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コラム No.27-108

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第1回 ラストワンマイルの新戦略で再配達ゼロを実現大和ライフネクスト株式会社 村上昂佑 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2025/05/02

「マンション内配送サービス」の実証実験を開始

秋葉:村上さんは建物管理の大和ライフネクストの中で、「新領域創造部 事業開発課」に所属されていますが、どのようなお仕事なのでしょうか。ご紹介いただけますか。

村上:大和ライフネクストは、分譲マンションや賃貸マンション、物流施設、寮やホテルなどの建物管理事業を中心とした会社です。マンション管理事業に関しては、約28万戸、約4,400棟の分譲マンションを管理しており、現在もその数を着実に伸ばしています。その一方で、近年は新築マンションの着工数が減少しており、先々を見据えた新たな施策を展開していく必要があります。そこで、私が所属する新領域創造部 事業開発課では、マンション居住者様の潜在的なニーズを引き出し、管理のノウハウを活かしたプラスアルファのサービスを生み出すために、今回紹介する物流事業や、それ以外にもさまざまな事業の開発に取り組んでいます。

秋葉:それは、世の中の流れや人口減少から見ても、建物が次々と建っていく時代ではありませんので、今後どのような領域で収益を上げていくかという話ですね。

村上:そうですね。当社では、分譲マンション管理の総合ブランド「MANSION NEXTYLE(マンションネクスタイル)」において、マンション管理のトータルソリューションを提供しています。お客様のニーズが多様化する中で、よりパーソナライズされた管理を提供するために、幅広いサービスに挑戦しています。
例えば、当社が提供するさまざまな選択肢の一つに、管理員の受付業務を代替する仕組みであるリモート受付システム「Remo_Info(リモインフォ)」というものがあります。人件費の高騰により管理委託費の値上げを要請せざるを得ない状況の中、人による管理とDXを組み合わせて省人化を実現するといった内容です。

今回の実証実験を開始するに至った経緯ですが、分譲マンションでは宅配ボックスの設置や置き配の活用など再配達率削減への取り組みが進んでいます。しかし、「宅配ボックスの空きがない」「マンションセキュリティ内に入れず置き配ができない」ことが再配達の増加につながり、居住者様にとっても「インターホン鳴動から訪問までの待機時間が長い」「宅配ボックスが埋まっていて荷物が受け取れない」といった課題があります。そこで、再配達率の削減と居住者様の利便性向上、この両方を目指す新たな配送の仕組みとして「マンション内配送サービス」の実証実験を始めました。

秋葉:私たちもこの新しい取り組みに参加させてもらっています。

村上:2024年11月に、日本郵便株式会社、ヤマト運輸株式会社、佐川急便株式会社のご協力のもと、「マンション内配送サービス」の実証実験を開始しました。仕組みをご説明すると、マンション管理会社(大和ライフネクスト)が宅配会社の荷物を全住戸分一括で受け取り、マンション内の専用倉庫に納品。この荷物を、宅配会社に代わってマンションの管理員が各住戸に配達するといったものです。

秋葉:大和ハウス工業傘下で、私もかかわっていたSIer(システムインテグレーター)のモノプラスが配送管理アプリを開発しました。「宅配会社からの荷物の受け取り」や「居住者への荷物の配達」の記録をこのアプリで行います。宅配の再配達は運送業界全体の課題で、マンション内も含めて館内配送自体は物流に関わる事業者がやってきました。ただ、これまでの取り組みはあくまでも「物を届ける」ことを分解しているだけで、お客さんのサービスレベルをどうするかというところとは少し距離感があります。管理会社がやったほうが、メリットがあるのではないかということで、今回の事業が始まりました。
実証実験は期間としてどれくらい行う予定ですか。

村上:2024年11月11日から2025年3月までを第1POC(Proof of Concept:概念実証)としています。第2段階の検討、検証が必要なので今後もさらに広げていく予定です。秋葉さんとは、構想を含めると1年半くらいから前からお話しさせていただいています。

秋葉:開始の11月11日を迎えるまで、いろいろあり1年くらい費やしましたね。宅配会社と管理会社、それぞれ目線が違う中での議論、すり合わせになったと思います。議論を重ねる中、最初から比較的合意できたことと、逆になかなか着地点が見出せなかったこともあると思うのですが、その辺はいかがでしたか。

村上:先ほどおっしゃったように、ビル内の館内配送は以前から行われています。ただし分譲マンションではやはり再配達が存在していて、そこに宅配会社の課題がありました。そういった意味では「マンションの中でどう再配達をなくせるか」という議論はお互いにスピード感をもってできたと思います。一括で受け取ることが提案段階で決まって、それを組み立てながらフローを考えました。一括で預かる方法やセキュリティなど、大まかなスキームとどのような流れでやるかというところまでは非常にスムーズでした。
一方で、荷物に対する責任の所在についてはやはり議論になりましたね。荷物の受け渡しによってどのように責任を分けるかを見極める必要がありました。現在は、荷物がマンションに届くまでは宅配会社、そこから先は管理会社の責任といったルールで実証実験を行っています。

