
秋葉淳一のトークセッション 第2回 マンション管理が実現する宅配の効率化と新たな運用モデル大和ライフネクスト株式会社 村上昂佑 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2025/05/30
三方良しでラストワンマイルの最適解を目指す
秋葉:今回の実証実験では、大和ハウスグループのモノプラスがシステムを開発しました。モノプラスは物流に特化して仕事をしているわけではないのですが、私自身や周りの人たちが物流に関わることが多く、以前、別の会社で実証実験を行ったこともありました。その会社は管理会社ではないのですが、ラストワンマイルに興味を持っていて、宅配の荷物をどう扱うか、荷物の動き、接点の個数、時間等のデータを取ってデベロッパーに返すようなことをしていました。データをどう作るかという発想ですね。当然そのようなシステムは世の中にありません。今回もそうですが、ラストワンマイルで再配達が課題になっている以上、最終的にはそこで何かしらモノプラスとして得るものがあると見込んで、ある程度投資をしてやらせていただきました。
そういうわけで、ラストワンマイルに関するエンジニアにある程度ノウハウがあり、その後今回のPOCが始まりましたので、ゼロからシステムを作るわけでなく、ゼロからオペレーションを知るわけでもないという状態で、村上さんたちにジョインさせてもらいました。
ただ、以前のPOCはデータを集めるためでしたが、今回はご入居者との接点を増やして管理会社として満足度をどう上げるかがポイントでしたので、目的が少し違います。以前は宅配の配達の延長線上で人を最初から置くという考え方でしたが、今回は管理員さんが配達できるようにすることも含めて考えないといけませんでした。約200戸のマンションに毎日来る荷物は、宅配業者3社合計で平均60から80個あります。管理員さん一人が80個をきちんとご入居者に届けるとなると、結構な時間と負荷が掛かります。最初はそれが想像できません。実際に物理的に物が動いてきて初めて、「じゃあ、こうしなければいけないんだ」という課題感が分かるわけです。そのため、システムはなるべくタイムリーにアップデートできるようにしました。
村上:効率と運用という点で考えると、もともとのシステムは効率が重視されていたと思います。ただ運用しやすさという点で、実際に動かしてみて管理員が困ってしまうようなところは違うシステムに遷移するなど、合理化をさせていただきました。
秋葉:エンジニアからすると面白いですよ。自分たちが作ったシステムがよく見えるところで使われて、現場を見てエンジニアの大変さが分かってもらえて、変えると良くなったり効率化されたりするからすごく楽しい。今回、システム的に効率化を図るため、バーコードを読ませるだけの仕組みを考えました。事業者ごとに伝票が全然違うのですがきちんと読み取ります。
村上:バーコードリーダー1本とってもシステムと連動しているかどうかで違いますね。もともとスマートフォンのカメラでバーコードを読み取っていたのですが、安く仕入れができるバーコードリーダーと連携できるようにしていただいて、それだけで作業速度が5倍になりました。
秋葉:スマートフォンは画像として読み取ってバーコードを認識するのでどうしても時間がかかってしまいますが、バーコードリーダーは赤外線なので一瞬です。5倍速くなれば、荷物80個で全然違います。
村上:システム以外にも効率化のポイントがあります。マンション内配送は、まず管理員が宅配会社から一括で荷物を受け取り、インターホンを鳴らして、居住者様が在宅であればそのまま玄関まで運び、不在であれば宅配ボックスに入れます。本来であれば宅配会社がそれぞれ別々に荷物を運び、不在であれば別々の宅配ボックスに入れるところを、管理員であれば宅配会社3社分の荷物をまとめて運ぶことができ、不在の場合もまとめて1つ宅配ボックスに入れられるのです。また、管理員は普段から居住者様との接点があるので、管理員からの呼び出しであれば居住者様は比較的早く出ていただけるといったポイントもあります。ほかにもありますが、この辺りは特に大きく効率化できたところです。
秋葉:導入から2カ月が過ぎて実際に数字に現れてきましたか。各社まずインターホンを押すわけですから、かなりの時間短縮になったのではないですか。
村上:そうなんです。いずれも当社調べのサンプルデータではありますが、実証実験前は、宅配会社1社あたり平均41分で朝の第1便を配送していました。それが実証実験では平均3~5分になって、かつ宅配会社が来館する回数が大きく変わりました。実証実験前は、時間指定に対応するために1日平均5回、多いと9回ほど来館がありましたが、それが1日平均2回に減少しました。マンション内配送では、時間指定に関わらず宅配会社がその日の荷物をまとめて第1便で持ってくることができるので、あとは冷蔵冷凍便と営業所に遅れて到着したものを午後に配達して、合計2回の来館で済むようになります。
秋葉:さらにこれは1棟だけのお話ですからね。
村上:今後近隣のマンションに事業を広げていくことができれば、宅配会社にとってはさらなる効率化につながり、私たちのビジネスも広がり、居住者様にもメリットがある。実証実験を通じて三方良しのサービスにしていきたいと考えています。
