特集
大阪・関西万博フジタ・大和リースJVは、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のシグネチャーパビリオンの一つ落合陽一氏が「いのちを磨く」をテーマであるパビリオン『null2(ヌルヌル)』の設計・施工業務に取り組みました。パビリオンのコンセプトは、フィジカルとデジタルが混じり合う「2つの鏡」を根幹のコンセプトとし、その建築および展示空間が創り上げられています。設計においては、金属的な質感、硬質さと柔らかさの共存といった要素を追求しています。
本パビリオンは、来場者が自身のデジタルツインと交流する展示棟、バックスペースとしての事務棟、警備棟、休憩棟の四つの機能で構成されており、それらは2m、4m、8m立方のボクセルの塊によって内包されており、生物が呼吸するように動きのある建築物です。それらの動きや鉄骨詳細おさまりなど対する検証をするため、BIMを中心に複雑な構造構成を限られる時間の中、円滑に設計・施工ができるように業務を行いました。
本建築物の必要な建築空間は展示棟で15.5m×15.5m、事務棟・警備棟・休憩棟の3棟は7.6m×7.6mの至って整形な形状です。一方で、構造物の外形は建築空間を形成する整形な箱形状の外側に、展示棟では2m~8m立方(一部はデザインアイコンとして立方体の面や角が解け落ちたような曲面形状)のボクセル、事務棟・警備棟・休憩棟では同じく2m~4m立方のボクセルがランダムに取り付いた複雑な形状となっています。
物理的な鏡が宙を浮遊するボクセルデザイン、および躯体や基礎範囲(掘削)を最小限化、の両側面からボクセルフレームは建築空間を形成する本体鉄骨からの片持ちとしました。事務棟・警備棟・休憩棟の3棟は建築空間を支える本体柱が高さ約4mの小さな構造であり、ボクセルフレームの最大片持ちも4m程度であることから、簡易なピン接合によるH形柱・梁+アングルやターンバックルによるブレースによる本体鉄骨に片持ちのボクセルフレームを接合させました。
一方で、展示棟は高さ12mで内部に大空間を有する構造のため、単純に最大8mの片持ちとなるボクセルフレームを接合する場合、外壁沿いの柱は常時荷重や風・地震荷重に耐えるため、かなりのサイズアップや複雑な加工を要する接合形式となってしまいます。そこで、小径H形鋼を主体としたトラック運搬が可能な2.4m以内の自立型ユニットトラス(H形鋼の柱梁に溝形鋼ブレースをピン接合によって工場組立したもの)を基礎梁上に立てる計画を採用しました。建築空間の外周ライン+通路と展示室の境界面の2レイヤーに鉛直サポート構面を作ることにより、8mにも及ぶ大きな片持ちのボクセルフレームはバックスパンも含めて2点支持でき、小径材によって架構を実現出来た。また、トラス自体を建物の耐震要素として機能させることで他の部材はピン接合の小梁化し、鋼材量も縮減するとともに、剛接合を最小化した構造によって製作・施工・解体の手間を最小化しました。
これらの架構計画はボクセル部も含めた大きなフットプリントに対して基礎範囲を最小化させることで土工事・基礎工事を抑え、非常にタイトであった工事工程に貢献し、浮遊したダイナミックなボクセルデザインも実現できました。
本建物は鏡面状の膜面を持つだけでなく、生物が呼吸するように動きのある建築物である。それらの動きに対する検証をするため、2次元パースを見るだけでは限界があり、BlenderやUnreal EngineなどのCGアニメーションツールやゲームエンジンを採用し、形状の定義と並行して3種類のコンテンツ(静止画・動画・VRコンテンツ)を制作し、検討を行いました。
図1:ボクセルレイアウトイメージ ©NOIZ ©ARUP
図2:全体イメージパース
©2024 Yoichi Ochiai / 設計:NOIZ / Sustainable Pavilion 2025 Inc. All Rights Reserved.
図3:竣工写真 ©Yoichi Ochiai
近年、質のいい労働環境を求められる中、今後はBIMを中心に生産性の良いシステムを活用し、効率のいい業務を行っていきます。そのためには、誰もが使いやすいシステムに改善し、各作業工程の効率化に注力いたします。
また、作業環境の中で自由に中を歩いたり、動きを観察したり出来るツールであることから、建築エンジニアリング以外の用途で使われるツールでも、目的に合わせて採用することで、プロジェクト関係者間のスタディや合意形成に非常に有効です。さらに、計画中の段階から動画やVRコンテンツで計画の説明を行うことで、関係者が現在の姿を確認するために非常に有効です。
これらを活かし、工程の効率化と品質向上に努めていきます。
「null2(ヌルヌル)」公式HPはこちら
大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「null2」│ Expo 2025 Osaka, Kansai Signature Pavilion null2