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コラム No.27-8

サプライチェーン

秋葉淳一の「CREはサプライチェーンだ!」 Vol.1 究極の顧客指向で「在庫」と「物流資産」を強みとする「トラスコ中山」

公開日:2016/11/18

1959年に中山工機商会として創業したトラスコ中山は、1964年にはプライベートブランド商品の発売や総合カタログ(オレンジブック)を創刊するなど、この分野での後発企業として「人が思いつかないことを考える」をモットーに成長を続けた。
1997年には売上高1,000億円を突破し、その後の国内製造業の停滞をものともせずに、2015年度には売上高1,665億円を記録している。
工場や建設現場などの現場で工員や職人に必要とされる“プロツール”の専門商社として成長を続けるトラスコ中山株式会社の、企業戦略とそれを支えるオペレーションおよびITについて紹介する。

究極の顧客指向の取組みを続けるトラスコ中山

一般的に、株主構成が“安定株主”から短期的なリターンを求める“投資家”に移るに従って、「投下した資本に対し、どれだけの利潤を上げられるのか」という点が重視されるようになり、その結果、自己資本利益率(ROE)が企業の経営指標としてクローズアップされるようになる。
ROEを代表的な経営指標とする場合、物流設備や在庫などの資産は無駄あるいはリスクと見なされる。しかし、物流設備や在庫は本来意味のあるものであり、上手く管理できれば武器となる。
トラスコ中山の社長は「ROEは目標としない」と宣言し、全国16箇所の物流センターとITへの設備投資、26万アイテムにも上る在庫への投資を続けた。
物流設備や在庫は、トラスコ中山の顧客である“プロ”達に、必要なものを必要なときに届けるためには不可欠なものだ。つまり、他社よりも物流設備や在庫を上手く管理することで商機を見いだすことができる。
トラスコ中山は、顧客にとって「多くの商品がカタログに載っていること」「すぐに手に入ること」を目標とし、その指標として「在庫アイテム数」と「在庫ヒット率」を用いている。「在庫アイテム数」はどれだけのアイテムを自社の物流設備に在庫しているかを表したもので、14.1万アイテム(2011年)から5年間で26.5万アイテム(2015年度)に増加した。また、「在庫ヒット率」は受注のタイミングで商品が在庫から引き当てられる確率を表すが、同様に80.7%から88.2%に増加している。
トラスコ中山は顧客の求めるものを実直にそろえるという究極の顧客指向の取組みを続け、その結果2015年度には1,665億円という売上高と、7.8%という高い営業利益率を達成している。目標としないとしたROEについても8.7%という立派な値となっている。

流通業における“規模の不経済”

一般に、在庫アイテム数を増やすと、優先順位の低い低回転商品を持たざるを得ない。また、在庫ヒット率を上げるためには安全在庫を増やさなければならない。その結果、流通業において売上規模を求めるために在庫アイテム数(取扱いアイテム数)を増やすと販売管理費が高まり営業利益が下がる、という“規模の不経済”が起こることがある。
よって、顧客の求めるものを実直にそろえるという究極の顧客指向は、同様の非効率性が生じかねない戦略だ。しかし、トラスコ中山は在庫アイテム数を増やし在庫ヒットを上げるという目標を設定し継続的に改善を続けた上で、在庫日数や販売管理比率はむしろ改善傾向にあり、“規模の不経済”は生じていない。
さらに、社長は「在庫回転率は求めない」というメッセージを社内外に発信している。トラスコ中山は、「ロングテールの在庫増と在庫日数改善の両立」と「在庫管理を支えるプロセスとIT、人材」によって、26.5万アイテムという膨大な在庫を管理し改善を続けているのだ。

ロングテールの在庫増と在庫日数改善の両立

在庫は、供給のリードタイムやロットサイズが需要の許容リードタイムやロットサイズと異なる場合に、これらを調整する役割があり、ここに在庫の必要性がある。
また、実際の需要に先んじて実際の需要以上に在庫を持つためには、将来の需要を予測する必要がある。実際の需要が予測を上回るときの保険として安全在庫が必要だが、実際の需要が予測を下回ると余剰在庫が発生するからだ。
そのため、荷動きの少ないアイテムを探し、調達のロットサイズを小さくし発生する在庫を減らしたり、扱い自体を取りやめたりして、目標する在庫回転率に近づけるような取組みがなされる。しかし、調達のロットサイズを小さくすれば、調達の単価が上がり、扱い自体を取りやめれば、「多くの商品がカタログに載っていること」「すぐに手に入ること」という顧客の要望に応えられなくなる。

