大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

メニュー
コラム No.27-95

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第3回 共感されなければ社会の受容性も高まらない。共感される組織をつくる株式会社T2 代表取締役 CEO 森本成城 × 北海道三菱自動車販売株式会社 代表取締役社長 下村正樹 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2024/03/29

自動無人運転へのマイルストーン

秋葉:自動運転というとどうしても技術的な問題点ばかりが先行してしまって、危ないのではないかといったイメージをされがちです。一般消費者に対して付加価値をどのように提案していくかお考えですか。

森本:T2が提供したい付加価値はいくつかあって、その一つとして重要視しているのが安全です。高速道路上での大型トラックの死亡事故や重傷事故は年間100件以上起きていて、その6~7割が追突で、追突の原因の多くが居眠りやよそ見といった漫然運転です。あとはやはり飲酒運転がなくなっていません。事故件数を減らせるような技術レベルまで持っていきたいですね。事故が起きると、加害者と被害者の両方が悲しみます。われわれのサービスの中では、事故をできるだけ少なくできるような車両開発をしていきたいと思っています。

秋葉:自動運転が危険なのではなく、逆に自動運転によって安全性を高め、事故で悲しむ方を減らそうということですね。自動運転になった時、時速や車間距離はどのようにお考えですか。

森本:時速については、法定速度の80キロ(※)で走らせようと思っています。車間距離は、前の車との距離が100~80メートルくらいだと思います。

  • ※2024年11月鼎談時点

秋葉:賛否両論ある中、アメリカではすでに自動運転のタクシーが走っています。日本とアメリカとの違いは何でしょうか。

下村:アメリカとの違いは、実際に公道での実験環境ではないでしょうか。これからT2もやっていかなければなりませんが、距離も学習する期間にも圧倒的な差があります。アメリカでは何百万キロと試験走行を重ねて、それぞれのシチュエーションに応じた状況をAIが学習しています。この積み重ねが、日本が追い付けないほどの競争優位になってしまいます。
もう一つは、試験走行中に起きたことに対するリアクションが圧倒的に違います。現在(2023年11月末)は、クルーズ社はカリフォルニア州での自動運転タクシーの運行許可を取り消され、CEOが辞任する事態になっていますが、中国やアメリカでは、実験なのだから多少の失敗はある、前に行こうとしているのだから失敗するよねと、当然人命にかかわることなので安全を最優先すべきことですが、健全な社会発展のためであれば、その試みの意味を理解して失敗を許容する文化があります。一方日本では、どうしても慎重にならざるを得ない失敗を許容しない傾向があります。その差はすごく大きいですね。

秋葉:人が運転していたら100%なのか、という話ですよね。

下村:そこを変えていきたいですね。先ほど「リーダー」という言葉を使いましたが、リーダーにはそれを発言していく覚悟が必要だと思います。やはり影響力が大きいのは国のリーダーで、一ベンチャー企業がどんなに発言しても実現にたどりつくのはとても難しいことです。
ようやく盛り上がってきたライドシェアについての議論が良い例です。以前から議論はあったのですが、タクシー業界の反発や世論の反対もあり、ほとんど進展してきませんでした。国の方でも徐々に規制緩和をしていますが、地方の人口減少やタクシー運転手の高齢化を考えれば抜本的な改革を進めることが必要にもかかわらず、大胆な改革につながらないことは日本の大きな課題だと言えるでしょう。

秋葉:下村さんのお立場だと、社会学的にも言えるし、民間企業としても自由に発信できますね。

下村:少しでもT2をサポートしたいですし、少しでも良い社会になってほしいと思って発言しています。引き続き国の会議にも出させていただいているので、皆が忖度してなるべく発言しないより、お役目をいただいた以上より良い社会実現に貢献したいと思っています。

秋葉:現在レベル2ということですが、この先のレベル3「条件付自動運転」、レベル4「特定条件下における完全自動運転」へのマイルストーンは描かれていますか。

森本:2026年度にレベル4を、ドライバーは乗らないが保安員は乗せるところから始めて、完全なレベル4になるのは2027年くらいと計画しています。保安員の他にも、遠隔監視がワークするのか、実際に事故が起こった時に車をどのように退避するのかなど、本当にできるのか見ていかないといけません。途中で災害が起こった時、どのように高速道路の外に退避していくのか。例えば、ドライバーを退避地点まで連れていって有人に乗せ替えるのであれば、NEXCOさんやJAFさんに支援していただく必要があります。その辺もしっかり設計できて、かつワークするのかどうかをその1年で見ていかないといけません。完全無人でやるのはやはり相当な責任が伴います。

