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コラム No.27-114

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第1回 「人」と「ちょうどよさ」で育てるパルのブランド文化株式会社パル 取締役 専務執行役員 堀田 覚 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2025/12/16

パルのブランドづくりと企業文化

秋葉:本日は、総合アパレル企業パルの堀田さんにお話を伺います。2024年、パルさんのECサイト「PAL CLOSET」の物流拠点として、「PAL CLOSET Robotics Solution Center」がDPL平塚内に開設されました。厚木の旧センターから移転し、新たな物流オペレーションシステムを構築されています。最初にパルさんの事業紹介からしていただけますか。

堀田:パルは1973年に大阪で創業した、ファッションと雑貨を扱う会社です。現在は約60のブランドを展開しており、「3COINS(スリーコインズ)」も含め、そのほとんどが自社開発したブランドです。当社には社員が手を挙げてブランドを立ち上げる制度があり、マーケットを狙ってつくるのではなく、等身大の社員が良いと思うものを形にしています。プロダクトアウトで市場に商品を提供するというよりも、マーケットイン型でお客様が望んでいるものを消費者の感覚で届けるのがパルの大きな特徴です。ポートフォリオについても、ファッションという領域であれば、本人にやりたい意欲があってマーケット性があるならやりましょうという方針です。

秋葉:とすると、給与体系もフレキシブルになっているのですね。

堀田:パルには、「はたらきに応じて平等」という言葉があります。これを成果主義と言ってよいかは分かりませんが、そのような制度を導入しています。私たちのような部隊では適用するのがなかなか難しいのですが、ショップの販売スタッフであれば個人売上、店長であれば店舗売上、ブランド本部であればブランドの経常利益の数値を測って評価を行う、弾力性のある給与体系を採用しています。成果を上げた人はしっかり報われる仕組みです。

秋葉:年齢も関係ないのですか。

堀田:まったく関係ありません。年功序列という考え方が好きではないので、能力主義、実績主義を徹底しています。結果としてついていけずに辞めてしまう人もいますが、逆にそういうテンションの人たちだけが残るので、社内には活気があります。誰かが言ったことを実現させるのではなく、自分たちで考え、行動する。パルにはそうした企業文化が根付いています。

秋葉:社員の方が手を挙げて事業化する際は、どのように判断されるのですか。

堀田:判断基準はいくつかあります。「それではビジネスにならない」という客観的な判断をすることもありますが、ファッションにはある意味で隙間を突いていくような側面があります。自分たちの提案から新たなマーケットが生まれることも多く、要するにシェアビジネスではないわけです。もちろん事業性の判断は行いますが、創業者の井上は「人を見る」ことを大事にしていました。頭の良さというのではなく、「この人はやり切れるか」「ポイントを押さえているか」「この人に任せていいか」といったところを確認していました。人に投資して事業をするというより、投資先が60個あるような感覚だったのだと思います。

秋葉:その方法だと事業展開のスピードも速そうですね。

堀田:先ほどお話ししたように、当社ではマーケットインという考え方を軸にしています。会社が大きな絵を描き、そこに向かっていくというより、つねに変化していくことを是としています。

秋葉:60ブランドも展開されているのですね。

堀田:大きなブランドを抱えている企業の場合は、ほかのブランドがあっても、同じ箱の中にある限り、ユーザーからすると、それらの違いはそれほどないと思うのです。一方、パルのブランドはそれぞれ独立したお店で展開しているので、お客様からしたらまったくの別物です。完全に60個の事業体が完結している。これが大きな特徴です。ただし、逆に分散しやすいという弱みにもなり得るので、そこが弱みにならないように普段から考えています。

秋葉:面白いですね。まさに投資です。

堀田:集中投資ではなく分散投資ですね。分散投資の良いところもあれば悪いところもあるので、課題をどうやって消していくかをつねに考えています。ブランドの規模もさまざまで、数億円レベルのものもあれば、3COINSは2025年には800億円近くになる見込みです。

