秋葉淳一のトークセッション 第2回 さまざまな社会課題に挑戦する大和ハウス工業建築事業本部の取り組み大和ハウス工業 執行役員 建築事業本部長 更科雅俊 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2024/08/30
物流施設に留まらずさまざまな社会課題に挑戦
秋葉:物流センターと製造業の工場の他に力を入れているところはありますか。
更科:データセンターは、物流施設に代わるほどのスケール感ではなく、エリアも限定されますが、期待するジャンルです。国はさまざまな施策によって推進しており、これから地方に広がる可能性もあると思います。ただし、レイテンシー(デバイスに転送要求を出してからデータが送られてくるまでに生じる通信の遅延時間)の課題もあって、すぐに地方に広がっていくわけではありませんし、地盤、電気、ファイバー通信が揃っていないとできないという難しい問題を抱えています。
その中で、大和ハウス工業は千葉県印西市にデータセンター「DPDC印西パーク」を建設中です。
また都内の土地は、もともと物流用地として購入した土地でしたが、電力供給と地盤がよいのでぜひここにデータセンターとして出店したいという要請を受け、土地の半分をデータセンターにする計画が決まりました。残った土地は当初の計画どおり、物流センターを建設しています。柱である物流という強みがあって押さえた土地がさらに変化したという一つの開発事例になりました。一方でこれからは生成AIの普及が予想されていて、生成AIは電力消費量が非常に大きいため、電気を引くことを考えると大きく作れないかもしれません。どう変化していくか注視していく必要があります。
秋葉:物流は物理的な問題があるため、建物は小さくなりませんが、データセンターは能力が上がれば電力量もスペースも小さく済むこともあるため、けっこう難しいですね。私たちの学生時代のスーパーコンピューターより今のスマートフォンのほうが優秀だという意見もありますから。必要性は増していくのだけど、物理的なスペースとしてどうなるかですよね。ただ、データセンターは半導体工場とも密接に関係してくると思いますし、頑張っていただきたいところです。
更科:データセンターは今後間違いなく必要性が増し、増えていくので、一つの柱になっていくと考えています。
また、我が国の食料の自給率問題を考えれば、魚の陸上養殖や食品流通の肝である市場、安全な野菜をつくる植物工場も世の中が求めているものであり、社会課題解決の一助につながるものです。これから私たちの事業メニューとして広がってほしいと思っています。こうした事業はリブネスとの親和性もあるので古い建物をうまく活用できそうです。
秋葉:日本は食糧自給率が低く、大きな問題のひとつです。その課題解決のひとつとして取り組むことはとても大切なことです。葉物野菜は需給バランスや電気代によって左右されますが、高付加価値の野菜や果物、そして魚はビジネスとしても十分採算がとれると思います。
更科:大和ハウス工業のパートナーであるプロキシマーが2024年秋からサーモンの出荷を開始する予定なので期待しています。
秋葉:今は養殖魚を食べ慣れた子どもたちが増えてきています。養殖のほうが安定していて、養殖魚のほうが美味しいという子もいるそうです。すでに肉は明らかに工業製品に近いですし、だんだんとそうなっていくのでしょうね。
更科:有り得る話ですね。温暖化によってサンマやスルメイカが減っているといった記事見るたび、われわれにも何かできないのかなと思います。
秋葉:大和ハウスグループとして直接的に食品を製造する側にはなれないかもしれませんが、サポートできることはたくさんあります。
更科:食品との関わりは深く、物流センターやコンビニエンスストア、そこに納める問屋さんの倉庫も多数建ててきました。食品に関わる施設開発が一つの柱であることは間違いありません。
地方にも目を向け、最適な提案を行う
秋葉:物流においては、ラストワンマイルという課題がずっとあります。建築事業本部が得意とするある程度大規模なセンターと消費者を繋ぐ間に、デポのような小型の施設も今後必要になってくるのではないかと思いますが、いかがですか。
