TKCコラム
知っておきたい土地活用の基礎知識③
土地建物調査
国土交通省は5年に1度、国内法人の土地・建物の所有状況や利用状況などに関する実態を調査し、「法人土地・建物基本調査」(以下、土地建物調査)として公開しています。土地に関する諸施策の基礎資料として広く利用してもらう狙いで、いわゆるバブル景気での地価高騰を契機に土地情報の総合的・系統的な整備を目的として1993年から実施しており、2018年の調査は6回目になります。この調査結果から、現在の国内法人における不動産の保有・活用状況について紹介します。
土地所有は3割、宗教、製造業、建設・不動産が多い
土地建物調査によると、2018年1月1日現在、土地を所有している法人は約70万6千法人で、法人総数(約196万法人)における比率は36%、建物を所有している法人は約79万4千法人で、同じく40.5%。土地に比べて建物の所有比率が高くなっています。
保有している土地の面積は2018年1月現在、2万7千㎢で、2003年の調査開始以来、増加しています。内訳は「林地」が1万4千㎢(51.9%)と最多で、「宅地など」が8千㎢(29.3%)、「農地」が1千㎢(5.1%)となっています。
土地所有を業種別にみると、「宗教」が約11万3千法人(16%)で最も多く、次いで「製造業」と「建設業」が約10万(14%)、「不動産業、物品賃貸業」が約8万6千(12%)。この4業種で過半数を占めています。土地所有比率は「宗教」「林業」「複合サービス事業」「鉱業、採石業、砂利採取業」で5割を超えていますが、「情報通信業」や「金融業、保険業」などは低い水準になっています。
業種別の土地所有法人数と比率(2018年 単位:万、%)
国土交通省「法人土地・建物基本調査」より作成
一方、建物を所有している法人を業種別にみると、工場など生産拠点を多く抱える「製造業」が約12万4千万法人(16%)で最多。次いで「不動産業、物品賃貸業」が約11万2千法人(14%)、「建設業」が約10万6千法人(13%)、「宗教」が約10万法人(13%)となっています。オフィスビル賃貸業を展開する不動産会社や大型商業施設を運営するデベロッパーなど、不動産業界は、当然ながら建物を保有して収益を上げている現状が反映されています。物品賃貸業は、産業用機械のレンタル企業やレンタカー会社、CD・DVDのレンタルショップなどが該当しますが、多店舗展開していることがうかがえます。この上位4業種で全体の半数以上を占めており、土地所有と同様の構造になっています。
業種別の建物所有法人数と比率(2018年 単位:万、%)
国土交通省「法人土地・建物基本調査」より作成
建物利用現況の用途
法人が所有している建物(延べ床面積200㎡以上)を利用現況別にみると、「工場」が21.6%ともっとも多く、「事務所」が16.2%、「店舗」が13.1%と続いています。「医療施設・福祉施設」は5.9%(平成30年調査から新たに選択肢として設定)となっており(数字は件数ベース)、法人における不動産の活用用途を検討するうえで、参考にしたい数字です。
収益資産としての土地・建物
法人が所有する「宅地など」の土地の貸付件数をみると、他者に貸し付けている土地は約29万9千件。法人が所有する「宅地など」の土地の1割を占めています。土地の貸付比率を業種別にみると「不動産業、物品賃貸業」が最も高く、「林業」がそれに次いでいます。また、土地の貸付比率を時系列にみると、多くの業種で上昇する中で「電気・ガス・熱供給・水道業」や「情報通信業」などでは2008年と比べて低下しています。
法人業種別の土地の貸付比率(2018年 単位:%)
国土交通省「法人土地・建物基本調査」より作成
法人が所有する「工場敷地」以外の建物の貸付件数をみると、一部貸し付けも含めて貸し付けている建物の件数は約28万5千件で、工場以外の件数全体の30%に達しています。業種別にみると、当然ながら、不動産賃貸を主な事業の一つとする「不動産業、物品賃貸業」が86.2%と突出しています。その他の業種では、おおむね20~30%となっています。
この二つのデータを逆に見れば、工場敷地に関していえば、不動産業、物品賃貸業以外の業種でも、土地の貸し付けが頻繁に行われているといえます。
法人業種別の建物の貸付比率(工場敷地以外)(2018年 単位:%)
国土交通省「法人土地・建物基本調査」より作成
不動産は、いうまでもなく、自ら利用する「事業用不動産」のほかに、他者に貸し付けて収益を得る「収益不動産」の側面を持っています。2018年の調査では法人所有の土地の貸し付け面積の調査が行われていません。2008年の調査で見ると、「宅地」の貸し付け面積は7531k㎡のうち約1割が、建物の貸し付け法人数は38万2千法人のうち約3割が建物の貸し付けを行っています。これを資産額で見ると土地は293兆円、建物は76兆円で合計369兆円。その3割の112兆円が収益不動産として運用されている、との調査結果が出ています。5年後の2018年でも土地の貸付比率が多くの業種で上昇していることから、依然として土地や建物は企業が保有する資産の中でも最も価値のあるものといえるでしょう。
新耐震基準を満たす建物が増加
建築基準法による昭和56年の新耐震基準の施行前に建てられた建物(昭和55年以前に建築された建物)の件数割合は27.7%となり、平成25年調査(32.6%)、平成20年調査(37.6%)と比較して、減少しています。新耐震基準を満たす建物が初めて7割を超えたとはいえ、3割近くは、基準を満たしていない建物が存在していますので、災害対策という観点からも、早急な対応が求められています。
5年前から「低・未利用地」で今後も予定なし
駐車場や資材置場、利用できない建物及び空き地を「低・未利用地」と呼んでいますが、2008年の「土地建物調査」では、下の図のように、利用別の土地面積が集計されていました。これによると、低・未利用地の全体の面積はあまり変わっていませんが、空き地が増えているのがわかります。
低・未利用地の利用現況別土地面積(単位:㎢)
2018年の調査から新たに「5年前の状況」と「転換予定」の調査を行っています。これによれば、約43万件の低・未利用地のうち、「5年前から低・未利用地だった土地は約29万件(67%)と、多くは継続的に低・未利用の状態でした。また、「5年前から低・未利用地」で今後も「転換の予定はない」土地は約19万7千件で、低・未利用地全体に占める割合は46%となっています。
2018年の「土地建物調査」を見ると、全法人の土地・建物保有で件数、比率は調査開始の2003年以来減少やや傾向にありますが、保有する土地面積は調査開始から増加が続いています。これは、土地を保有する法人が一部の企業に偏っていることが考えられます。また、前回調査から5年後の今回時点で、低・未利用地のうち5割近い企業で転換予定がないことを併せて考えると、企業における土地の有効活用は発展途上にあるといえそうです。