管理会社だからこそできること

秋葉:年間で宅配にカウントされる荷物が約50億個と言われています。一方、隠れ宅配と言われて配られている荷物もほぼ同数あります。宅配としてカウントできるのは宅配事業者登録をしている人たちが配っているもので、そうではない荷物とは、例えばアマゾンさんやヨドバシカメラさんが配っているようなものです。この隠れ宅配が宅配とほぼ同数あるので、年間約100億個の宅配があると言われています。
その中で、再配達の回数がどれくらいの比率であるかといったことはよく記事になりますし、配る側からするとやはり再配達は問題なのですが、マンションには、配達ドライバーの滞留時間がどうしても長くなるという別の問題もあります。戸建てであれば不在の判断はしやすいのですが、マンションは在宅かどうか確認するのに長い時間かかってしまう。インターホンで部屋番号を押して、数十秒待って、反応がないから不在と判断する。この繰り返しをして、在宅している人の分だけを持っていく。今は、宅配ボックスに入れてほしい、玄関前に置き配してほしいなど、いろいろな選択肢もありますが、不在であればまた再配達しなければいけない。再配達しても在宅しているとは限らない。これが繰り返されるので、宅配事業者にしてみれば、責任の話はあったとしても、一括で渡したら終わりというのは大きいですね。
大和ライフネクストはラストワンマイルを分解するという考え方で、物流の最後である、ご入居者との接点ポイントを担うところからスタートしています。持ってくる人と受け取る人、どう線を引いて責任を分解するかという意味においても画期的だと思います。

村上:ラストワンマイルのラスト0.1マイルは、これまでやってきた日常管理の部分です。普段からマンションの管理を行う当社だからこそ、居住者様の意見を汲み取ったサービスを設計することができます。

秋葉:管理会社の強みとして具体的にどういったことがありますか。

村上:普段から管理員やフロント担当を通じた居住者様との1対1の接点を大事にしているので、居住者様の声にしっかりと耳を傾け、サービスに反映させることができることですね。当社では「CS(顧客満足度)」を最重要視しているので、お客様にご満足いただける内容にすることがミッションとなっています。

秋葉:そういったことを含めて今回のPOCがあるわけですね。POCをやらせてもらえること自体が、大和ライフネクストという会社が入居者や理事会の方たちときちんとコミュニケーションをとれている証だと思います。会社対会社の商売と対個人のサービスを考えると、当然個人はそれぞれいろいろな考えを持っているわけで、そこに対して何かをするのはとても大変なことです。POCの第一歩が進められたのは、大和ライフネクストの普段の仕事の仕方によるものなのでしょうね。そこで出てきた課題をクリアして、ご入居者も含めて満足度が上がる結果になれば、「じゃあうちもやってみようかな」という人たちが出てくると思います。最初の一歩がいけるかいけないかというのはとても大きいですよね。
また、例えば私がマンションに住んでいて、荷物が届くとき、それぞれの宅配事業者からメールなりLINEなりが来て、会社ごとに都度やりとりをします。これを管理会社がやってくれる。それも「秋葉はどうしてほしいか」を知っている人がやるわけです。双方のロスがなくなるので、これも大きいと思います。

村上:分譲マンションでは、区分所有者全員で構成される管理組合が意思決定を行います。今回の実証実験を実施するにあたり、まずは管理組合の代表者で構成される理事会でご承認をいただき、後日、居住者様全員に向けた説明会を開きました。ご承認いただけたのは、やはり日頃からの関係性があったからではないかと思っています。

秋葉:説明会ではネガティブな意見は出ませんでしたか。

村上:「管理員が重い荷物を運ぶのは大丈夫なのか」というご意見があり、別のスタッフも入ってしっかりとフォローすることをご説明しました。「契約上の日常管理をおろそかにしないでほしい」というご意見に対しても、別のスタッフを配置し日頃の管理業務に影響が出ないようにすることや、マンション管理のお約束を守ることをお伝えしました。ご懸念点に対してはご納得いただけるまで説明することを心掛けました。

秋葉:そこが大変だと思います。それに、大和ライフネクストが入っているのは分譲マンションが多いですよね。賃貸に住む人と分譲に住む人では当然違うところがありますし、基本的には分譲マンションでサービスレベルが落ちるようなことは絶対にあってはなりません。

村上:当社の管理サービスに対する満足度が下がってしまうことが、一番あってはならないことです。一方で今回の実証実験を通じて、本サービスが居住者様に求められるサービスになっていく可能性を感じました。

秋葉:普通の管理だけであればその中でのサービスレベルの話になりますが、違う武器をもう一つ持ったような感じで、それがアンカーになりますね。合意を取ったり、管理のクオリティを保ちながら付加サービスとして行ったりするわけなので、他ではなかなかできません。

村上:そうですね。お客様にとっての付加価値になれば、当社の武器になっていくと思います。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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