の3県、近畿圏は大阪府と京都府、滋賀県・兵庫・奈良・和歌山の4県、中部圏は愛知・静岡・岐阜・三重の4県です。

首都圏の新設住宅着工戸数の推移(1989-2019)

国土交通省「建築着工統計調査」より作成

近畿圏の新設住宅着工の推移(1989-2019)

国土交通省「建築着工統計調査」より作成

中部圏の新設住宅着工数の推移(1989-2019)

国土交通省「建築着工統計調査」より作成

3大都市圏はこの30年、首都圏と近畿圏は「賃貸>分譲>持家」と賃貸が多いのに対し、中部圏は「持家>賃貸>分譲」の傾向にあります。中部地区は東京・大阪の大都市周辺に比べれば地価が低く、注文住宅が建てやすい立地が多いことが要因だと思われます。近畿圏で1996年に貸家がピークに達していますが、これは前年に発生した阪神・淡路大震災による被災の影響があったものと考えられます。

工場・倉庫など非居住建築物は40年前の5分の1に

建築着工統計調査は、居住用の住宅だけでなく、店舗や事務所、工場など非居住の建築物の統計調査も行っています。それによると、2019年の民間の非居住建築物は、事務所・店舗・工場・倉庫の4部門ともに減少しています。過去40年の推移を見てみると、過去最高の株価を示した1989年に15万棟を記録したのを境に徐々に減り始め、2008年のリーマン・ショック後に底をつき、2019年は40年前の5分の1程度にまで落ち込んでいます。

非居住建築物の着工棟数推移(使途別:1980-2019)

国土交通省「建築着工統計調査」より作成

上の表を見ると、倉庫と事務所は1万棟を維持していますが、店舗と工場は減少の一途です。1990年代中盤にインターネットが本格的に登場し、商取引に占めるEC市場(ネット取引)のシェアが急速に高まっていることが原因と思われます。特に、倉庫の着工ニーズは、無店舗販売のインターネット通販業者が増加していることを裏付けるものになっているのではないでしょうか。
また、工場の減少は、自動車などの基幹産業が東南アジアなどに生産拠点を移したことで、その協力工場も海外移転をしていることで国内工場の減少に拍車をかけていると思われます。

建築着工統計調査を見ると、新設の住宅着工では持ち家が賃貸住宅を上回り、持ち家の中では2008年のリーマン・ショック以降、戸建てがマンションを上回っています。若年層で「所有しない」世代が拡大する傾向にあるだけに、賃貸住宅ニーズが高まると思われます。一方、非居住建築物件数は40年前の5分の1という結果になっており、ITの進展でインターネット通販などのEC取引が拡大し、事務所や店舗を保有しない企業が増加している現状を示しています。