秋葉:今や商店街を歩けば3COINSがあるような感じですよね。

堀田:新型コロナウイルス感染症が収束する頃から出店を増やしていって、現在では約400店舗です。3COINSも社内で生まれたブランドで、大阪茶屋町の10坪、20坪ほどの小さな商店から始まりました。パルはスクラップ&ビルドでブランドをつくってきましたが、ブランドの立ち上げで大げさなことは一切しません。オープンしてうまくいったらどんどん増やしていく。見栄を張らず、実利を取りに行く。大阪の会社ということもあって、ファッション企業でありながら浪速の商人感が強くあると思います。

秋葉:新しいブランドを立ち上げるとき、手を挙げた人は当然責任を持つとして、そこに参加するメンバーも自ら手を挙げるのでしょうか。

堀田:手を挙げて行くこともあれば、責任者が探して連れて行くこともあります。自分のところに連れて来られるか、そこをどうしていくかの見極めも含めて本気度を測っています。

秋葉:なるほど。それもその人の力量ですね。

堀田:そうですね。30代なら普通かもしれませんが、20代でも果敢に挑戦する人がたくさんいます。

着実で「ちょうどいい」パルのビジネス戦略

秋葉:今日は堀田さんと「人」についての話をしたいと思っています。

堀田:人の話しかありません。正直、アパレルで明確に差別化をするのは難しいです。ECのロボティクスやAIといった技術的な差はありますが、私たちはそこで飯を食っている会社ではありません。本質的にはやはり「人がどう働いているか」がカギになると思います。

秋葉:人には、働く人のほかにコンシューマーもいますよね。お話の冒頭にあったように、多種多様なお客様の目線にどう対応していくか。ブランドであれば、世の中やニーズが変われば新しいブランドを立ち上げることもできますが、物流は日々動かしながら変化させていかなければなりません。そうなると、荷主としてどこまでをマネジメントし、委託先にどこまでやってもらうかという点において、実は人の要素が非常に大きいと思います。企業として、あるいは堀田さんご自身はどのように考えて進めていますか。

堀田:これは物流に限らず、何がコアコンピタンスなのかという話だと思います。お客様に良い商品を届け、魅力的な提案をするのがパルの本質であり、差別化できるのはそこだけです。それを担うのがブランドやプロモーションであり、そこ以外をすべて内製化するという考えはあまりありません。自分たちで人を雇って、すべてをマネジメント、コントロールするのではなく、得意な会社と組んで一緒にやっていくことが重要です。ものづくりでも商社やOEMのメーカーと組みますし、ECでもシステムをすべて内製するのではなく、ECベンダーをはじめ多くの会社と協業し、その会社が生かせることと当社がやりたいことの最適化を目指しています。そこのプロフィットを取るよりも、われわれは究極のリテーラーでありたい。良い商品をつくり、お客様に喜んでもらうことに特化したいと考えています。

秋葉:パルさんのビジネスの本質ですね。一見、多様な取り組みをされていますが、実は、「究極のリテーラー」を目指して最適化を図られています。

堀田:物流においても、「ちょうどいいところで物事を回す」ことを肝と考えています。この「ちょうどいい」というのはバランスの話で、過剰な投資をしないことも「ちょうどよさ」につながります。タイミングを見極め、ここだというときに一気に動く機動力は問われますが、ビッグピクチャーを描いて、無理かもしれないのに突き進むのは「ちょうどよくない」。そういうやり方で成長する企業もあるので否定はしませんが、パルはつねに最適化しながら着実に前に進んでいくほうが体質的にも合っています。