秋葉:物流施設の中にロボットやマテハンを入れて省人化率が上がってきましたが、完全自動化と人が1人でも2人でもいるのはまったく違う話になります。今一生懸命それを言っているのですがなかなか理解してもらえません。人がいないということは、何かあった時の話が抜けてしまいます。作業者はいないがエンジニアはたくさんいるというように、作業する人の職種も変わることもあります。

森本:2024年と2027年に同じ機能の車両が走っていたとしても、人が1人乗っているかいないかで大違いです。そういうところで社会の受容性を一緒に高めていくことも大事な作業だと思っています。

秋葉:今保安員のお話が出ましたが、先日、限定区域から先はドライバーが運転するということで、その際、一回停止をしてドライバーに切り替えるとお聞きしましたが、私は動いているまま切り替えればいいのにと思ってしまいました。

森本:荷主様がどうかになりますが、取りに来てくれる方であればそこに置いていきます。あとは、保安員のトラックの運転免許が必要かどうかも、法律上詰めていかないといけません。運転免許を持っていない方が保安員になる場合もあれば、トラックドライバー経験者が乗る場合もあるでしょうし、いろいろなケースが今後考えられると思うので、そこは詰めていきたいと思っています。

秋葉:何だかワクワクしますね。2027年はもうすぐです。

森本:就任してから2カ月はあっという間でした。

共感される組織をつくる

秋葉:T2は人の採用についてはどのように考えていますか。

森本:大きく分けると、技術側と、遠隔監視や拠点の整備、官公庁との折衝等を行う渉外・オペレーション構築の2種類で採用しています。ありがたいことに数十名単位での申し込みが常にあって、直近の1、2カ月では月3名を採用しました。今はまだ人数が少なく、創業メンバーに近いような、将来コアとなるようなメンバーを雇っています。尚、エンジニアの採用を加速させるべく、採用プロセスを変えて、最短2時間でオファーできるようにしました。
本当に良い人間が集まってきています。採用で一番私が強調しているのは、この事業は共感されないと社会の受容性も高まらないし、パートナー企業さんもついてきてくれない、支援してくれないということです。共感していただけるような組織をつくることを重要視しています。共感される組織をつくるためには、社員それぞれが共感される人間にならないといけません。人間性が高くなく、コミュニケーション能力やチームでやる能力が高くなかったら、1+1は2にしかならなくて、3や4にはならないので、EQ(emotional intelligence quotient:心の知能指数。以下、EQ)の高い方を積極的に採用しています。国籍も、フランス、中国、ハンガリーとさまざまです。

秋葉:言葉が適切ではないかもしれませんが、わかりやすい目標は共感してもらいやすいものです。しかし、そこに行き着くまでのしんどいところを一緒にやれるかという意味だと思います。そのためには、おっしゃるようにEQが大事ですね。

森本:秋葉さんがおっしゃるように、分かりやすいゴールを設定しているというのはあります。例えばAIのエンジニアを多く抱えている会社で、研究開発に近いような感じだったり、結局はPoC(Proof of Concept:概念実証)だけで終わったりすることもあります。エンジニア全員ではないと思いますが、自分で作ったものが製品やサービスとして世の中に出てほしいと考えるエンジニアが結構いるということが分かりました。家族や子どもに見せたいのでしょうね。僕は商社で、自分たちでものを作った経験がなかったので、そういったことに憧れがあります。それに憧れるエンジニアが中心に入ってきてくれています。

秋葉:そう考えてもらえたら最高じゃないですか。エンジニアとして世の中にないものをつくり出して、なおかつ事業ですから。すべての学生が変わるとも思いませんが、魅力と思ってくれる人が増える気がします。

一般道の自動運転についてはどう思いますか。

下村:成り立つとしたら、過疎地と自動運転バス、この2つしかないような気がします。一般道と言えるか分かりませんが、福井県永平寺の自動運転「ZEN drive」(※1)のように限られた短い距離で走らせる。現在の社会環境と技術ではこの2つの条件下でしか一般道での自動運転は成り立たないと思います。

※1 永平寺町の荒谷停留所から志比停留所間における車内無人レベル4自動運転車両による運行

森本:永平寺の話が出ましたが、成り立つのはやはり限定された地域だと思います。人の動きは無限なので、どれだけ学習したところで限界があります。道路上に意図的に飛び込むこともあるかもしれません。事故が起こった時、社会は受容してくれるのか。事故を起こした後の対応をどうしていくのか。いろいろなことがあって複雑すぎて見えないですね。

