TKCコラム

不動産特定共同事業で社会問題を解決する
国土交通省が「不動産特定共同事業の多様な活用手法検討会」中間とりまとめを公表
現在全国において、「空き家・空き店舗」が増加していくなか、自治体にとって、保有する不動産(PRE)の再生、活用は大きな課題のひとつになっています。
その解決策のひとつとして期待されているのが、不動産特定共同事業です。不動産特定共同事業とは、事業者が匿名組合契約や任意組合契約などを通じて複数の投資家から出資を募り、出資された資金で収益不動産を取得・賃貸・運用し、そこで得た収益を投資家に分配する事業のことです。
国土交通省は、この不動産特定共同事業の活用を推進するために、「不動産特定共同事業の多様な活用手法検討会」を設置し、令和3年7月に中間とりまとめを発表しました。
そのなかで、不動産特定共同事業は地域における課題解決を図るひとつの手法であり、まちづくり、特に人口減少・高齢化社会に対応するヘルスケア施設などを供給する解決ツールであると提唱しています。
不動産特定共同事業の活性化施策
1995年、不動産特定共同事業を活性化するために不動産特定共同事業法(不特法)が制定されましたが、以降、環境の変化に対する対応や投資のさらなる促進のために、何度か法改正が行われています。
2017年(平成29年)の不特法改正では、事業者が不動産特定共同事業に参入しやすくなるように、資本金や出資金の要件が緩和されました(「小規模不動産特定共同事業」の創設)。
この改正により、資本や資金が少ない中小企業や地域の不動産会社等も、不動産特定共同事業に参入しやすくなり、特に地方で顕在化している、空き家や空き店舗の活用などの解決につながると期待されています。
2019年には、「未来投資戦略2018」を踏まえ、不動産特定共同事業へ参入しやすくする施策や「不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン」の策定など、取引の電子化(クラウドファンディングの活性化)に対応する施策も出されました。
実際に、これらの不特法改正などにより、不動産特定共同事業の案件数は増加傾向にあり、地方においても案件が進行しているようです。
図1:不動産特定共同事業 案件数

また、クラウドファンディングの案件も着実に増加しています。クラウドファンディングは、2017年の不特法改正において可能となりましたが、2019年に活性化策が打ち出されたことにより、順調に推移しています。
不動産特定共同事業の電子取引業務(クラウドファンディング)の許可等を受けた事業者は、令和3年(2021年)4月末時点で54社、令和2年度(2020年度)のクラウドファンディングの案件数は137件、出資募集額は85.6億円となっており、不動産特定共同事業におけるクラウドファンディングは着実に進展しつつあると言えるでしょう。
図2:不動産特定共同事業におけるクラウドファンディングの実績

ヘルスケア施設を取り巻く状況
もうひとつ、不動産特定共同事業において注目されているのは、都市部の高齢者住宅やヘルスケア施設への展開です。
高齢化が進展する中、三大都市圏の高齢者数は、令和22年(2040年)に向けて大幅に増加すると予測されており、特に、要支援・要介護の割合が高まる85歳以上については、平成27年(2015年)と比較して280万人超の増加が予測されています。これは、札幌、仙台、広島、福岡という都市においても同様の傾向があるとされています。(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)平成30年推計」)。
政府も「住生活基本計画(令和3年3月19日閣議決定)」において、高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合を平成30年(2018 年)の2.5%から、令和12年(2030年)までに4%に引き上げるという目標を掲げていますが、現状の供給量を見る限り、目標の達成は難しい状況となっているようです。
「第4回サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会」の資料によれば、令和22年(2040 年)の65 歳以上人口4%(156.8万戸・人)に対する現在(2019年時点)の戸数・定員は、87.6万戸とかなり少ない状況となっています。
また、内閣府の「高齢者の健康に関する意識調査(平成24年)」によれば、最期まで自宅で過ごすことを希望する人が多い一方で、自宅のリフォームや住み替えがあまり検討されていません。さらに、高齢者向け住宅に対しては、費用や体制など、不安を感じているようで、老後に対して心理的にも金銭的にも十分な備えができているとは言えない状況のようです。
こうした背景のなか、ヘルスケア分野において期待されている不動産特定共同事業の活用ですが、現実には、活用が進んでいるとは言えないようです。
しかし、この中間とりまとめのなかでも、クラウドファンディングを活用した不動産特定共同事業は、個人投資家の参入が容易になるとともに、住民自身が主体的に取り組むことも可能であり、自ら投資をすることで、ヘルスケア施設の充実を図り、住み慣れた街で余生を過ごすことが可能となるなど、様々なメリットもあると提言し、不動産特定共同事業の活用によって、不足するヘルスケア施設の供給拡大を図ることは、社会的課題の解決を図るためにも必要なことだとしています。