コラム No.27-115秋葉淳一のトークセッション 第2回 人材育成とWin-Winの協業が支えるパルの成長力株式会社パル 取締役 専務執行役員 堀田 覚 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2025/12/16
「分かる」人材の採用と育成

秋葉:最近、デジタル化やロボットを投入したセンターを見たいという声をよく聞きます。それ自体は良いことですが、「あなたの会社、あなたのセンターにおいて、どのようなことをしたいから見たいのか」という視点なしに見学しても意味がないのではないかと思っています。
堀田:見るだけであれば、展示会に行けば済む話ですよね。
秋葉:堀田さんたちのようにやりたいことが分かっている人たちは、道具をどう使うかという議論ができます。目的を理解している人がいるから、活動ができる。そもそもこの分かる人をどうつくっていくのか、あるいはどう採用するのかという議論をしなければ、いつまでたっても本質的な効率化や生産性を上げていくことができない会社のままだと思うのです。
堀田:そこは難しいポイントです。特に日本の会社は、新卒や中途で入るとき、企業文化が非常に分かりにくい。例えば承認プロセスで、「実は、この人に話す前にこの人に話しておかなければいけなかった」とか、難解なルールがわりと横行しています。私はパルに来る前に外資系企業にいたことがあって、外資系にもそういうことはあるのですが比較的分かりやすい。ポジションごとに前提となる定義があり、干渉すべき範囲やレポートの粒度もある程度決まっています。日本の会社はそれがない。CLO(Chief Logistics Officer)と言いながら、物流の作業をやる場合もあれば、経営改革の中心人物として置かれる場合もある。この曖昧さがまず難しいポイントだと思います。ただ、そう言っていられない日本の事情もあるとは思うのですが。
秋葉:曖昧だからこそ、人材の採用や育成がますます重要になってきますね。
堀田:分かる人をどうつくっていくかという点では、「採用」と「育てる」は別の話です。「採用」の話から先にすると、採用する人が任せることを決めて、丸投げしないこと。少し露払いしてあげないと動けません。私のときは何の説明もなかったですが、それでやれる人は少ないと思います。会社に入って、さまざまな手段を駆使して相手を見ながら仕事をするのは、ある意味特殊な力が必要ですし、それに頼って突破していくのは時間の無駄です。だからこそ、採用した人が余計なことを露払いしてあげたり、ポイントをしっかり教えてあげたりしないと、変なところでつまずいてしまいます。

秋葉:時間もストレスもかかりますよね。
堀田:時間をかけて考えて提案したのに、「そこじゃない」と言われてしまう。よくある話です。そこは上の人の仕事だと思います。言い方は悪いかもしれませんが、優秀な人も使い方次第で、それをうまくできるかどうかです。日本の会社では、うまくいっていないケースが多いと思います。結果が出なくても様子を見ているだけだったり、言い訳が先にきたりします。あるいは、情報がうまく入らない。そこには妬みの構造があるのか分かりませんが、「同じ釜の飯を食ってきていない」という声が出たりすることもあります。
秋葉:情報を非対称に伝えるとか、やりがちですよね。
堀田:そんなことをしていたらダメで、やはりそこを意識できる人が必要です。そうでないと採用もうまくいかないと思います。
次に、「育てる」という話です。テクノロジーにせよ何にせよ、社内でやっていかなければいけないことが昔よりも増えている気がします。例えば製造業なら、ものをつくって、お店を出して、そこに置けば、ある程度ビジネスは回っていましたし、広告は代理店にお願いしていました。今はそういう時代ではなくなってきています。SNSや新しいテクノロジーの登場によって、自分たちが代理店や物流の仕事をやることまではないにしても、その接点は急激に多様化しています。そこに向き合える人材をどう育成するか、ということなのだと思います。
最初は専門的な知識がないのは仕方ありません。専門的な会社を選択する目、ちょうどいい会社を選ぶ目は当然ないので、これもやはり上のリーダーの仕事だと思います。そこをうまく見つけて、良い座組みをまず組んであげることが大事です。そこがずれてしまうと、すべて相手の言いなりになってしまいます。「利用者の方がこう言っているので」というひと言で、すべて解決されるのもおかしな話です。それって本当にそうなのか、もっと良い方法はないのか。そういったことがたくさんあるはずです。
世の中のほとんどのことは、神がかりではなく理屈でできています。ポイントを押さえて当たり前に進めれば、ほとんどの仕事は進んでいくはずで、その当たり前を学ぶ期間が必要です。大事なのは、そのビジネスにおいて何が重要なのかを知っておくことです。お客様が喜ぶこと、利益が残ること。究極、僕はその2つを満たしていればいいと思っています。だからこそ、そこが見極められるかが重要です。それはお客様が喜ぶことか、無駄なことはしていないか、間尺に合っているか。この感覚さえあればそんなにずれないと思います。
内製化とパートナーとの協業