秋葉:高速道路網をどうやって自動運転で走ってもらうかという話と、トラックドライバーが市街地をより安全に運転するためにはどうするかという話の組み合わせなのだと思います。そこに自動運転の技術がフィードバックされてきて、運転しているけれども、より安全になるという話になっていく。

森本:衝突防止やレーンキーピングの次に、さらに機能がついてくる感じになるでしょうね。

秋葉:下村さんが言われた僻地に関しては、人間が1人ついていくかという議論があります。走らせるなら低速でいいと思います。 コンパクトシティとして町をつくり直すことができるのであれば、専用線のような話になるでしょうね。大和ハウス工業は団地再生を手掛けています。団地の外側に自分たちの車があって、団地の中は自動運転でものが動いている。免許を返納した人たちはその中で買い物ができる。それこそウーブン・シティ(※2)のような話です。そんなふうに街の中に限定区域をつくるのはありかもしれませんが、今のままの状態では厳しいですね。

※2 ウーブン・シティ(Woven City):静岡県裾野市の工場跡地に構想されたコネクテッドシティ

下村:少し前に、富山市のコンパクトシティ政策について論文を出しました。富山市は森前市長がリーダーシップを発揮し20年間かけてコンパクトシティをつくってきました。極論をすると、郊外に住む人たちに行政サービスが平等に行き渡らないことを宣言して、人流れを市中心部に集めています。富山県は移動を乗用車に強く依存している県ですが、富山市ではLRTを整備して車に過度に依存しない交通網整備も同時に進めています。コンパクトシティの実現には首長の強力なリーダーシップが必要で、既存のシステムを変えられない人たちからの反対もあるので、政策を実現していくためにはかなりの覚悟と年月が必要なのです。トヨタ自動車が作る未来の街としてウーブン・シティがありますが、ウーブン・シティは私有地で、私有地の中に完全に歩車分離ができる3車線を作ることで、街に自動運転車両が走る絵ができているのです。今あるものを未来予想図に従って変えていくためには強固なリーダーシップが必要です。創造的破壊が起こることを期待しています。

秋葉:「30年後を想像してください」という話をすると、皆、30年後は自分たちには関係ないという顔をします。子ども世代がまさに自分たちぐらいの歳になった時、どのような世の中になっているでしょうか。これは2024年問題よりもさらに先の話です。今のままだったらもっとひどくなると分かっているのに、誰かが何とかしてくれると思うのはやめなければなりません。誰かが何とかしてくれるのではなく、自分たちが何とかしていく。その先頭を走ってくれるのがT2だと思っています。 そして、大和ハウスグループもT2と一緒に今後の日本と街を持続可能にする物流ネットワークの構築を検討していきたいと思います。

下村:「道路」とひと言で言っても簡単ではありません。高速道路は国のもので、NEXCOは所有者でなく道路管理の役割を担っています。それぞれの役割が全部法律で決まっているのです。

秋葉:そういうことも考えないと、誰と折衝するかという話にもなっていきません。今は自動無人運転からドライバーに切り替えるために一回停止をしなければいけないということでした。そうなると、その停止場所まで考える必要があります。だからこそ物流センターの敷地内まで入れたいですね。その中をどうするかはまた別の話です。公道を走るときは人が運転しないといけないということであれば、そのためだけに人を待機させることになります。この人のデリバリーどうするか。仮に高速道路のバス停を活用するにしても、バス停までの人のデリバリーをどうするかという話も出てきます。

森本:色々と考えなければならないことが沢山あります。

秋葉:ただ、新しいことだからこそ、こういった話が次々と出てくるわけです。それは大和ハウスグループとしてもありがたいことです。T2がそのような動きをしてくれたからこそ、考えることが増えました。自動運転車両が入ることを前提にした土地の使い方をすると、今までとは物件に対する収支の構成が大きく変わります。売り上げが上がること以外の価値をどうやって紐づけていくかがとても重要です。

下村:不動産業として考えたら当然なのですが、自動運転を使いたかったらそこの倉庫を使わざるを得ない状況です。必然的に物件の付加価値が上がって、イコール賃料が上がるという前提で思い切らないといけないですね。

秋葉:そういう意味では、物流不動産としての位置づけも変わってきそうです。本当にこれからが楽しみです。お二人のご活躍を期待しております。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

コラム一覧はこちら

メルマガ
会員登録

注目
ランキング

注目ランキング