更科:さすがですね。先日全国の所長からの要望を受けて、一地方の支店でやるには、正直DPLは大きすぎるし、スペックも高すぎる。もう少し等身大の開発をしたいという話があったところです。それで、支店が全国にある強みを生かして、もう少し小ぶりのDPL開発を全国でやってみよう、さらにそれをまとめてファンドをつくろうということになりました。
秋葉:土地が手に入るかどうかといった問題はあると思いますが、大手小売企業や共同配送企業のセンターがどこにあるかを参考にするべきだと思います。彼らは私たち以上に消費地の動きに敏感です。マーケティングとして研究し、消費地に対してどうやって物を届けていくかという発想で拠点を構えています。たとえば、ある大手小売企業は日本全国に180から190カ所拠点を持っていますが、各拠点の役割は違っていて、当然理由があってそのエリアに置いているわけです。
更科:ハブ・アンド・スポーク(中心拠点に貨物を集約させ、そこから拠点ごとに分散する輸送方式)でやっていますよね。ただ、小さな拠点を私たちが一個一個作るのは限界があるので、複数のセンターをまとめて、小型のDPLにすれば面白い展開ができそうです。
秋葉:物流センターにもそれぞれ役割があるので、こういう役割のこういう規模感のところまでは大和ハウスでやりましょうといった話も当然あると思います。
更科:今は、コンビニエンスストアやカフェテリアを備えるなど、サービスレベルを上げているマルチセンターが増えています。そういったものを省いたデポであれば、機能を必要最小限にとどめれば、コスト的にも対応できる施設は可能だと思います。さらに、単に省くだけでなくZEB化した倉庫として展開すれば、これも大和ハウス工業の一つの武器になるのではないかと思っています。やはり全国津々浦々にあるのが大和ハウス工業の強みです。他社も同じようなことをやろうとするかもしれませんが、われわれには圧倒的リソースがあり、それを一気に整備する可能性を持っています。
秋葉:ただ、過疎化が急激に進む地域がある中、自治体が一生懸命企業を誘致して、人が流入するように動いたとしても変わりません。そこはどうお考えですか。
更科:大和ハウス工業はまちづくり、インフラ整備をしてきた会社でもあります。そこは課題であり、何か対策を打ちたいところですが、明確な解はまだ持てていません。拠点や建物ではなく物流の切り口で言えば、われわれが事業者になりうるわけではありませんが、そこを支える施設という点ではできることがあると思っています。
秋葉:すべての施設がデベロッパーと使用者だけで完結できるものではないと思うのです。地方を支えるためには、自治体にも加わってもらって生活している人の基盤を残しておかなければなりません。当然、私企業が損失を出し続けることはできません。だからこそ自治体との関係をもう一度つくっていくことも大事です。
更科:大和ハウス工業はさまざまな事業や区画整理をやってきたので、自治体とのパイプもそれなりに持っていて、オファーをいただいたりディスカッションをしたりする機会もあります。先日もある自治体から、市内の小学校と中学校を統合して4~5校を廃校するので、そこをうまく使うために大和ハウスらしい提案はできませんかという宿題をいただきました。
秋葉:面白いですね。最近だと、廃校になった校舎にベンチャー企業や宿泊施設が入っているのを見ますね。建物を壊す費用がかかるからという発想なのかもしれませんが、それだと限界があります。
更科:もう少し生産性のあるもの、あるいは物流も含め、その地域になくてはならないものに転用できるといいですよね。
秋葉:廃校になった学校をどうするかの話は、ある意味で、大和ハウス工業がその自治体に楔を打つような話です。建てて終わりではないということ。20年も経たないうちにリニューアルやリノベーションが発生して、おそらくずっと続いていく。そういった関係をつくっていくのは面白いと思いますね。
