土地活用ラボ for Biz

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コラム No.27-45

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第1回 eコマース企業が抱える構造的問題の解決に向けて株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × アスクル株式会社 CEO補佐室 兼 ECR本部 サービス開発 執行役員 ロジスティクスフェロー池田和幸

公開日:2020/01/28

ティーチレス技術との出会い

秋葉:アスクルさんは物流センターでのロボットの導入に早くから取り組まれています。

池田:ロボットの導入を検討し始めたのは、2014年くらい。その頃、eコマースが伸びているのに労働力不足により物流センターでの働き手の確保に苦労しはじめていました。私たちは物流センターを自社で運営しているので、その感覚を強く持っていました。最近は、ECの伸びと反比例して労働人口が減っているというグラフをよく見ますが、最初に並べて作ったのはおそらく私です。当時は、その実態感を感じている人は少なかったのですが、われわれは物流センターに人を集めるのに苦労しはじめていた時期でした。今ももちろん苦労していますが、当時は人の確保が大変になり始めた頃でしたから、これから先は大変なことになると考えていました。一方、ECで買うお客様はどんどん増えていて、リアルの小売店舗は、お客様が減っていました。スマートフォンやタブレットなど、インターネットはどんどん便利になっていくので、これからのお買い物はどんどんECに移っていくだろうと考えていました。

秋葉:アスクルさんが元々やっていたアスクル事業とロハコ事業、二つの事業を見比べても、同じような感じだったのですか。

池田:特にロハコで顕著でした。BtoBでは日曜の出荷はしていないのですが、個人向けだと平日に加えて週末や夜間の注文も多く、皆さんがオフタイムになるタイミングでのご注文も多くなります。私どものセンターはかなり機械化を進めていたのですが、それは人がいる前提の省力化のための機械化でしたから、プロセスとして人が要らないという省人化のプロセスにはなっていませんでした。そこで2014年の春頃、省人化のためにロボットが使えないかと考え始めたのが最初でした。
いろいろな工場を見せていただいたり、話を伺ったりしました。工場では、ロボットが普通に動いているのに、なぜ物流センターでは活用されないのだろうと疑問に思っていたのですが、ティーチングという作業(=ロボットの動作情報を登録する作業)が問題だということがわかりました。
工場では、ロボットは決まった動きをすればいいので、その動きをティーチングすればいいのですが、物流現場では商品が多品種に渡り、お客様がご注文する内容も多様なので、それをすべて教え込む、ティーチングするのは不可能です。ですから、ティーチングではなく、ティーチレスの仕組みにしたいと、日本を含め海外のメーカーにも聞いて回りました。ところが、どの企業からも、それはできませんと言われてしまったのです。当時、ロボットメーカーやロボットコミュニティがやっていたのは、ティーチングを簡単にするという取り組みでした。しかし、そこには、物流現場の問題を解決する答えがありません。そこで、論文などアカデミックな方面を調べていて画期的な技術を持つMUJINさんに行き当たりました。
最初にMUJINさんを訪ねたとき、会社はまだ10人くらいの規模で、オフィスにはロボットのほうが多かったくらいだったのを覚えています。さっそく技術者を連れてわれわれのセンターを見に来ていただきました。アスクルのECは、上位の数千SKUでの売上比率が高いため、数百万種類の商品をすべてロボットピックできなくても、その中の数千種類ができれば大きな省人化になります。そこがすごく重要です。当時の技術レベルでは、何でもピッキングするというのは難しい状況でしたが、整った条件下で数千種類という単位であれば実現できるのではないかと考えていました。
MUJINさんに、物流業界は、働き手は減るにもかかわらず、間違いなく伸びる市場だと力説してお願いした結果、「やってみよう」と快諾いただけました。思い切った意思決定をしてくれたことに今でも本当に感謝しています。

秋葉:2014年頃というと、私は大和ハウスグループとして、お客様に建物だけではなく中身もきちんと提供できるようにと奮闘していた頃です。マルチ型物流センターはどこも同じようなものを作っていました。ゼネコンでみるとそんなに多くはないのですが、物流不動産デベロッパーが多く、今では50社ほどあります。似たようなマルチ型の物流センターばかりが建っており、その時の差異化をどうするのかが重要でした。そのような課題に取り組んだり、そのためにどのようなベンチャーへの出資をするかなど、検討し始めていた頃です。
私が見ているソフトウェアやコンサルティングサービスといった領域からすると、最近では、WMSにおいても、ほとんどがロボティクスやAIの活用を前提としたWMSが求められてきています。今までの人ありきのWMSとは明らかに違ってきています。
ただし、日本の企業の場合、「そのWMSはどこが導入しているの?」「そこでロボットが動いているの?」「人工知能を使っているの?」と必ず言われますから、業界全体をリードしようと思うと、自らがある程度オペレーションをして、どう使われているかを見せないと差異化はできないのです。その一連の流れでベンチャー企業に出資をしたり、アッカインターナショナルにグループに入ってもらったりもしてきました。

ロジスティクスが抱える構造的問題

秋葉:アマゾンの影響もあり、今でこそ物流が大事だと取り沙汰されるようになってきました。アスクルさんでは、ロジスティクスの重要さは当初から認識されていましたよね。

池田:アスクルにはアスクルロジストという物流専門の子会社があり、自前で物流センターを運営しており、物流は非常に重要視しています。

秋葉:2016年だったと思いますが、MUJINのロボットが導入されたことが発表された直後、アスクルロジストの江田社長と食事をする機会がありました。見せてほしいとお願いすると、「見せるのはやぶさかではありませんが、無理やり動かしている姿を見られたくないのですが…」とおっしゃっていました(笑)。

