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TKCコラム

中小企業の事業承継の増加を背景に、M&Aが増加

M&Aとは、英語のMergers and Acquisitions(合併と買収)の略で、企業の合併や買収の総称を指しますが、中小企業を中心にM&Aは非常に活性化しています。
株式会社レコフの調査によると、M&Aの件数は近年大きく増加傾向です。1990年には年間約700件程度でしたが、2000年代に入ってから以降急増し始め、リーマンショックや東日本大震災の影響により一時的には減少したものの、2019年には、M&A件数は4088件となり、2018年の3850件を6.2%上回り、過去最多を記録しました。これは、2012年以来、8年連続の増加であり、初めて4000件を突破しました。内訳を見ると、日本企業同士のM&A、いわゆるIN-INを中心に増加しています。

図:1985年以降のマーケット別M&A件数の推移

出典:レコフデータ

この背景には、中小企業の事業承継問題があります。事業承継の方法としてM&Aを選択している中小企業が増加しているため、M&A成約件数が全体として増加しているといえるでしょう。
現在、中小・小規模企業は経営者の高齢化が進行しており、経営者が団塊の世代となっている中小・小規模企業を中心に、事業の承継が大きな問題となっています。承継できる適切な人材がいる企業はいいのですが、将来の経営状況や市場から判断して、事業の自らの継続を断念せざるを得ない企業が増加しています。
そうなると、まず考えられるのがM&Aです。自分たちで継承できないのであれば、せめて、他の企業が事業を継続してほしいと願う経営者は後を絶たないようです。

政府も中小企業の事業承継を推進しています。2018年の税制改正で事業承継税制の改正により、様々な事業承継に関する要件を緩和しており、こうした法改正も、結果的にM&Aを増加させる要因のひとつになっているようです。

M&Aのポイントのひとつとなる「CRE戦略」

様々な業界において、人口減少や人口ピラミッドの変異によって、国内市場の成長は難しくなっており、もはや安心できる市場などないといっても過言ではないでしょう。業界全体のパイが縮小していく中で、業務の効率化や利益率向上を追求するとなれば、M&Aなどによって、経営資源の効率的な活用を志向していく傾向がさらに加速していくことは避けられないでしょう。
M&Aを実施するうえでは、市場の中でいかに生き残り、企業価値を高めることができるか、という点を追求していくことになりますが、そこで重要なポイントのひとつになってくるのが、企業の保有する不動産「CRE」を含めた企業価値という点です。
企業を買収する際には、その「企業価値」を測り、買収価格を算定するためにデューデリジェンス(対象企業の資産の調査)が行われますが、その企業価値には、その企業が保有する不動産が含まれることになります。
その場合、不動産そのものの価値も重要ですが、それよりも、不動産という経営資源を有効活用して得ることができる将来の価値、収益、キャッシュのほうがむしろ重要となります。
こうした価値算出の手法は、DCF法(事業から生み出すキャッシュフローをベースにして算定され、キャッシュフローの合計額から時間軸やリスクに対する割引額を減額して算出する方法)と呼ばれ、欧米では中心となっている考え方です。
つまり、当然のことですが、企業が持つ不動産が現在は有効に活用されておらず、活用することによって将来の価値を生むと判断された場合、M&A(買収)のターゲットになりやすくなります。

また、投資ファンドに代表されるような、投資に対するリターンを目的にしたM&Aも少なくありません。こうしたリターンのみを目的とした投資は、優良な不動産を抱えながら、有効活用できていない企業は格好のターゲットとなってしまうでしょう。
企業不動産の取得を目的としたM&Aを「不動産M&A」と呼ぶこともあるほどで、企業不動産を保有する企業は、常に自社が保有する不動産と経営戦略との整合性を考え、自社不動産の有効活用について考えておかなければなりません。

CREの有効活用によって企業価値を高める

今後さらにM&A市場が活性化すれば、買収する側とされる側、どちらにとっても、今後さらにCRE戦略の重要度は高まることが予想されます。
企業としては、M&Aや投資に対する防衛という観点からも、適切なCRE戦略を行うことで、日ごろから企業価値を上げておくことが重要です。企業価値を上げておけば、企業の統合においても有利に働きます。
株式交換を利用した企業の統合の場合、買収企業の企業価値が高いほど少ない株で統合できますし、買収される側も、自身の企業価値が高いほど、多くの株を取得することになります。
その逆で、敵対的買収の対象になりやすいのが、簿価が低く、収益性の低い不動産を所有している企業です。こうした企業を買収した投資家は、最終的には事業を廃止したり売却したりすることで不動産の売却益を得ようとします。
別の見方をすれば、CREを有効活用するだけで、その企業の価値を高めることができるということでもあります。そうやって企業価値を上げておき、その後すぐに売却するという手法をとる企業も少なくないほどです。
自らのCRE戦略によって不動産価値を高め、企業価値も上げ、M&Aを積極的に活用して企業を買収し、その企業が持つ不動産を、自身のCRE戦略によってさらに価値を高め、さらに企業価値を高めるというサイクルをつくることも可能です。
こうした事業戦略も、CRE戦略の持つ目的のひとつといえるでしょう。