秋葉:「ちょうどよさ」は単に中庸というより、投資やスピード感とのバランスなのですね。

堀田:先ほど成果主義の話をしましたが、「今は赤字だけど成果主義だ」とは言いづらいですよね。確実に収益を出し、それを原資として皆に配る。この考え方から、「着実さ」と「ちょうどよさ」を重視して、取引先とも話し合いながら進めています。ただし、これは丸投げとは違います。プロセスを理解し、そのビジネスの要諦を捉えていなければ「ちょうどよさ」は分かりません。そのためにはパートナーに胸襟を開く必要がある。「われわれは客で偉い」ではなく、「一緒にやっていく」という感覚が強いですね。

秋葉:業務やプロセスを理解しているからこそ、その中での「ちょうどいい」を探せますが、分かっていなかったらちょうどいいも何もないですよね。

堀田:そこがポイントで、理解するためには貪欲に知ろうとするべきです。ただし、全部を自分たちでコントロールするのが適正だとは思いません。その企業には目指す未来や得意なことが必ずあるはずです。われわれがやりたいこととその企業が行きたい方向性が合っているか。ここが合っていなかったらそもそも難しいので、この確認は非常に重要です。

われわれのビジネスも物流も、事業として成り立つことは当然の前提です。だからといって、われわれのやっていることすべて秘密にしたいとは考えていません。例えば、PAL CLOSET Robotics Solution CenterではExotec社のSkypod(自律走行型のロボットピッキングシステム)を導入していますが、Exotecさんが良くなっていけば、われわれにも必ずリターンがあるはずです。これは金銭的なリターンというより、仕組みが良くなってブラッシュアップされていくことに大きな意味があるのです。自社だけで閉じるより、一緒に成長していきたい。そこはかなり意識しています。今後も物流のロボット事業に乗り出して利益を得ようという考えはまったくないですし、お客様に届けた商品の売り上げでビジネスをするほうがぶれないと思っています。

秋葉:堀田さんたちはやりたいことがはっきりしていますよね。ここ数年で、「CLO(Chief Logistics Officer:物流統括管理者)を置きなさい」「高度物流人材を育てなさい」と言われるようになりました。やりたいことを知ろうとすれば、そうした人材が育ち、パートナーとの間で良い感じの責任分担ができているはずです。しかし、それができてない会社が圧倒的に多い。「CLOを置きなさい」というのは、役職を置くことが目的ではなく、企業としてロジの中で責任を果たすように言われているわけです。だとするとその人1人ではできないので、当然周りを固める人が必要です。さらにパートナー側にもそういう人が必要で、会話ができる状態をどうつくるかという話なのに、そこがまったく抜けていますよね。

堀田:抜けやすいですね。今はやりのCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)とか、あちこちで同じようなことが起きています。プロっぽい人を外から連れてくるけれども、事業理解ができていないので他社での成功例が自社にフィットしない、コストが課題になる。そういった話はけっこうあると思います。

秋葉:多分昔からあったことです。ここに来て、CLOを置け、高度物流人材だと言いだしたのは、現場の人材不足が明確になってクローズアップされているだけだと思います。

ここで改めて伺いますが、パルさんのように「ちょうどいい」を実践するためにはどうすればいいのでしょうか。これは、私が今日の対談でお聞きしたかったテーマです。

堀田:そこをどうしていくかは自由だと思いますね。ただ、「周りがロボットをやっているから、うちも後追いでロボットを入れよう」というのは違います。今ある課題を潰せる最適なソリューションがロボットなだけで、順番が逆になってはいけません。とはいえ矛盾するようですが、さまざまなテクノロジーが登場しテクノロジーファーストの時代になっているので、そのテクノロジーでどんなことができるのか、ビジネスの中である程度触れて経験しておかないと見えないこともあります。だからこそアンテナを張って、リスクのない範囲で試しておくことが大事です。そうしないと「ちょうどよさ」は分かりません。

秋葉:想像して、さらに経験する必要があるのですね。

堀田:経験しないといけないですね。われわれも物流に限らず、さまざまなテクノロジーをなるべく試そうと思っています。ただし、それは必要なことだけど目的ではありません。あくまで「お客様に商品を届けるための最適」がゴールにないと意味がないのです。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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