更科:今までは「建てる」「再開発する」が大和ハウス工業の生業でした。おっしゃるような「運営する」「維持する」ところは、例えば大和ハウスプロパティマネジメントのようなグループ会社があって、より力を持って増えてきているので、さらに力をつけて頑張ってほしいですね。「運営」はこれからの大事なキーワードです。大和ハウス本体が今まであまり関わってこなかったところですが、これからは必要になるでしょうね。
秋葉:建物だけで考えれば、償却も含めて20年、30年、40年というような話だと思います。しかし、中のコンテンツをどう回していくかを考えると、もう少しショートタームの中で考えていかなければいけないことがたくさんあるでしょうね。
更科:あとは内製ばかりに頼らず、ネットワークを広げて周りに助けてもらってもいいと思いますね。つい自分たちだけで完結しようとするので、どんどん外に出るのもありだと思っています。
秋葉:本当にそう思います。そうした外部との連携も含め、建築事業本部として新しい試みはありますか。
更科:大和ハウス工業は病院やシルバー向けの施設にも力を入れてきました。平成元年にはシルバーエイジ研究所を立ち上げていますし、施設の規模によって事業部の棲み分けもできていて、全体で見てもかなりの数の開発をしています。川崎殿町の「キングスカイフロント」にはメディカルだけでなく、素材や半導体のラボも入っています。コロナ禍の影響でサプライチェーンが切れたこと、BCP対策として外に置いておくリスクなどによって、ラボもまた国内回帰も流れの一つになっています。
それ以外にも、いろいろ広げたものはありますが、それがまだきちんとした形にはなっていません。例えば市場の開発もそうで、固めて現実的なものに応用して広げていけば、また新しいニーズにつながってチャンスが増えていきます。これから一つひとつを形にするのが本部長としての私の役割だと思っています。
秋葉:これまで業界を引っ張ってきたような大企業であっても、この今の大きな変化においては、改革を迫られている企業もたくさんあるのではないかと思っています。
たとえば、ある大手流通企業では、物流施設ではここ十数年にわたって同じオペレーションをしています。これだけ人がいなくなってきて、労働時間を管理しようと言っている中でオペレーションを変えないのは厳しいように思います。おそらく今後は自動化設備を新しいセンターから試していくと思っています。なぜ新しいセンターからなのかというと、既存のセンターは、すでに現在のオペレーションの仕組みがきっちりと回っているため、導入のための時間が取れないからです。
更科:ひと昔前には最先端を走っていたような企業だからこそ、陥りやすいことなのかもしれませんね。
秋葉:そうだと思います。物流の仕組みづくりにおいても、20年、30年前に大きな投資をして、店舗の棚まで管理するようなオペレーションの仕組みを作り上げたような企業だからこそ、その仕組みをずっと活用してきたのですが、現在の労働者不足の時代においては、うまくいかなくなり、ここに来てもう一回SCM(サプライチェーン・マネジメント)全体を見直そうとしています。昔はすごい物流だよなと言われていたわけです。そういう企業はまだまだあると思います。
更科:リーディング企業として卸売企業が引っ張っていくぐらいの感じでしたね。波は繰り返しますから、また次のタイミングも必ずあると思います。
秋葉:ですから、建物だけではなくお客様の動きを見ることが大切です。どのようなニーズがあるか、その瞬間は答えられないかもしれませんが、波がまたくるのだとしたら、そこでやりかけていることがニーズです。それを理解して一緒になって提案したいですね。
更科:大和ハウス工業は他の業界も見ているので、「こういうことはないですか?」といった提案をしたいと思っています。長いお付き合いのお客様が20年の満期を迎えて違う施設に移転するところを、またやらせていただけるのはありがたいことです。まさにリレーションで、当時主任だった方も私も事業を率いる立場となり、その後を部下や後輩たちが引き継いで、その人たちもまた次の世代につないでいく。そういう関係が長く続くと面白いですね。会社が合併したり吸収されたりという驚きもあります。今後もそういったことを繰り返しながら、お客様のために提案を続けていきたいと思います。