トラスコ中山の在庫管理のアプローチはこれと全く逆である。まず「多くの商品がカタログに載っていること」「すぐに手に入ること」という顧客の要望に応えることを考える。そのために増加する在庫は1日あたり166アイテム(注:2015年度の在庫アイテムの増分33,200を営業日数200日として計算)にも上るが、この166アイテムをどのように倉庫に収めるかに知恵を絞ると、必要なもの、本当に生きたものだけを持つようになり、不要なものが排除されるのだという。
具体的には、ものの動きを注意深く観察することで、安全在庫や余剰在庫が削減できる。大きなロットで仕入れても、各センターに分散配置すればセンター毎の在庫は圧縮できる。このような取組みにより、「在庫アイテム数」と「在庫ヒット率」を改善し、その結果として、トレードオフ関係にあるロングテールの在庫増と在庫回転率の向上のどちらをも実現しているのだ。

在庫管理を支えるプロセスとIT、人材育成

しかし、人間ひとりが毎日管理できる在庫はせいぜい数千アイテムにとどまる。16箇所の物流センターと35箇所の在庫型営業所で26万アイテム、合計300万SKU(在庫管理単位)の在庫管理は人間ではとても不可能だ。さらに需要を予測し、最適な在庫水準を算出するとなると、計算量が膨大なためコンピュータでも容易ではない。つまり、人間との協調作業を許容する柔軟なシステムに加えて、システムを十分に理解した人間も必要だ。
トラスコ中山の社内スタッフはシステムについて深く理解しているため、“どのようにコンピュータに実装するか”という技術面について外部の意見は求めても、“何をどのように扱うか”という業務オペレーションは全て自社のノウハウで定義を行っている。
サプライチェーンに限らず、ITシステムが実際のオペレーションと乖離してしまうのは、業務知識とIT双方の経験や知識をもった人材の不足が一因だ。
また、トラスコ中山では全ての新入社員に物流現場を1年間経験させて、商品と顧客を理解させている。物、金、情報の動きを理解した人材の育成、機能間にまたがる意思決定のできる人材の育成を行っているのだ。

トラスコ中山の成長戦略と課題

トラスコ中山の競争力は、高い在庫回転率(在庫日数70日)、在庫アイテム数(26万アイテム)と在庫ヒット率(88%)、営業利益率(7.8%)とROE(8.7%)、という構造に整理できる。
ただし、トラスコ中山と同業の専門商社の他にも、同様の商材を扱う大手のECサイトが存在する。一見競合にも見えるが、現時点ではこうしたEC企業のバックエンドはトラスコ中山が運営しており、競合というよりも顧客として位置づけられている。しかし今後、これらのECサイトの物量が増えれば自社でメーカーと直接取引を始める事や、プライベートブランドを作る可能性もあるだろう。
しかし、トラスコ中山はこれらの可能性も織り込み済みである。つまり、現在の顧客がメーカーと直接取引を始めることは、売上面では痛手であるが、そのように流通ルートの増えた商品は既に価格競争にさらされ利益率が低下する。そこでの不毛な戦いを避けて、ロングテールというフロンティアを広げ利益を確保しようというのがトラスコ中山の戦略である。実際に、過去5カ年の売上増に占める新製品の売上比率は71%にも及ぶ。そして、その戦略を具体化したものが、2021年度に50万アイテムという在庫目標なのである。

この戦略のもとでのオペレーション上の課題を二つ上げてみよう。まず50万アイテムを揃えるためには、現有商品の延長線上にはないものを扱うことになる。何を扱うか、どのように扱うかのノウハウもなく、また荷動き自体も少ないためリスクの高い商品と言えるだろう。
また、これまで16箇所の物流センターと35箇所の在庫型営業所に26万アイテムすべてを在庫してきたが、今後50万アイテムを在庫できるセンターは限られる。在庫管理が“ある商品を何個おくか”という一変数の最適化問題から、“どこに何を何個おくか”という組合せの最適化問題に変わるため、オペレーションの難易度がさらに高まることとなる。
しかし、この難題をもトラスコ中山は解決するはずである。
究極の顧客志向に基づくこれら問題解決能力は、一朝一夕には真似できないトラスコ中山の競争力の源泉だからである。

トークセッション ゲスト:株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 小野塚 征志

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス代表取締役社長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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http://www.daiwa-logitech.com/column/index.html

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