秋葉:お客様の満足と利益、この2つを見極められるかどうかですね。
堀田:間尺は慣れれば分かってきますが、お客様を理解することは事業理解そのものにつながります。この事業理解ができているかどうかで、その後の「ちょうどいい」を見つける目も変わってきます。なので、内製化するのであれば、下から育てていったほうがいいと思います。本当の技術者、本当の専門家は必要ですが、それより大事なのは、そこを支えるメンバーが事業を理解していることです。どうしたらお客様が喜ぶのかという、そこのちょうどよさが分かっている人が、「じゃあ、こういうソリューションのほうがいいんじゃない?」と言えることが重要です。
秋葉:そういう人が社内にいて、それぞれの分野で強いパートナーが良い感じで集まって、役割分担をして進めていくと、スピードも速いし、効率的だし、良いものができていきます。
堀田:社内には専門家が必要ですが、ただ、そこばかり揃えても仕方ありません。それをやってしまう会社もあって、外で実績を積んできた人を集めて外からの人だけの部隊を組成しても、それぞれがスタンドアローンで仕事をしてしまって、うまくいかないこともあると思います。
秋葉:瞬間的な目的に対応する部隊を集めても、その目的が達成された後にまた散っていくこともありますよね。そうなると結局、その経験やリソースが中に残らない。
堀田:そういう問題はたしかにあると思います。
秋葉:中で育てて、ある程度の期間就業してもらうことで、企業文化がつくられていく、カルチャーができていくのだと思います。そのカルチャーに溶け込めるかどうか。そして、そのカルチャーの真ん中に何があるかというと、先ほど堀田さんがおっしゃった「お客様はそれを求めていますか?」ということだったりします。
堀田:あとは、先ほど言ったように接点が多様化し増加することで、自部門のことしか考えない「タコツボ化」と言われる現象が起こったりします。「タコツボ化」をジョブローテーションで解消する方法もありますが、私はそればかりやっていても仕方がないと思っています。専門家ではない人たち、評論家のような人たちがどんどん増えてしまうのも違う気がします。究極的には、得意なこと、好きなことをやるべきで、手を挙げた人が手を挙げたことをやっていくのが原則だと思います。とはいえ需給があるので、ポジションがなかったり、タイミング的に難しかったりもしますが、基本はそうしていくのがいい。そのほうが人は成長します。
秋葉:たしかに、得意なこと、やりたいことに取り組むことで人は成長しますよね。成長と同時に、事業全体をどう理解するかが問われますね。
堀田:事業理解は、お客様のことが分かるというだけではありません。社内のつながりやビジネス全体のつながりが分かるということでもあります。ですから、その情報を取ることはかなり意識しています。物流のことだけ考えていればいいわけではない。目的は物流最適ではなく、お客様最適、事業最適です。
事業は今どうなっているのか、そもそも事業の調子は良いのか悪いのか。そういったことを肌感で分かっていないとおかしくなってしまいます。例えば、客数が増えているといっても、新規客が増えているのか、既存客のリピートなのか。それによって組み立ても変わってきます。その辺をしっかり把握できるように、全体横断で情報を共有しています。そこからどう拾っていくかは個々の力量や意識の持ち方によって変わりますが、「誰が何をやっていて、誰に聞けば分かるのか」くらいは分かるようにしておきたい。「これ、誰に聞けばいいんだっけ?」を解消するために、情報共有をなるべく心がけています。

秋葉:社内での共有に加えて、社外のパートナーとの協働も欠かせません。いろいろな会社さんとパートナーシップを組むことは、ある意味リソースの最大化だと思っているので、僕もそういう仕事の仕方をしてきました。そこで大事になるのが、周りの人たちとのコミュニケーションをどう取るかです。社内で優秀でも、周りのパートナーときちんと仕事ができなければリソースを活かせません。そこは意識されていますか。
堀田:われわれがやりたいこととパートナーがやりたいことがWin-Winになっているかが重要だと思います。
秋葉:Win-Winであれば向かう方向の違いがそれほどありませんね。
堀田:違わないし、その後のズレも少なくなります。ただし会社は変化していくこともあるので、そのタイミングで分かれることもあるかもしれません。それはお互い仕方ないことだと思っています。また、僕がすべてのパートナーさんとつねに向き合っているわけではなく、皆に任せていくことになります。そのとき、目的をしっかり理解して、どういう範囲でどういうふうにやってもらうかをある程度決めておかないと、無茶苦茶になってしまいます。そこの整理だけは意識するようにしていますね。
あとは、あまりそれだけに捉われるのは好きなことではありませんが、いわゆるKPIを設定して、その数値をしっかり見ていけば異変に気づきやすくなります。そこはしっかり押さえつつ、それ以外のことは、「普通に考えれば分かるはずだよね」という感じで、信頼してやってもらっています。
秋葉:すべて指示して、言われたことだけやる人をたくさん置いても仕方ないですしね。
堀田:こちらのリソースがもちません。
秋葉:考えて、ある程度の幅の中で行動してくれる人が必要です。
堀田:そうですね。合目的というか、目的と合っていることは重要ですが、それ以外の細かい話はまた別です。提案するにしても、最終的にそれが良いのか悪いのかは、やっている本人たちの肌感が一番頼りになります。