池田:その頃は本当にそんな感じで、やっと動いたという感じでしたね。

秋葉:それはみんなわかっていました。もともとティーチングをしないと動かせないものを、ティーチレスでやるしかないところに入れているわけです。実績がないものを導入しているのですから、絶対に苦労していることはわかっていましたし、当たり前のことです。ですから、アスクルさんがそれをやってのけたのは実にすごいことです。
導入するにあたって、経営層の方々への説明はスムーズにいったのですか。

池田:会社には、“今われわれがロボット化に取り組むのは、eコマースの企業が抱える構造的な問題があるからだ”と説明しました。物量は増えるのに作業者は減っていくという見通しがあり、おそらく不可逆です。そうであれば少ない人で回る仕組みにするしかありません。そのためにはロボットを活用するのが一番です。ロボットにティーチングという問題があるのであれば、それを改善するしか道はないのです。先ほど秋葉社長も言われたように、動いているものを持ってこいというスタンスでは、今の技術レベルでは導入できません。実際に動いてみて、わりと早い段階でそれがわかりました。ロボットを利活用するというノウハウこそが必要なのです。
アスクルのロジスティクスのチームの中にロボティクスの専門チームがあります。今のロボットの能力を最大限に活用するためにはどうしたらいいか。それには、ロボットが動く手前の工程でどうするかがカギを握ります。ロボットを含めたラインもそうですし、そこにどのように商品や受注情報を流すかも重要です。要は、周辺のものをすべてにおいてロボットを活用しやすいように組み立て直さなければなければいけません。

秋葉:なるほど。今の人ありきの業務プロセスの中でロボットがその代わりをする、という発想ではだめだということですね。

池田:今の技術レベルでは難しいですね。ロボット掃除機を買ってきて、ボタンを押して動く、という感じではありませんので、使えるようにプロセス設計をしなければなりません。

秋葉:ロボットの設計と業務プロセスの設計の両方、さらにはレイアウトもすべてということですよね。ロボットを導入しようとするとき、人間がやっていたことをロボットに置き換えようという発想にどうしてもなりがちですが、ロボットを使うことを前提にしてどうするかなのですね。

池田:当時、そういった発想を持つプレイヤーは少なかったと思います。今でもそうです。

秋葉:池田さんと初めてお会いしたのは15年以上前ですが、その後10年以上間が開いて、1年半くらい前に経産省で再会しました。会合に遅刻していくと、横に池田さんがいたんです(笑)。その会合での議題もまさにそうした課題感があるものでした。話の内容もそうですし、呼ばれているメンバーもそうでした。既存のプレイヤー、コンサルタントも含めたアカデミックな人たち、MUJINの滝野さんやABEJAの岡田さんなど新しいことをやろうとしている人たち、大きくこの三つのカテゴリーがありました。アスクルさんはずっと事業をやっている会社なので、当然、既存のプレイヤー側の意見を言うだろうと捉えられがちですが、今日のお話のようにまったく違いました。新しいことをやっていくことに対してためらいがない会社なのだな、という印象を受けたのを覚えています。だからこそ新しい事業モデルを作っていける会社なのだと、改めて思いました。

形式知化がプロセス変革の第一歩

秋葉:ロボット導入を決めて業務プロセスも変えるとなったとき、そのプロセス変革の中ではどのようなことがハードルとして大きかったですか。

池田:プロセス変革の際に、1年先のロボットではどのような商品が取り扱いできて、どのような商品が取り扱いできないのかを形式知化することが大切で、そこにかなりの時間を費やしました。それは今でも続いています。今のロボットは何でもできるわけではなく、さらに、こういうものはピッキングできる、あるいはできないということがマニュアル化されているわけでもありません。まずはそれを形式知化する作業が必要でした。

秋葉:ロボットメーカーからしても、物流業務の知識がないので、何があるのか想像つきませんよね。

池田:例えば、われわれが販売する商品に箱型のティッシュがあります。箱には開けやすいようにミシン目がついています。ロボットはティッシュの箱をバキュームで吸い上げるのですが、ミシン目のところを吸引すると、空気が抜けてしまって持ち上がりません。また、ノートをお店に買いに行くと、1冊でも売っていますし、5冊にシュリンクしたものもあります。ノートの素材などは仕様が決まっているのですが、シュリンク素材には基準がないことが多く、薄い素材を使っている場合、吸い上げたときにたわんでしまって持ち上がらないということが起こります。つまり、そういうことが形式知化されていないのです。そうなるとロボット技術チームでは対応が出来ません。そもそも何ができるかわからないので、開発のしようがないのです。そこで、われわれの最初の役割として、流通している商品の中でどういった商品はロボットが取り扱うのに適しているのかを見極める、形式知化するというプロセスがありました。アスクルの物流センターでもやりましたし、MUJINさんのオフィスでも泊まり込みでやらせていただきました。
形式知化から始めて、次は、ロボットが作業する手前までも、どのように業務や情報を処理していくのがいいのか、ロボットが仕事をする情報をどのタイミングでどういうかたちで渡せばいいのか、といったことを考えていきました。5年近くかけて、やっと今、手放しで動けるところまできました。手放し運転ができるようになったということは、何ができるかということが形式知化されたということです。これはすごいことで、ここから大きく拡げていくことができます。できることがわかっているということは、できないこともわかっているということです。次は、そのできないことを潰していくということをやっていけば、どんどん進んでいくことができるのです。

秋葉:そうなってくると、次は、さらに外販を拡げていくという話になりますか。

池田:アスクルにご注文いただくお客様が非常に増えていますので、まずは、そこできちんとサービスレベルを守り、きちんとお届けするということに注力すべきだと考えています。

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス代表取締役社長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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