管理員の所得を増やす方法を探る
秋葉:この取り組みを考えたのは、ひとつは再配達の問題が大きかったのですが、もうひとつあって、管理員さんの所得を増やす方法にならないかと考えたこともあります。管理員さんのお給料はご入居者が払う管理費の中から出ます。住んでいる方は「サービスのクオリティは上げてほしい」と言う反面、管理費が上がることには抵抗を持つ方も少なくありません。しかし今後人手不足になっていく中で、管理員さんの給料を上げていかないとどうしようもありません。管理費以外の別の財布を準備する必要があるわけです。マンション内の配送をすることで、1個当たりいくらになるか分かりませんが、別の財布が用意できるのではないかと思いました。
村上:これまで管理員の仕事は60歳の定年を迎えたあとのセカンドキャリアとして選択されてきたのですが、人手不足が叫ばれる中で各企業が定年を引き上げていることから、管理員の採用難は当社のみならず業界全体の課題となっています。だからこそ、管理員の給与を上げて、仕事の価値をより高めていきたいと考えています。
秋葉:本当に給料を上げられるかどうか議論を重ねました。宅配会社と管理会社、双方にメリットがあることで「今まで誰もやっていないことだからやりましょう」という意義ができました。
村上:実証実験の結果もだんだんと出てきているので、今後が楽しみです。ニュースリリースが出てから、想定以上にさまざまなメディアでも取り上げてもらい、期待値の大きさを実感しています。電車内のビジョン広告に自分が映っているのを見て驚いたりもしました(笑)。
宅配の効率化と居住者満足度の向上を両立
秋葉:POCは3月末までが第1フェーズということでした。11月、12月頃は加速してさまざまなことをやってきて、課題を出しては潰すという繰り返しだったと思います。最初はバタバタしながらやってきて、少し引いて考えてみると、もう少しこうしないといけないとか、ご入居者の意見も出てくるじゃないですか。
村上:11月、12月は荷物量が多い時期だったので、その量に対応できるように運用を変え、どの方法が最適なのか見つける良い機会でした。この2カ月で運用がしっかり固まり、大きなトラブルもなく、居住者様からも便利になったという声が聞くことができ、居住者様にもメリットがあると思っていただけたと感じました。そこで1月に改めて理事会の場で実証実験の継続をご相談し、ありがたいことにご承認いただくことができました。今は、再構築したフローで問題ないかどうかの検証期間、つまり第1POCの第2フェーズとして位置付けています。
秋葉:改善した点はありますか。
村上:管理組合と協議のうえで置き配を実施することになりました。置き配の実施可否については管理組合の判断になるため、POC実施マンションにおいては、美観を損ねることや火災時等の避難経路の妨げになることから置き配をしないという決まりがありました。ただし実際には、居住者様が注文時に置き配を指定することもあり、ルールと矛盾がある状況でした。そこで、部屋タイプごとに荷物の置き場所を決めるなど、安全を確保するためのルールをしっかりと整備したうえで置き配を実施することで、宅配業者も、ご入居者も、管理組合もそれならいいよねと合意できました。その結果、配達効率も大きく上がりました。
また、管理員がインターホンをどこから鳴らすのかについて、エントランスと管理事務室の両方のパターンを検証しました。結果、管理事務室からだとすぐに管理員だと分かって安心だという声が多く、現在もその運用で続けています。
秋葉:同じ他人でも、近しい他人とそうでない他人という感覚の違いはあると思います。大和ライフネクストの常日頃のお仕事のされ方もあって、そういう意味ではすごく良いのでしょうね。困ったときはその場で管理員さんと会話をしてもらって、それを課題として整理することもできます。管理員さんからはどのような意見がありましたか。
村上:居住者様と1対1の接点はこれまでもありましたが、フェイストゥフェイスでお話しできる機会が増え、お一人で暮らしているご高齢の方などの安否が確認できるようになった、居住者様と新たなコミュニケーションが生まれたといった前向きな声を聞けています。お客様との接点が増えることは、日常管理にもメリットがありました。
秋葉:分譲マンションは住み続ける人が多いので、本当の意味でのコミュニティです。その中に管理員さんが入り込めるということなのでしょうね。賃貸住宅だと定期的に人が変わっていくので、また少し違うのだと思います。
村上:管理事務室の受付カウンターでも荷物をお預かりすることができるので、その場合は居住者様が帰宅したときに対面で「荷物がありますがお持ちしましょうか?」とお声がけをしています。大きくて宅配ボックスに入らない荷物は管理事務室で保管するなど、宅配ボックスと使い分けています。
秋葉:面白いですね。けっきょく配る側ではなく、受け取る側の話だということですね。
村上:管理会社は荷受けとしての位置付けなのだと思います。今回、モノプラス様による既存システムのカスタマイズを含むサービス構築の取り組みに、国土交通省の補助金を活用させていただくことができました。置き配によるポイント還元のように間接的に再配達を削減する施策が多い中、この取り組みは直接的に再配達がゼロになる施策であると評価いただけました。