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TKCコラム

知っておきたい土地活用の基礎知識⑧
在宅勤務と住宅需要~コロナ禍の不動産事情

昨年1月15日に新型コロナウイルスの国内感染が確認されて1年が経過しました。この間2度にわたって緊急事態宣言が発令されるなど、収束のメドが付いていないのが現状です。コロナの感染拡大で在宅勤務する人が増える一方、人の移動は様変わりを見せています。今回は3つの調査を通してコロナ禍の不動産事情を見ていきます。

悲喜こもごものテレワーク

VR住宅展示場サイトを運営するマイホームマーケットは2020年9月、200人余りの男女を対象に「テレワークと住まいに関するアンケート」を実施しました。
その調査の中で、在宅勤務をしている人は自宅のどんなスペースで仕事をしているのか尋ねると、リビングが半数以上、次いで書斎、寝室、ダイニングの順でした。子どもが学校に通うため日中は空いているせいか、「子ども部屋」がそれに続います。男女別で男性はリビングが42%で最多。書斎も24%、寝室が19%。書斎を持つ人は意外に多いようです。寝室では、こたつなどを出してノートPCを使っている風景が目に浮かぶようです。女性はリビングが66%強で最多でした。

在宅勤務に使っている自宅スペース(単位:%)

マイホームマ―ケット「テレワークと住まいに関するアンケート」(2020年11月18日)より作成

次に、在宅勤務をしていて良かったと思うことは、通勤時間がなくなり、その分を有効活用できるようになったことを挙げた人が最も多く、会社では時間帯が定められている休憩時間の利用も2番目に多くなっています。会社勤めの人にとって日頃いかに通勤時間を取られているかを物語ります。また概ね1時間の昼食時間帯など通常は決まった時間に取っていた休憩を自由に取れるようになった実感がこもっています。不要不急の外出自粛や飲食店の時短営業などで家族と接する時間が増え、付き合いが減るのも好意的に受け止められているようです。

在宅勤務をしていて良かったこと(単位:%)

マイホームマ―ケット「テレワークと住まいに関するアンケート」(2020年11月18日)より作成

反面、在宅勤務で困ったのは「気持ちの切り替え」です。休憩時間が有効に使えるのは良いのですが、これまで通勤、出社、昼食休憩、外出、帰社といった規則的な時間の流れに慣れていた人にとって、四六時中自宅に居ながら仕事をこなすというのは意外に難しいもの。時間に拘束されないのはメリットでもありながら、気持ちの切り替えができにくいようです。

在宅勤務をして困ったこと(単位:%)

マイホームマ―ケット「テレワークと住まいに関するアンケート」(2020年11月18日)より作成

自宅勤務が長引くと、作業スペースにも不満が出てきます。インターネット環境も会社のように必ずしも万全ではありません。インターネットを介した会議などのためにWEBカメラや無線モデムなどを買い揃える必要も出てきます。「家族に気をつかう」「家族に気をつかわせている」の相反する回答は、テレワークが生む微妙な家族関係を示唆しているといえるでしょう。

住環境に敏感になった自宅勤務の生活

auじぶん銀行が2020年10月に行った住宅事情に関するアンケート(男女500人を対象)によると、「家にいることが増えて、隣人の話声や電話の声が気になりストレスが増えた」(神奈川県・29歳女性)、「防音性の整ったところに住みたいと思うようになった。今までは昼は家を空けていたので知らなかったが、隣の家からの生活音、特に掃除機をかける音がすごいと知った。仕事中に気になってしまう」(埼玉県・46歳女性)など、テレワークによって自宅で過ごす時間が増えたことで生じる意識の変化を紹介しています。

会社勤めの人々は日中自宅を留守にしているので、平日の午前午後に自宅周辺がどのような環境に置かれているか知らない人が多いことがわかります。また同アンケートでは、「ここに1日いるのは疲れる。これまでは帰って寝るだけだった。もっと広い間取りの部屋を選べばよかった」(東京都・31歳女性)、「日中家で過ごす時間が増え、日当たりが悪いことが気になるようになった」(岩手県・33歳女性)、「都会に住む必要性を感じなくなった」(東京都・44歳男性)などの声も寄せられており、テレワークを経験したことで以前に比べて住環境に敏感になっていることがわかります。

コロナ禍によって、転入・転出数に大きな変化が

不動産評価サイトを運営する株式会社タスが2020年8月に発表した「賃貸住宅市場レポート」の首都圏版は、コロナ禍による首都圏および近県の人口動態をもとに調査した結果を公表しました。下の図は首都圏各地域の2020年上半期の転入・転出数の増減(対前年同期比)。すべての地域で前年割れを起こしています。転入は他地域から移動した人数、転出はその反対の数値を表しています。

首都圏各地域の上半期(1月~6月)の前年同期比の転入数と転出数の増減

株式会社タス 賃貸住宅レポート首都圏版(2020年8月)より作成

神奈川県と千葉県は転入・転出の減少数が同程度になっていますが、その他の地域では転入のほうが減少幅で転出を上回っています。東京23区は転入の減少つまり都心部に流入した人口が顕著に減っていることを示しています。それを5歳刻みの年齢で見ると、その背景が透けて見えてきます。

年齢(5歳階級)別 2019年上半期と2020年上半期の転入者数比較

株式会社タス 賃貸住宅レポート首都圏版(2020年8月)より作成

2020年上半期に東京都への転入者の減少幅が最も大きかったのは15歳~19歳で、その多くは大学入学に伴う転入を控えて都内での下宿生活の機会を失い、出身地でインターネット授業などを受けていると思われます。また25歳~44歳の減少は、企業が多く集積する都内への転勤に伴う転入を控えたことによると考えられます。

年齢(5歳階級)別 2019年上半期と2020年上半期の転出者数比較

株式会社タス 賃貸住宅レポート首都圏版(2020年8月)より作成

転出者はどうでしょうか。上の図で転出者数の変化で際立っているのが東京都の20歳~24歳。2019年に比較して2,000人近くも増加しています。これは入社に伴い居住地として感染拡大が懸念されていた東京都を避ける動きがあったと考えられます。この受け皿となったのが神奈川県と千葉県。この地域では20歳~24歳の転入者数が前年同期よりも増加しています。すべての都県で30歳~44歳の転出者数が前年同期比で減少しており、多くの企業が首都圏からの転勤を自粛していたことがわかります。

新型コロナウイルスの影響で首都圏では学生の都会生活が中断し、企業の転勤自粛でビジネスパーソンの移動が制限された結果、1都3県での住宅事情にも大きな変化が表れていると言えるでしょう。